米社が運営者情報開示、海賊版サイト対策について
2018/11/07 知財・ライセンス, 著作権法

はじめに
大量の漫画を違法配信していた「漫画村」の運営者情報を米国の企業が日本の弁護士に開示していたことがわかりました。これにより東京都内の男性が運営者であると判明したとのことです。今回はネット上で著作権侵害等があった場合のユーザー特定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2017年頃から急速に広まった「漫画村」では数万点の漫画作品が違法に掲載され、延べ6億人以上がしていたとされます。同サイトによる著作権侵害による被害は約3千億円と推計されており、政府による緊急措置としてサイトへの接続を遮断するブロッキングが行われておりました。著作権侵害を受けた漫画家等の依頼により日本の弁護士が「漫画村」を中継していた米「クラウドフレア」社を相手取り、通信ログの開示を求めて東京地裁に提訴し交渉を進めていたところ、同社から情報が開示されたとのことです。また別の弁護士も米国連邦地裁に提訴し、連邦地裁による召喚状「サピーナ」を受け取った同社が情報を開示していたとされます。
著作権侵害への対策
著作権を侵害された場合には著作権法により差止請求や損害賠償請求を行うことができます(112条、113条、114条等)。また不当利得返還請求や名誉回復措置(115条)なども請求できます。さらに罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、法人に対しては3億円以下の罰金が規定されていることから刑事告訴を行うことも可能です(119条、124条)。しかしこれらの法的措置を取るにしても、侵害者を特定できなければなりません。以下その方法を見ていきます。
プロバイダ責任制限法による開示
プロバイダ責任制限法4条1項によりますと、「情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は」、「権利が侵害されたことが明らか」であり、かつ損害賠償請求に必要であるか正当な理由があるときには、発信者の氏名、住所、メールアドレスの開示を請求することができます。プロバイダ側は必ず発信者の意見を聴くことになり、また開示をしなかった場合でも、故意または重過失がなければプロバイダ側に賠償責任は生じません(同2項、4項)。実際にファイル共有ソフトを利用して大量の音楽ファイルを違法アップロードしていた配信者の情報を開示するよう命じた裁判例が存在します(東京地裁平成30年7月19日)。
海外を経由している場合
以上の方法は原則的に日本国内での特定方法ですが、発信者が海外を経由している場合には功を奏さない場合が多いと言えます。そこで本件の弁護士が採った方法は米連邦地裁に提訴し、連邦地裁が出す「サピーナ」を利用するというものでした。「サピーナ」(subpoena)とは罰則付召喚令状のことで、従わなければ罰則を課すとの警告のもとに一定の日時に特定の場所に出頭や文書の提出を命じる令状を言います。米国では提訴後の証拠開示手続が充実しており、相手方に証拠となる文書等を提出させることができます。
コメント
本件で米国「クラウドフレア」を中継して漫画の違法アップロードを繰り返していた配信者を特定するために米連邦地裁に提訴するという方法と、日本の裁判所に提訴しつつ同社に交渉するという方法が用いられました。これにより同社は請求に応じ、詳細な配信者情報を送付してきたとのことです。前者の方法はより直接的で強力な方法と言えますが、米国での提訴を要しコストがかかると言えます。近年日本では海外のサーバーやファイル共有ソフトなどを利用して膨大な量の著作物やコンテンツが違法に流出しております。アップロードだけでなくダウンロードにも罰則が適用されましたが、違法配信は減少の傾向を見せておりません。今回の事例はこういった違法配信への対策として一つの道を示したものと言えます。自社の知的財産が違法に配信されている場合はこれらの方法を駆使して権利保護を図っていくことが重要と言えるでしょう。
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