長崎地裁が労働審判口外禁止条項を違法と判断
2020/12/04 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, 民事訴訟法, その他

はじめに
長崎地裁は1日、労働審判に口外禁止条項を付けたのは違法であるとの判断を示しました。裁判官による口外禁止について判断がなされたのは初めてとのことです。今回は労働審判における条項内容について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は2016年4月から長崎県内のバス営業所で有期雇用の運転手として勤務しており、会社に待遇改善の要望書を提出したところ2017年3月に雇い止めにされたとされます。男性は同年11月に地位確認と損害賠償を求め労働審判を長崎地裁に申し立てました。同審判手続きで裁判官は会社側が要望した口外禁止条項を盛り込んだ調停案を打診したものの男性は拒否し、同条項が盛り込まれた労働審判を言い渡したとのことです。男性は同審判によって精神的苦痛を受けたとし慰謝料150万円などを求め国家賠償請求訴訟を提起しておりました。
労働審判手続
労働審判については先日も取り上げましたがここでも簡単に触れておきます。会社と労働者の間で労働紛争が生じた際、当事者が地方裁判所に申し立てることにより労働審判手続きが開始します。裁判官である労働審判官と労働問題の専門家である労働審判員2名で組織される労働審判委員会によって原則3回以内の期日で審理し調停を試みます。調停が成立しなかった場合は労働審判が言い渡され、それに異議がなければ確定し、異議が申し立てられた場合は通常訴訟に自動的に移行することとなります。簡易迅速に労働問題を解決するために2006年4月に導入された制度で、年間3000件以上の申し立てがあると言われております。
労働審判における調停条項
解雇や雇い止めなどによって労働審判手続が開始した場合、通常調停案や審判に盛り込まれる条項は、①退職事由、②解決金、③支払い方法、④申立人がその他の請求を放棄すること、⑤当事者間に本条項以外に債権債務が無いことの確認、⑥手続費用の負担などが盛り込まれます。そしてさらに紛争の経緯や調停内容を正当な理由なく第三者に口外しないことを相互に約束するという口外禁止条項も盛り込まれます。これは守秘義務条項とも呼ばれ、基本的には会社側の名誉、利益を守るために会社側が盛り込むことを求めるものとされます。これにより完全に相手方の口外を禁止ないし防止することは難しいですが、ある程度の抑止力はあると言われております。
国家賠償請求とは
今回原告の男性が提起した国賠請求訴訟とは、国や自治体が公権力の行使に際し故意または過失によって違法に国民に損害を与えた場合に国または公共団体が賠償することを求める訴訟です(国賠法1条1項)。裁判所や裁判官もその対象となり、審判や判決も公権力の行使と言えます。また職務を行うに際してなされた行為である必要があり、また違法性や因果関係の要件などかなり複雑な訴訟と言えます。公権力の行使に該当しない場合は民法の不法行為の規定によることとなります。
コメント
本件では地位確認と賠償を求め申し立てられた労働審判で、会社側の要望により盛り込まれた口外禁止条項の違法性が問題となりました。長崎地裁は労働審判の内容は事案の解決のために相当なものでなければならず、将来に渡って口外禁止の義務を負い続けることは過大な負担を強いるものであり相当性を欠くとして違法であると判断しました。しかし国賠請求自体は棄却されました。上記のように労働審判では一般的に会社側は口外禁止条項ないし守秘義務条項を盛り込むことが多いとされ、また審判官も会社側の譲歩を引き出すため安易に審判に盛り込む傾向があると言われております。しかし今回の判決によって簡単には盛り込まれなくなる可能性が高いと言えます。会社、労働者双方がある程度妥協できる条項案を緻密に検討していくことが重要と言えるでしょう。
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