台風でゴルフ練習場の鉄柱倒壊、工作物責任について
2019/10/10   危機管理, 民法・商法

はじめに

先月9日に関東地方を直撃した台風15号により千葉県市原市のゴルフ練習場「市原ゴルフガーデン」の鉄柱が隣接する民家に倒れ今も手つかずの状態となっております。

これにより被害を受けた近隣住民に対し賠償責任はあるのでしょうか。
今回は自然災害と工作物責任について見ていきます。

事案の概要

先月5日に発生した台風15号は9日頃に関東地方を直撃し同日未明に千葉県を中心に関東全域から東北の一部にかけて甚大な被害をもたらしました。
気象庁の解析では最低気圧955ヘクトパスカル、最大風速秒速45mと観測史上最強クラスの台風とのことです。

これにより市原ゴルフガーデンのネットが風にあおられ鉄柱ごと隣接する民家に倒れこみ16軒が被害を受けました。
報道では練習場のオーナーは一旦は弁償する旨の説明をしたものの、後日自然災害であることから弁償はしないと連絡がなされたとのことです。
倒れた鉄柱は現在もそのままとなっております。

民法の工作物責任とは

近隣の建物等が倒れるなどによって損害を受けた場合、賠償請求はできるのでしょうか。

民法717条では工作物責任が規定されており、一定の場合には土地の工作物の占有者や所有者が損害の賠償をしなければならない旨定められております。
危険性のあるものを有している者はその危険についての責任も負うべきといういわゆる危険責任の法理が根拠となっており、一般不法行為よりも重い無過失責任となっております。

工作物責任の要件

工作物責任が発生するための要件は、①「土地の工作物」に関し、②その「設置又は保存に瑕疵があること」、③瑕疵と損害の間に因果関係があることとなっております。

工作物とは土地に接着して作られた人工物を言い、建物や工場の機械、自販機やプロパンガスのボンベなどあらゆるものが該当します。

瑕疵とはその工作物が本来備えているべき安全性を欠いている状態を言います。

そして全く想定外な突風などによって工作物が破壊されたといった場合には因果関係が否定されることとなります。
この工作物責任はまず一次的には占有者が負うことになります。

その占有者が損害防止のための必要な注意を行っていた場合は二次的に所有者が負うこととなります(1項ただし書)。

自然災害と工作物責任

それでは自然災害によって被害が生じた場合、工作物責任はどのように判断されるのでしょうか。

この点、地震でブロック塀が倒壊し多数の死者が出た事例で裁判所は「要求される通常の安全性」として「通常発生することが予想される地震に耐えうるもの」とし、当時その地方で通常発生することが予想される地震を震度5としました(仙台地裁昭和56年5月8日)。

つまりその地域では震度5に耐えうるものであれば「設置又は保存に瑕疵」は無いということになります。
その地域、その場所での通常想定される耐久性があれば良いというわけです。

コメント

本件で台風15号は最大風速秒速45mと未曾有の規模の台風と言えます。

そのため通常想定される台風の強さを超えるもので鉄柱の設置または保存に瑕疵は認められにくいと思われます。
また想定を超える突風であるとして因果関係が否定されることも想定され、工作物責任は難しいとの意見が多いと考えられます。

しかし一方で非常に強い台風の接近が予報されていたことから、ネットを下ろすなどの措置を取らなかった点に過失があり、一般不法行為の成立の可能性を指摘する声も上がっております。

以上のように所有している工作物によって損害が生じた場合、通常求められる安全性を有していたかが主な争点となります。

特に今回のような大型のネット付き鉄柱といったものの場合は特に安全性・耐久性に注意が必要と言えます。
以上の点を踏まえて今一度自社の設備の安全性を確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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