横浜地裁で日通が勝訴、5年ルールと雇い止めについて
2021/04/05   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

流通大手「日本通運」で有期雇用で働いていた男性(40)が5年ルールによって無期契約に転換できる日の直前に雇い止めをされたのは不当であるとして同社を訴えていた訴訟で先月30日、横浜地裁は雇い止めを適法としました。原告は契約内容を十分認識していたとのことです。今回は労働契約法の5年ルールと雇い止めについて見ていきます。

事案の概要

 朝日新聞の報道によりますと、原告の男性は2012年9月から日通川崎支店で派遣社員として勤務し、2013年7月から1年契約の契約社員として同社に直接雇用されたとされます。男性は4回契約を更新したものの、2018年6月に契約を打ち切られたとのことです。雇用契約書には「更新限度が18年6月30日までの5年」と記載されていたとされ、男性はルール逃れで不当であるとして提訴しておりました。

無期転換ルールとは

 2013年4月1日に施行された改正労働契約法18条では、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者は無期労働契約への転換を申し込むことができることとなりました。適用されるのは2013年4月1日以降に開始した有期労働契約となっており、2018年4月に最初の無期転換権が発生したことになります。2013年4月1日以前に開始した有期雇用契約は通算契約期間には含まれません。長く更新を繰り返している有期雇用労働者が安心して働き続けることができる社会の実現が目的と言われております。無期転換後は就業規則等で別段の定めがある場合を除き、それまでの勇気労働契約時と同一の労働条件となるとされます。

雇い止め法理とは

 労働契約法19条によりますと、過去に反復して有期労働契約が更新され、実質的に無期労働契約と言える場合、または労働者が契約更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合には、使用者が更新拒絶することが「客観的に合理的な理由を欠き」、「社会通念上相当」と認められない場合は更新申し込みを承諾したものとみなされます。更新への期待に対する合理的な理由の有無については、最初の契約時の説明等や契約満了時までのあらゆる事情が総合的に勘案されるとされております。基本的に更新される旨説明されていた場合や、長く働いて欲しいなどと言われていた場合などがあたります。

具体的要件

 上記のように雇い止めが適法となるためには「客観的合理性」と「社会通念上相当性」が必要とされます。勤務態度不良や健康悪化、職務不適格や不正行為などがある場合には肯定される場合が多いと言われております。(東京高裁平成24年11月29日、大阪地裁平成14年12月13日等)。能力不足を理由とする場合には勤務評価が適切に行われたのかがかなり綿密に審査されるとされており、雇い止めが違法とされた裁判例も少なくありません(東京地裁平成26年7月29日東京医科歯科大学事件、岡山地裁平成13年5月16日チボリジャパン事件等)。

コメント

 本件で横浜地裁は、雇用契約書に更新限度が5年と記載されており、5年を超えて労働者を雇用する意図が無い場合に、当初から更新上限を定めることは直ちに違法とはならないとした上で、原告は内容を十分に認識していたとして雇い止めを適法としました。更新を期待するについての合理的理由が認められなかったものと考えられます。以上のように現在では契約社員、派遣社員、パートなどの有期雇用では更新により通算5年を超えると無期雇用への転換を申し入れることができます。また更新を期待する合理的理由がある場合には簡単には雇い止めができません。当初から無期雇用する予定がない場合は、雇用の際に十分に説明した上で、雇用契約書に上限を記載しておくなど無用なトラブルをあらかじめ予防しておくことが重要と言えるでしょう。

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