朝日新聞労組に是正勧告、専従者と36協定について
2020/08/27 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
朝日新聞労働組合は24日、専従者を対象とした36協定を締結していなかったなどとして中央労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。組合職員については締結していたとのことです。今回は36協定と労組専従者について見ていきます。
事案の概要
朝日新聞によりますと、朝日新聞労組には朝日新聞社を休職して組合業務に専従する組合員が委員長を含め10人在籍しているとされます。同労組では組合員を対象とした36協定は締結されていますが組合専従者については締結されておらず、またそのうちの1人については時間外労働が発生していたとのことです。労基署は同労組に対し組合専従者に対しての36協定の締結や専従者1人についての時間外労働分の賃金の支払い等を命じる是正勧告を21日に行いました。
36協定とは
36協定についてはこれまでも何度も取り上げてきましたが、ここでも簡単に触れておきます。労働基準法32条によりますと、使用者は労働者に1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとされております。これを超えて時間外労働をさせるためには使用者は労組または労働者の過半数を代表する者と協定を締結し労基署に届け出る必要があります(36条1項)。36協定を締結しても無制限に時間外労働をさせることができるわけではありません。月に45時間、1年で360時間が上限となります(同4項)。通常予見できない業務量の大幅な増加など臨時的な特別の事情がある場合にはさらに延長できる旨の定めを置くこともできますが(同5項)、できる限り具体的に定める必要があります。
時間外労働と罰則について
従来時間外労働に法定の上限は設けられておらず、上記の月45時間、年360時間という上限時間は大臣告示による行政指導でしかありませんでした。これにより事実上無制限となっておりました。しかし政府主導による働き方改革によって労基法が改正され36協定を締結しても上記のとおり時間外労働に上限が設けられ、特別の場合でも年720時間、複数月平均80時間、月100時間がMAXとなっております(36条5項)。違反した場合には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっており(109条1号)、大企業は昨年2019年4月から、中小企業は今年2020年4月から適用となっております。
労働組合の専従職員
労働組合には専従職員または専従者と呼ばれる者が存在する場合があります。専従職員とは本来勤務していた会社を休職または退職して労働組合活動に専念する職員のことです。退職して専従職員となった場合は当然に元の会社とは労働契約関係は消滅しております。休職して専従している場合は元の会社と労働組合の両方で労働契約関係が生じている場合があると言われております。ただし組合の委員会その他の執行部に入った場合は労働契約関係ではなく委任関係が生じるものと考えられます。つまり通常の専従職員は労働組合との関係でも労働者に該当し、各種労働法が適用されることとなります。
コメント
本件で朝日新聞労組では委員長を含め10人の休職専従者が在籍しているとされております。労基署は委員長以外の休職専従者についても労働者に該当するとして、それらの者を対象とした36協定の締結をするよう是正勧告を出しました。以上のように労働組合内では専従者も労働者に該当し、各種労働法が適用されることとなります。本来の使用者である会社との関係で労働条件の改善を求める労働組合ですが、その内部でも労働規制は働いているということです。この点は労働規制の盲点と言え、専従者についての協定が未締結となっている労働組合も多いのかもしれません。今一度労働組合内での労務法務についても確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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