東京高裁が抗告棄却、株主提案と仮処分について
2019/05/31 総会対応, 会社法

はじめに
自動車部品メーカー「ヨロズ」の株主「レノ」からの同社への株主提案について、株主総会で議題としない旨の決定に対し、レノ側が申し立てていた仮処分で東京高裁が即時抗告を棄却していたことがわかりました。今回は会社法の規定する株主提案と民事保全法の仮処分について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、旧村上ファンド系投資会社でヨロズの株主であるレノから6月17日に予定されている定時株主総会での議題が提案されていたとされます。内容は買収防衛策を廃止するというもので、ヨロズ側は適法性について疑義があるとして拒否していたとのことです。これに対しレノ側は横浜地裁に本件提案の議題を招集通知等に記載することなどを求める仮処分申し立てを行っておりました。横浜地裁はこれを却下しており、レノ側は東京高裁に即時抗告しておりました。
株主提案とは
一定の事項を株主総会の会議の目的たる議題とすることを請求する権利(議題提案権、会社法303条1項)と株主総会の目的である事項に関して議案の要領を招集通知などに記載することを請求する権利(305条1項)を合わせて株主提案権と呼びます。議題とは「取締役選任の件」といった会議の目的そのもののことであり、議案とはそういった議題に対する「A氏を取締役に選任すること」といった決議の具体的内容を意味します。以下株主提案の具体的要件を見ていきます。
株主提案の要件
(1)株主の資格
株主提案を行うことができる株主は議決権の1%または議決権300個以上の株式を保有している必要があります(303条2項)。さらに公開会社である場合は6ヶ月以上の保有期間が必要です。なおこの6ヶ月という期間は定款で短縮することも可能です。取締役会を設置していない会社である場合にはこれらの議決権制限はありません。
(2)提案方法
株主提案は株主総会の8週間前までに代表取締役に対して行う必要があります。この8週間という期間は株主総会の開催日と請求が会社に届いた日を算入せずに、その間に8週間以上の期間がなくてはなりません。なおこの8週間の期間も定款で短縮することは可能です。
(3)提案内容
株主は株主総会の議題としてなんでも提案できるというわけではありません。株主総会は会社の組織、運営、管理について決議でき、また取締役会設置会社では会社法と定款で定められた事項に限り決議することができます(295条1項、2項)。たとえば定款変更や資本金減少、役員選任・解任、株式併合や組織再編といった事項です。こういった株主総会で決議できる事項以外の議題を提案してもそれは不適法となります。また一度提案されて議決権の10%以上の賛成を得られなかった議案については3年間は提出できません(305条4項)。
仮処分とは
裁判所に訴えても裁判が確定するまでには相当な期間を要します。それまで待っていては権利を保護できないといった場合に仮に救済する手段が存在します。それが民事保全です。これには金銭債権を確保するための仮差押と、土地などの係争物に関する仮処分、そして一定の権利関係を確保するための仮の地位を定める仮処分があります。申し立てると裁判所で審理され、発令の決定か却下決定がなされます。却下された場合は2週間以内に即時抗告ができ(民保19条1項)、発令決定がされた場合には相手側が保全異議、保全抗告ができます(26条等)。
コメント
本件でレノ側が提案していた内容は買収防衛策を廃止するというものでした。一番の争点はこの議題が株主総会での決議事項として適法かという点です。会社法では法定決議事項以外にも定款で定めたものも議題とし得るとしていますが、東京高裁はこの範囲を厳格に解釈し、ヨロズ側の定款に規定されている大規模買付行為への対応について、買収防衛策の廃止までは含まれないとし、保全の必要性を否定しました。このように株主提案にはいくつか要件が定められており、特に提案内容の適法性は重要な事項と言えます。これから定時総会の季節に突入していきます。株主からの提案も増加していくことが予想されます。株主提案がなされた場合にはこれらの要件を満たしているかを慎重かつ迅速に吟味し、仮処分手続も踏まえて準備していくことが重要と言えるでしょう。
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