ジャパンビバレッジで「有給取得クイズ」、時季変更権とは
2018/08/24 労務法務, 労働法全般
はじめに
サントリー子会社で飲料自販機大手のジャパンビバレッジの支店長が従業員に対し「有給チャンスクイズ」と称するメールを送信していたことがわかりました。全問正解で有給が認められるというもので、正解者はおらず批判が相次いでおります。今回は年次有給休暇の時季変更権について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ジャパンビバレッジの支店長は「有給チャンスクイズ」と題するメールで「全問正解で有給チャンス」「不正回答は永久追放します。まずは降格」などと記載し、都内15の駅での売上高を高い順に並び替えるクイズを出題していたとされます。また後日送信されてきた回答メールでは「残念ながら全員はずれでした。よかった。よかった。」との内容で有給取得者がいない旨発表していたとのこと。問題自体にも出題ミスがあり事実上有給取得は不可能な内容となっていたとされます。
年次有給休暇とは
労働基準法39条によりますと、雇入れの日から6ヶ月継続勤務し、80%以上出勤した労働者には10日間の有給休暇を与えなければならないとしています。有給休暇は一定の要件を満たした労働者に法律上当然に与えられる権利で、「労働者が請求する時季」に休暇が成立し就労義務が消滅します(同5項、最判昭和58年9月30日)。つまり従業員の有給取得は原則拒むことができず、例外的に時季を変更できる場合があるにすぎないということです(同項但書)。
時季変更権とは
従業員の有給取得の請求に対して会社側は「事業の正常な運営を妨げる場合には」会社は他の時季に変更することができます(39条5項但書)。この変更権を行使した場合、会社側は別の日を指定しなければならないというわけではなく、従業員側が改めて別の日を指定することになります。また会社側が単に「承認しない」旨の通知を行った場合もこの変更権の行使に当たるとされております(最判昭和57年3月18日)。この変更権の行使により従業員が指定した日は休暇ではなくなります。
事業の正常な運営を妨げる場合
ではどのような場合に会社側は時季変更権を行使することができるのでしょうか。「事業の正常な運営を妨げる場合」は一般に当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模・内容、当該労働者の担当する作業の内容・性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等、諸般の事情を考慮して判断することになります。この事業の正常な運営を妨げる場合について明確な基準がわるわけではありませんが裁判例ではシフト調整をすれば代替が可能であったにも関わらずそれを行わなかった場合などで変更権を否定しております(最判昭和62年7月10日)。
コメント
本件のジャパンビバレッジ支店長が送信したメールが事実であった場合、会社側のクイズに正解しなければ有給が取得できないというものであり、また実質正解不能なクイズであることから事実上会社が有給を否定しているものと言えます。また時季変更権の行使としても、シフト調整等代替要員の確保を検討した形跡がうかがえない場合は違法と判断される可能性が高いと言えます。有給は法定の日数に関しては会社側が一方的に剥奪することはできませんが、それを超える日数については会社側の裁量で与えることは可能です。たとえば本件のようにクイズに正解した場合は余分に有給を与えるというものであれば適法と言えます。ジャパンビバレッジは労基署から4度の是正勧告を受けており、労働委員会からはハローワークに求人紹介を拒否するよう異例の勧告が出されております。今一度労基法の有給制度を見直すことが重要と言えるでしょう。
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