施行時期別に見なおす働き方改革関連法
2019/06/12 労務法務, 労働法全般, 法改正

はじめに
働き方改革関連法が今年4月に施行されて2ヶ月が経過しました。これに伴い多くの労働関係法令に変更が生じ、今もその対応に追われている企業も多いのではないでしょうか。今回は働き方改革関連法の今年施行分と来年以降施行分に分けて見直して行きます。
働き方改革とは
かねてより安倍政権が推進してきた働き方改革は、多様な働き方とワーク・ライフ・バランスを実現し就業機会の拡大と生産性向上を主眼としております。それによる法改正の範囲は広く、労働基準法や労働者派遣法、労働安全衛生法、パートタイム労働法、労働契約法に至るまで様々な法令に及びます。その施行は今年4月1日からのものと、来年以降のもの、さらには大企業と中小企業にも分けられております。以下具体的に見ていきます。
平成31年施行分
(1)労働時間の上限
時間外労働はこれまで36協定の締結により年6回までに限り月45時間を超えることが可能でした。そしてその上限は法定されておらず実質無制限となっておりました。これに上限が設けられ、年720時間以内、月100時間未満、複数月で平均80時間以内となります。またこれには罰則があり違反した場合には30万円以下の罰金、6ヶ月以下の懲役となります。今年4月から適用を受けるのは大企業となっております。
(2)高プロ制度
アナリスト業務、研究開発業務、コンサルタント業務など特定の高度な専門知識を必要とする業種に関しては労使委員会を立ち上げ、監督官庁に届け出ることにより、いわゆる高度プロフェッショナル制度を導入することができます。これにより労基法の労働時間、休憩、割増賃金の規定は適用除外となります。要件は厳しく、対象となるのは年収1075万円以上の者で、健康管理の把握措置や苦情処理措置、不同意に対する不利益扱いの禁止などの措置が求められます。
(3)有給取得の義務化
会社の従業員のうち、有給休暇の日数が10日以上の者に1年間で5日分の有給休暇を取得させることが義務付けられます。これにもやはり罰則が設けられ、違反した場合には30万円以下の罰金となります。
(4)フレックスタイム制の精算期間の上限が3ヶ月に
一定の総労働時間をあらかじめ定めておき、その枠内で労働者が労働時間をコントロールする制度をフレックスタイム制と言います。この総労働時間の上限は従来1ヶ月でしたが、3ヶ月まで伸長されております。
(5)労働安全衛生法
産業医を選任した事業者は、産業医に一定の労働時間を超える労働者の氏名、業務内容などの情報を提供することが義務付けられるようになりました。また産業医から従業員の健康確保に必要と認める場合に事業者に勧告を行うことができ、勧告を受けた事業者は安全衛生委員会等に報告する義務が生じます。また一定の業務内容と労働時間の従業員には産業医との面接指導も義務付けられます。
来年以降の施行分
(1)労働時間の上限
上記の今年施行分の労働時間の上限規制は中小企業については来年4月1日からとなります。働き方改革関連法での「中小企業」とは資本金または出資総額と常時使用する労働者数で決まります。例えば小売業なら資本金5000万円以下、労働者50人以下となります。卸売業では資本金1億円以下、労働者100人以下となります。
(2)パートタイム労働法
短期・有期雇用労働者に関して、不合理な待遇解消のための規定や待遇差の内容・理由の説明義務、裁判外紛争解決手続(ADR)の整備などが行われ、大企業については来年4月1日、中小企業については再来年4月1日に施行予定です。また派遣労働者についても来年4月1日に施行となります。
コメント
以上のように働き方改革関連法の適用分野は多岐にわたります。上に紹介した改正分以外にも雇用保険法や労働者災害補償保険法などにも改正が及んでおります。これらの中でも特に目玉となる改正はやはり労働時間の上限規制です。過重労働による過労死が増える昨今、労基署や厚労省も労働時間に対する監督をますます強化していくものと予想されます。36協定の見直しや従業員の労働時間の見直しだけでなく、従業員の労働状況、勤怠管理を確実に把握できる仕組み作りが必要です。具体的にはオンラインでPCの起動時間や従業員のGPS情報を管理し、正確に労働時間を計測できるシステムを導入することも一案と言えます。改正法の内容を正確に把握して休暇を取得しやすい雰囲気作りから始めることが重要と言えるでしょう。
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