設備工事会社社長に有罪判決、官製談合について
2020/07/09 独禁法対応, 独占禁止法, その他
はじめに
宮城県多賀城市の水道工事を巡る官製談合事件で元市水道事業管理者と設備工事会社元社長に有罪判決が出されていたことがわかりました。設備工事会社元社長には懲役1年6月、執行猶予3年とのことです。今回は官製談合と企業側のリスクについて見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、多賀城市の水道工事を巡り、同市水道事業管理者である佐藤敏夫被告(69)が設備工事会社「長尾設備」(多賀城市)元社長長尾賢一被告(70)に入札予定価格を漏らしていたとされます。佐藤被告は2019年10月に実施した同市笠神2丁目の道路整備事業に伴う配水管移設工事の制限付き一般競争入札に際し、市内で入札予定価格3850万円を長尾被告に漏らし、それを受け長尾被告は予定価格に近い3836万円で落札したというものです。両者は官製談合防止法違反及び公競売入札妨害罪で起訴されておりました。
官製談合防止法による規制
国や自治体が発注する競争入札で事業者が談合を行った場合は独禁法に違反することとなります(3条)。そして国や自治体の職員がこのような不正な入札行為に関与した場合は官製談合防止法違反となります。独禁法が事業者間での公正な競争を阻害する行為を禁止しているのに対し、官製談合防止法は国側の競争阻害と税金の浪費を防止していると言えます。違反した場合には公取委による改善措置要求がなされ、各監督官庁や行政庁により調査や改善措置、関与した職員への賠償請求、懲戒処分がなされます(官製談合防止法3条~5条)。また刑事罰として5年以下の懲役または250万円以下の罰金が規定されております(8条)。
官製談合防止法の規制行為
入札談合防止法によって禁止されている行為は、①談合の明示的な指示、②受注に関する意向の表明、③発注に関する秘密情報の漏洩、④特定の入札談合の幇助の4類型とされております。発注担当者が事業者の会合に出席して入札談合を指示する、受注者を指名する、受注者の働きかけに応じて本来公開していない予定価格を漏洩する、指名業者の名称を漏洩する、事業者からの依頼を受け入札談合を容易にするといった行為が該当します(2条5項1号~4号)。多くの事例ではこれらの4行為は複数該当している場合が多いと言えます。
事業者側のリスク
官製談合防止法は上記のように原則的には国や自治体の職員を対象としております。しかし一般の事業者も違反した公務員と共犯となる場合があるとされております(刑法65条、名古屋地裁平成29年2月21日)。また刑法上の競売入札妨害罪(96条の3第1項)や贈賄罪(198条)に該当し得る場合もあります。また別途独禁法違反のリスクも当然にあると言えます。
コメント
本件で市の水道事業管理者であった佐藤被告は設備工事会社に対して市発注の水道事業に関する予定価格を漏らしていたとされます。またその見返りに業者側は佐藤被告宅の工事代金分を免除していたとのことです。これらの行為は官製談合防止法に違反するだけでなく刑法上の加重収賄や贈賄罪公競売入札妨害罪に該当し得る行為と言えます。仙台地裁は佐藤被告に懲役2年、執行猶予3年、追徴金17万3000円、長尾被告に懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡しました。以上のように国や自治体発注事業で担当職員に接触し予定額や指名業者を聞き出すといった行為、また逆に担当職員側から接触してくる場合は官製談合防止法違反となる可能性が高いと言えます。独禁法の不当な取引制限だけでなく、担当公務員との関係にも注意を払い、違法行為とならないよう確認していくことが重要と言えるでしょう。
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