「IHI」訴訟で最高裁が上告棄却、金商法の虚偽記載について
2018/10/12 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに
有価証券報告書の虚偽記載により株価が下落したとして造船大手「IHI」に対して同社の株主が損害賠償を求めていた訴訟の上告審で最高裁は11日、上告棄却していたことがわかりました。これにより株主等に対し計約6000万円の賠償命令が確定します。今回は金商法の虚偽記載について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、IHIは2006年9月中間期と2007年3月期の決算で売上を過大計上し、また売上原価を過小計上するなどして純損益の赤字を黒字と記載した有価証券報告書を提出しました。またそれに基づき2度の第三者割当増資で約640億円、社債の発行で300億円を調達していたとされます。金融庁は2008年7月9日に約16億円にのぼる課徴金納付命令を出しております。同社株主192人は総額約4億円余りの損害賠償を求め同社を提訴、一審東京地裁は約4800万円の支払いを、二審東京高裁は約6000万円の支払いを命じていました。
金商法上の虚偽記載
金商法21条の2第1項によりますと、有価証券報告書に「重要な事項について虚偽の記載」「重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の記載がかけている」場合に、「公衆の縦覧に供されている間」に有価証券等を取得し、虚偽記載等により損害を受け、虚偽記載の事実を知らなかった場合には会社に損害賠償請求することができます。そして損害額については虚偽記載の公表前1ヶ月間の市場価格の平均額から公表後1ヶ月間の平均額を引いたものが損害額とする推定規定が置かれております(同3項)。
有価証券報告書の提出義務
有価証券報告書とは上場会社などが投資家の投資判断の資料を提供することを目的として各事業年度ごとに提出が義務付けられているものを言います。原則として事業年度後3ヶ月以内に提出することを要します。提出義務を負うのは上場されている有価証券を発行している上場会社、所有者が1000人以上の株券または優先出資証券を発行している会社、所有者が500人以上のみなし有価証券を発行している会社等が挙げられます。
会社側の抗弁事由
上記の虚偽記載があった場合でも、会社側に虚偽記載等について「故意又は過失」がなかったことを証明したときは賠償の責任が免除されます(同2項)。この過失の有無の判断に関しては会社の役員等を基準として考える立場と、従業員も含めた会社全体を基準として考える立場がありますが、基本的には役員を基準に考える立場が有力と思われます。また損害が生じても、それが虚偽記載以外の事情により生じたことを証明したときも全部または一部について免除されます(同5項)。またその証明が無い場合でも、虚偽記載以外の事情で損害が生じたと認められ、その額を証明することが困難な場合は裁判所が「相当が額」認定することができます(同6項)。
コメント
本件では虚偽記載以外の事情が認められる場合の減額を裁判所が独自に算定できるかが争点となっておりました。最高裁は減額幅の立証が困難な場合は裁判所が一定額を認定することができると判断を出し、増額を求めていた原告側の上告を棄却しました。金商法の虚偽記載は以前は無過失責任となっておりましたが、平成26年改正により無過失を立証した場合には免責されることとなりました。これにより会社側も虚偽記載につき過失が無かったことや他の事情による損害であることなど訴訟における抗弁の幅が増えたことになります。有価証券報告書の提出義務がある会社は虚偽記載を行わないよう注意することはもちろんですが、仮に虚偽記載で賠償請求がなされてしまった場合でも過失が無かったと言えないか、他の事情に影響を受けていないかなどを検討していくことが重要と言えるでしょう。
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