公取委が運送会社に勧告、消費税転嫁特措法について
2020/12/17   税務法務, コンプライアンス, 租税法, 税法, その他

はじめに

トラック運送会社「カトーレック」(江東区)が2014年の消費税増税以降、下請け業者への業務委託料に増税分を反映させていなかったとして公取委から再発防止の勧告を受けていたことがわかりました。未払い分は計約8000万円に登るとのことです。今回は消費税転嫁特措法の規制を見直して行きます。

事案の概要

 公取委の発表によりますと、貨物運送事業を営むカトーレックは荷主から請け負った配送業務について個人事業者や資本金3億円以下の事業者に配送業務を委託していたとされます。その際同社は委託先業者への報酬を税込み報酬単価に配送個数等を乗じて支払っておりました。消費税が5%であった平成26年4月以前、8%となった同年4月以降、そして10%となった令和元年10月以降も税込み報酬単価は110円のままであり税抜本体価格は104.76円(5%時)、101.85円(8%時)、100円(10%時)と事実上引き下げられてきたとのことです。公取委は買いたたきに該当するとして勧告を出しました。

消費税転嫁特措法による規制

 一般的に消費税が増税されると消費者の購買意欲は減少します。そこで小売業者等は増税前の価格に据え置いたり増税分値引きして購入を促すといった販促がなされます。その値下げ分は納入業者は下請け業者に負担を強いて、本来消費者が負担すべき増税分を負担させるということが見受けられますそこでそのような行為を規制して適切に消費税を転嫁することを目的に消費税転嫁対策特別措置法が制定されております。以下具体的に規制内容を見ていきます。

対象事業者

 消費税転嫁特措法の対象となるのは、いわゆる買い手側である特定事業者と売り手側である特定供給事業者です。特定事業者とは大規模事業者、または特定供給事業者から継続して商品または役務の供給を受ける事業者を言います。そして特定供給事業者とは、大規模事業者に継続して商品または役務を提供する業者、または資本金が3億円以下の事業者か個人事業者を言います。つまり立場が強い側が特定事業者で逆に立場が弱い側が特定供給事業者です。基本的に本特措法は強い側を規制の対象としております。

特定事業者の禁止事項

(1)減額、買いたたき

 3条1号では特定事業者の減額や買いたたきが禁止されております。減額とは商品または役務の対価の額を事後的に減額することにより消費税の転嫁を拒否することをいいます。そして買いたたきとは対価について通常支払われる対価よりも低く定める行為を言うとされます。単価を一律に引き下げて増税前よりも安い価格に設定する行為などです。なお原材料価格が客観的に下落しており、当事者間の事由な価格交渉の結果価格を引き下げた場合など「合理的な理由」がある場合は該当しません。

(2)商品購入、役務、利益提供の要請

 消費税の転嫁に応じることと引き換えに商品を購入させたり、役務の提供や金銭等の経済上の利益の提供を要求する行為が禁止されます(3条2号)。消費増税分の上乗せに応じる代わりに自社製品の購入や金品、従業員の派遣などを要求するといった行為です。増税にともなう受発注のシステム変更に要する費用の負担を求めるといった場合も該当するとされます。

(3)本体価格での交渉拒否

 特定供給事業者からの本体価格(税抜価格)での交渉を拒否することが禁止されます(3条3号)。特定供給事業者が本体価格と消費税額を別々に記載した見積書を提出した場合に、本体価格と消費税額を合わせた総額のみを記載した見積書を再度提出させたり、総額しか記載できない様式の見積書のみを使用させるといった場合も該当することとなります。

(4)報復行為

 上記転嫁拒否行為に該当する事実を公取委等に通報したことを理由として取引数を減少させたり取引停止したり、その他供給事業者に不利益な取り扱いをすることも禁止されております(3条4号)。

コメント

 本件でカトーレックは消費税率が5%から8%、そして10%に増税されても一律に報酬単価を110円とし税率引き上げ分を上乗せせずに下請けの配送事業者に委託料を支払っていたとされます。これは事実上本体価格の引き下げであり買いたたきに該当する行為と言えます。公取委は未払い分計約8000万円の支払いと再発防止や社内での周知徹底、研修などを行うことを命じる勧告を出しました。カトーレック社側は相手業者の請求通りに支払えば良いと考えており、増税分を委託料に上乗せしなくてはならないという考えに至らなかったとしております。このように従来から税込み価格で取引を長年行っている場合、納入業者や委託業者側もこれまでと同じ扱いを続ける例は多いと言えます。そのような場合は本件のように増税分の上乗せを失念することも多いと言えます。今一度委託先への報酬額を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

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