消費者関連法の見直しと改正案の概要について
2018/04/26   コンプライアンス, 消費者契約法

1 はじめに

 内閣府の消費者委員会は今年2月、将来的に法改正の検討を行う際の基礎となる考え方をとりまとめていくため、「消費者法分野におけるルール形成のあり方検討ワーキング・グループ」を発足しました。消費者委員会は、消費者契約法改正案について、今国会での成立を目指しています。消費者法分野の中でも、消費者契約法は事業者と消費者が結ぶあらゆる契約が対象であるため、法改正によって広範な範囲に影響が発生すると考えられます。そこで今回は、①消費者関連法を巡る主な動き②事業者保護と消費者保護のバランス③消費者契約法の一部を改正する法律案の概要④今後の実務に向けての4点を検討していきたいと思います。

2 消費者関連法を巡る主な動き

 消費者関連法を巡る主な動きとしては、これまで以下のようなことがありました。

2001年4月:消費者契約法施行
2003年6月:国民生活審議会による報告書「21世紀型の消費者政策の在り方について」
2009年9月:消費者庁発足
      内閣府に消費者委員会設置
2014年~2017年7月:消費者法改正に向けた有識者調査
2016年4月:景品表示法に課徴金制度導入
(2020年4月:改正民法施行予定)

 2009年の消費者庁発足までは、消費者取引に関する契約は、事業や製品ごとに担当省庁が分かれていましたが、消費者庁の発足によって、消費者契約に関する契約は事業や製品を問わずに一元化されるようになりました。このように、消費者を取り巻く状況は、大きく変化してきました。
 消費者関連法の中身だけでなく、改正過程も問題とされてきました。2014年、内閣府は改正に向けた有識者調査会を設置し、裁判例やPIO-NET(消費相談データベース)の情報を精査したり、事業者と消費者の意見を検討するなどしてきました。消費者契約法改正による影響範囲の広さから、調査会では過剰規制を懸念する声が事業者側から多く挙がったようです。

3 事業者保護と消費者保護のバランス

 このような経緯から、改正案では、法が適用される状況が限定されるように条文を作ることが求められることとなりました。例えば、不当勧誘があった場合に契約取消ができる状況をデート商法や就活セミナーなどに限定されており、デート商法の定義なども「当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから」「勧誘を行う者に対して恋愛感情その他行為の感情を抱き」「当該消費者契約を締結しなければ」「関係が破綻することになる旨を告げる」など、細かく定めることとなりました。この点について消費者委員の池本誠司弁護士は、「本来はある程度抽象的な規定であるべき法律」「非常に詳細な条文が多く入ってしまった」と指摘しているようです。適用のハードルが上がったことで、事業者保護の観点では問題が少ない改正案に仕上がったものの、消費者保護の点では課題が残ったとの見解を示す専門家もいるようです。

4 消費者契約法の一部を改正する法律案の概要

 今回の改正案では、適格消費者団体の制度変更についても盛り込まれているようです。消費者団体訴訟制度とは、消費者全体の利益を擁護するため、一定の要件を満たす消費者団体を内閣総理大臣が適格消費者団体として認定し、その団体に事業者の不当な行為(不当な勧誘、不当な契約条項の使用)に対する差止請求権を認めるものです。従前は、直接被害を受けていない消費者には差止請求権が認められませんでしたが、現在の改正案は、消費者被害を未然に防止するという観点から、締結のおそれがある段階でも行使できるようになっています。
 

5 今後の実務に向けて

 改正案では、デート商法など、従前の法律では想定されていなかったような新しい事案についての定義を法律に加えることが盛り込まれています。新たな規制が入ったという点は消費者保護に資する要素ですが、定義をかなり細かく定め適用対象を限定しようとする点は事業者保護に資する要素と言えるでしょう。現在は改正案が成立した段階なので、具体的な動きを想定することは困難ですが、法務部員としては、現状の営業手法が不当な行為に該当しないか改めて洗い出し、必要があれば営業部員への指導等を行い、法改正に備えることが有効です。

【参考サイト】
通販新聞:消費者委員会 民事ルールの在り方を検討、新ワーキンググループ立ち上げ
内閣府:消費者契約法の一部を改正する法律案について
消費者庁:消費者の窓 適格消費者団体とは
適格消費者団体 公益社団法人全国消費生活相談員協会:消費者団体訴訟制度とは

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