火力発電所訴訟で住民側敗訴、環境アセスメントとは
2021/04/01   コンプライアンス, 環境法務, 民事訴訟法, その他

はじめに

神戸製鋼所が神戸市内で進めている火力発電所の建設をめぐり、同社の環境影響評価(環境アセスメント)を認めた国の確定通知は違法であるとして住民らが取り消しを求めていた行政訴訟で15日、大阪地裁が請求棄却していたことがわかりました。住民側は控訴したとのことです。今回は大規模開発などで必要となってくる環境アセスメントについて見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、神戸製鋼所は現在、関西電力への売電目的で神戸市灘区に石炭火力発電所を2基増設中とされます。出力は130万キロワットで2021年から順次稼働予定とのことです。これに対し周辺住民らはCO2や微小粒子状物質「PM2.5」の排出による環境への評価が不十分であり、同社が策定した環境影響評価に対する国の「適正」とする通知が違法であるとして、通知の取り消しを求める行政訴訟を大阪地裁に提訴しておりました。

環境アセスメントとは

 環境影響評価(環境アセスメント)とは、発電所や飛行場など環境に与える影響が大きい大規模開発事業を行う際に、事前に環境への影響を調査し、評価して公害等を防ぐことを目的とした制度です。環境アセスメントは法律によるものと、自治体が制定する条例によるものの2種類が存在しております。環境影響評価法は平成9年に制定され、手続きなどが規定されております。対象となる事業は、道路、河川、鉄道、飛行場、発電所、廃棄物最終処分場、埋立、土地区画整理、住宅市街地開発、工業団地造成、新都市基盤整備、流通業務団地造成、宅地造成の13事業となっております。さらにそれぞれの規模に応じて必ず環境アセスメントが必要な第一種事業と、個別に必要かを判断する第二種事業に分けられております。

環境アセスメントの手続き

 環境アセスメントの手続きは大きく分けて、配慮書の手続き、方法書の手続き、準備書の手続き、評価書の手続き、報告書の手続きの5段階に分かれます。配慮書とは事業の早期段階で環境保全のために必要な配慮について検討しまとめたものです。地域住民や自治体、主務官庁の意見を取り入れることが求められます。方法書とはどのような項目についてどのような方法で調査・予測・評価をしていくのかという計画を示したものです。自治体等に送付し、一般にも1ヶ月間公開されます。準備書とは調査・予測・評価・環境対策の検討結果を示し事業者の考えまとめたものです。準備書に対する自治体や住民の意見について検討し、必要に応じて内容を見直して評価書を作成します。工事に着手した後も調査等を行い、工事終了後にまとめたものが報告書です。

環境アセスメントと訴訟

 環境アセスメントに対してはこれまでも住民等により多くの訴訟が提起されてきました。事業者の策定した環境アセスメントに問題があり、それに基づく国や自治体の許認可等の取り消しを求めるものや環境アセスメント自体に対する国の評価、また環境アセスメント自体のやり直しを求めるものなどその態様は様々です。鉄道の高架化による騒音評価の不備を理由に国の認可を取り消した裁判例もあります(小田急訴訟東京地裁平成13年10月3日)。また地方自治法に基づいて、問題のある環境アセスメントに基づく公金支出等の是正を求める住民訴訟が利用されることも多いとされます(地方自治法242条の2)。いずれの訴訟も住民側が勝訴することは容易ではなく、取消訴訟ではそもそもの前提として原告適格が認められるかという大きな難関があると言われております。

コメント

 本件で大阪地裁は、神戸製鋼所が出した環境アセスメントについて「適正」と判断したことは、裁量権の範囲を逸脱したとはいえず、違法とは言えないとして住民側の請求を退けました。国や自治体の行政処分等に広範な裁量が認められる場合は、その範囲を逸脱または濫用したと認められないと違法とはならず、本件でも裁量の範囲内と判断されたものと考えられます。以上のように一定の大規模事業では環境アセスメントの実施が求められており、周辺住民等への説明や意見の取り入れが必要となります。また住民から様々な形で訴訟が提起されることも多いと言えます。どのような手続きが必要か、またどのような訴訟が提起されうるかを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。

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