走行中のフェラーリ炎上で欠陥を認める、PL法の要件について
2020/03/27   コンプライアンス, 民法・商法

はじめに

 走行中にフェラーリが炎上した事故をめぐり所有者の男性がフェラーリ社に慰謝料など計4300万円の賠償を求めていた訴訟で東京地裁は10日、欠陥は認めるも慰謝料については請求を棄却していたことがわかりました。フェラーリ社はすでに同型の新車を提供しているとのことです。今回は製造物責任法(PL法)について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、原告の男性が代表を務める会社が2013年7月にフェラーリの正規販売代理店から「F12ベルリネッタ」を購入し、20147月に神戸市周辺の高速道路を走行中に車から突然出火したとのことです。原告男性は事故当時は制限速度を守って運転していたのに炎上したことから設計または製造上の欠陥があるとしてPL法に基づき慰謝料などを求め東京地裁に提訴しておりました。運転していた原告男性と同乗者に怪我はなかったとのことです。

製造物責任とは

 メーカーの製品の欠陥で火が出たり爆発するといった事故が生じた場合、ユーザーは末端の販売店に対しては瑕疵担保責任を追求しても代金相当分程度しか補償はされず、また直接の契約関係の無いメーカーに対して不法行為責任を追求するにもメーカーの過失などを立証しなくてならないとされ十分な賠償を得ることは困難と言われておりました。そこで製品の欠陥により損害が生じた場合に製造業者等に賠償責任を認めたのが製造物責任法(PL法)です。民法だけでは不十分であったユーザーの保護を補っております。以下具体的に要件を見ていきます。

製造物責任の要件

(1)製造物
 PL法の対象となる「製造物」とは製造または加工された動産を言うとされております(2条1項)。消費者庁の解説によりますと、①有体物であること、②動産であること、③製造または加工されたものであることの要件に該当する必要があるとされます。電気や音響、光線、熱、サービスなどの無形的なものや不動産は該当しないとされております。またコンピュータープログラムやソフトウェアも対象となりませんが、それの不具合により組み込まれた製造物に事故が発生した場合には対象となると言われております。

(2)欠陥
 PL法での「欠陥」とは、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている状態を言うとされております(2条2項)。民法717条の工作物責任における欠陥と同内容と考えられております。欠陥の有無はその製造物の特性や通常予見される仕様形態、製造者がその製品を引き渡した時期、その他諸事情を考慮して判断されるとされております。そして欠陥には①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3種類に分けられるとされます。設計段階での安全配慮の不備、製造過程での材料や組み立ての不備、消費者への適切な情報提供の不備などです。

(3)製造業者等
 PL法の対象となる製造業者等とは、製造物を業として製造、加工又は輸入した者を言うとされております(2条3項)。欠陥のある製品を創出し、自己の意思で流通においた者といわれており、実質的に製造に関与していない設計者は含まれないとされます。また消費者が海外の製造業者を訴えることの困難性や海外の欠陥製品を国内市場に持ち込んだという意味で輸入業者も含まれます。

免責事由

 上記のように製造物に欠陥があったとしても、製造業者等が製造物を引き渡した時点における科学または技術に関する知見によっては欠陥を認識できなかったこと、製造物が他の製造物の部品等として使用された場合にその製造物の製造業者の設計に従ったことにより欠陥が生じ、そのことにつき過失がないことを立証した場合には免責されます(4条1号、2号)。現代の科学技術では問題があると判明していなかった場合や、納入業者が納入先の設計・指示に従っていた場合などを言います。

コメント

 本件で東京地裁は、車が引き渡しの際に整備されていたこと、事故当時制限速度を守っていたのに炎上したことなどから欠陥があったことを認定し、原告側が具体的な欠陥を立証する必要はないとしました。これまでPL法では原告側が欠陥の存在を立証すれば、過失の存在を立証しなくても賠償を求められることとなっておりましたが、本判決ではより立証のハードルを下げたものと言われております。専門知識がなく、具体的な欠陥の証明が困難な消費者側に配慮したものと言えるのではないでしょうか。以上のようにPL法では製造業者だけでなく輸入業者も同様に製品に欠陥が有った場合には責任が生じます。どのような場合に責任が生じるのか、また免責されるのかを正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。

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