所有権移転請求事件で市が勝訴、時効取得について
2018/08/09 訴訟対応, 民法・商法

はじめに
兵庫県篠山市がかつて買収していた土地の所有権移転登記を求め、住民を相手取り提訴していた訴訟の上告審で最高裁が上告棄却していたことがわかりました。市側の勝訴が確定したこととなります。今回は所有権の帰属を巡る紛争での時効取得について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、篠山市は住民からの問い合わせにより市の西紀支所の敷地の一部に住民名義の土地が存在することが判明しました。同市が村誌や組合議事録等の調査した結果1949年から1955年にかけて行った中学校建設用地として買収した20筆あまりの土地の一部であり、所有権移転登記がなされないままとなっていたことがわかったとされます。市は住民側に移転登記手続きを求めたところ、契約書や領収書が無いことから理解が得られず2015年に住民4人を相手取り提訴に踏み切ったとのことです。
時効取得とは
他人の物を一定期間占有するとその所有権を取得することができます(民法162条)。これを時効取得と言います。その趣旨は長期間継続した状態の保護と時間の経過による立証困難の救済、そして権利の上に眠る者は保護しないと言われております。他人の土地等を得たという場合だけでなく、もともと自己の土地であるけれどそれを証明できないといった場合にも利用されます。所有権の帰属を巡って争われている訴訟でも頻繁に利用される重要な法制度と言えます。その要件は①所有の意思をもって、②平穏かつ公然と、③20年または10年間占有し、④援用の意思表示をすることです。
取得時効の要件
(1)所有の意思
所有の意思とは自主占有意思とも呼ばれ、自己の所有物としての意思を言います。他人の所有を認めつつ何年占有しても取得できないということです。この所有の意思は客観的に判断されます。たとえば占有原因が賃貸借や使用貸借の場合には所有の意思は否定されます(最判昭和58年3月24日)。
(2)平穏かつ公然
その占有が平穏かつ公然と行われている必要があります。暴行や脅迫、また隠避、隠匿による占有といったものでは時効取得はみとめられないということです。この平穏性・公然性は推定規定が置かれており(186条1項)、時効を主張する側は原則立証は不要です。
(3)占有期間
時効取得するための占有期間は20年と10年があります。自分の所有であると信じ、信じることにつき過失がない場合(善意無過失)は10年で、そうでない場合は20年で時効が完成することになります。善意であることも推定されておりますが、無過失については推定されておりません(186条1項)。また占有はその期間中継続される必要がありますが、占有開始時と完成時の両時点の占有を証明すれば、その間の占有も推定されます(同2項)。
(4)援用の意思表示
時効は完成してもただちに効力が発生するわけではなく、当事者が援用の意思表示をして初めて効力が発生するといわれております(145条 最判昭和61年3月17日)。時効制度を利用するしないも当事者の自由ということです。
コメント
本件では市が用地買収したときの契約書や代金を支払った時の領収書など、住民が市に土地を売却したことを証明する証拠は存在しませんでした。しかし長年にわたって市が本件土地を占有し続けていた事実が認められ市が時効取得していると判断されました。市側は用地買収して所有権を得ていたことに加えて、時効取得も併せて主張していたと考えられます。このように時効取得は売買契約等、本来の所有権移転原因を証明できなかった場合でも予備的に主張して所有権の帰属を主張する武器となります。時効取得は一般に知られているよりも要件は複雑で理解しにくい点も多いと言えます。用地の帰属で紛争が生じた場合、または逆に他社に占有されている場合等に備え要件を正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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