株主提案増加 法務の対応はどう変わる 
2018/06/25   総会対応, 会社法

1 はじめに

株主提案権とは、株式会社の最高意思決定機関である株主総会に諮るために株主が出す議案であり、会社法303条・304条に基づくものです。
2018年6月に株主総会を開く企業で株主提案を受けたのは、過去最多の42社に上りました。大株主の要請で取締役会の構成を見直した事例が注目を浴びるなど、上場企業に経営改革を促す株主の圧力が強まっています。ここ数年の企業統治改革に係るルール改定で安定株主頼みの経営は許されなくなり、経営陣は株主と対話し、中長期的に企業価値を高める努力が求められることになります。

2 企業統治改革に係るルールと事例

企業統治改革に係るルール(※)が改訂されたことにより、株主総会が会社提案を承認する場だったかつての姿から変わりつつあります。

※企業統治改革に係るルール
これには、「コーポレートガバナンスコード」と、「シュチュワードシップ・コード」がある。
コーポレートガバナンスコードとは、2013年に日本政府が閣議決定した「日本再興戦略(Japan is Back)」及び2014年の改定版で、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化を官民挙げて実行する上での規範をいう。「コード」は規則を意味するが、細則の規定集ではなく原則を示したもの。2015年6月から上場企業にのみ適用されている。本コードは大きく5つの基本原則で構成され、(1)株主の権利・平等性の確保、(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働、(3)適切な情報開示と透明性の確保、(4)取締役会等の責務、(5)株主の対話、に関する指針が示されている。
これに対して、スチュワードシップ・コードとは、機関投資家や投資信託の運用会社、年金基金などの責任原則であり、投資先の企業経営者を監視する責任を果たすように促してる。
両コードともに法的拘束力は無いが、「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」の精神の下、原則を実施するか、さもなければ実施しない理由を説明するか求めている。
参照 野村證券
日本ペイントホールディングスは、3月の株主総会で取締役を10人に増員し、そのうち5人を社外取締役としました。東京証券取引所が6月に改訂した「コーポレートガバナンス・コード」は、必要ならば社外取締役を3分の1以上にするよう求めていますが、日本ペイントはこれを先取りしました。これが産業界の注目を集めたのは起点が株主提案だったからです。もともと取締役会の見直しは、筆頭株主のウットラムグループが1月下旬に株主提案として求めていました。日本ペイントが協議して取り入れたことで、ウットラムは総会で提案を取り下げましたが、株主提案が事実上認められた格好となりました。
参照 日本ペイント ホールディングス招集通知
株主総会の変容のもう一つの要因が、金融庁が17年に改定した「シュチュワードシップ・コード」です。改定前の指針は、機関投資家に対し、議決権の行使結果を議案の主な種類ごとに整理集計して公表を求めていました。新指針はさらに個別の投資先企業ことに公表し、賛否の理由も説明するように求めています。従来、国内の機関投資家は株主提案に反対する傾向がみられましたが、シュチュワード・シップコードの改定により、議案の提案者でなく、内容を重視して議決権を行使しないと許されなくなると考えられます。つまり、機関投資家が会社提案を吟味せずに丸のみするような対応はできなくなり、「物言う株主」にとっても自らの主張に耳を傾けてもらうきっかけとなるでしょう。この点について、6月28日のTBSホールディングスの総会では、政策保有株を現物配当するよう求める英運用会社の株主提案が図られ、資本の有効活用論が問題となります。

3 会社法改正案

一方、会社法改正は株主提案を制限する方向に進んでいます。法務省の法制審議会会社法制部会(部会長・神田秀樹学習院大法科大学院教授)は14日、株主総会の制度改革を盛り込んだ会社法改正に関する中間試案をまとめました。1人の株主が株主総会で提案できる議案数に上限を設けられようとしています。中間試案では、株主総会で1人の株主が提案できる議案数の上限について「5」と「10」の2案を示しました。
また、 このような事例株主提案の内容が「名誉の侵害」「人を困惑させる」などの目的だった場合、会社が提案を制限できる規定を設けるよう求めました。 12年の野村ホールディングスの株主総会で1人の株主が「トイレをすべて和式に」など100件を提案し、株主提案に一定の制限を設けなければ「審議時間が無駄に費やされ、会社と株主の対話が阻害される」との指摘が出ていました。

4コメント

法務担当者としては、会社法改正における上記提案制限規定の内容を把握しつつも、株主提案が尊重されてきている傾向を踏まえることが必要です。具体的には、上記野村ホールディングスの事案のような提案がされ、株主提案を制限すべきか判断する際に、制限により中長期的に見て企業価値をこと損なうことにならないか、法的観点だけでなく経営という観点からの検討を心掛けておくべきでしょう。

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