社外取締役制度のメリット・導入時の手続き等
2018/03/27   商事法務, 会社法

1 はじめに

 上場企業の間で、社外取締役に他の企業での経営の経験を積んだ人材を登用する動きが広がっています。社外取締役制度の導入は大企業でこそ行われるようになってきましたが、中小企業にはまだまだ広がっていないのが実情です。そこで本稿では社外取締役のメリットをお伝えし、導入を検討される企業様においてすべきことや注意点等を解説したいと思います。

2 社外取締役制度の概要

 社外取締役の概要については、以前も企業法務ナビ内で紹介しました。以下はその引用となります。
――――――――――
 社外取締役とは、株式会社の取締役であって、その会社の業務執行取締役や支配人等ではなく、また過去にもそれらの職についていなかった者を言います(会社法2条15号)。つまり現在及び過去においてその会社の業務執行に携わっていない者が社外取締役になれるということです。取締役は会社の業務執行を行うと同時に取締役会を構成し、相互に監査監督を行っております(362条2項2号)。しかし会社の経営者と縁の深い者では厳正な監督は期待できません。そこでこのような外部の人間を取締役として選任し監督機能を発揮させることが社外取締役の制度趣旨と言えます。
――――――――――
 以上、法務コラム「社外取締役導入企業が増加、その概要と役割」より引用

3 上場企業における経営経験者登用の動き

 これまで社外取締役には弁護士・会計士などが多く選任されていましたが、監督機能を発揮させるという上記社外取締役制度の趣旨から、投資家からは経営経験者の採用を求める要求が強まっています。東京証券取引所と金融庁が15年に導入した企業統治指針は、社外取締役を2人以上選任することを求めています。このような流れを受け、時価総額の大きい主要50社のうち、35社が社外取締役に経営経験者を登用する運びとなっており、6月の総会シーズンに向け、実績ある経営経験者の獲得を巡る競争が始まる見込みです。

4 経営経験者を社外取締役にすることのメリット

 (1) コーポレート・ガバナンスとは
 コーポレート・ガバナンスとは、会社経営の適法性を確保し、効率性を向上させるために、会社経営者に適切な規律付けを働かせる仕組みをいいます。平成5年法改正の頃までは適法性が重視され、監査役制度の強化など、機関制度の厳格化などが行われてきました。平成13年・14年改正の頃から適法性と効率性の両方に同等の比重を置く議論が盛んとなり、ガバナンス向上の法的仕組みとしても、多様な方法が論じられるようになってきています。

 取締役は取締役会を開き、会社に関する事項について意思決定を行います。取締役会では、
①本当は違うやり方の方が会社にとって利益をもたらすかもしれないにもかかわらず、社長の顔色を窺って意見を言わない
②すでに結論が出ている議題を形だけ議論している
などの事態がしばしば起こっています。この段落では、社外取締役の活用によって、これらの問題を解決することができることを説明します。

 (2) 適法性の観点からのメリット
 取締役の仕事としては、会社の目的である具体的事業活動に関与する「業務の執行」と、監査行為や意思決定への関与としての「職務の執行」があります。取締役は業務執行者として会社・株主の利益を最大化するよう行動していく必要がありますが、上への忖度等があり、それが常に行われるとは限りません。業務執行懈怠という違法が発生することに備え、社外取締役を活用し、取締役同士の馴れ合いの態度にメスを入れることが有効です。

 (3) 効率性の観点からのメリット
 取締役会設置会社においては、少なくとも3ヶ月に1回、職務執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(363条2項)。会議を開く以上、会議は効率的に行うことが必要です。
 社外取締役は内情を良く知らず、議題に積極的に関与していくこととなるため、議論の活性化が見込めます。社外取締役は社内の人間ではなく、社長の顔色を気にする必要がありませんので、経験に基づいた適切な助言が可能です。

5 制度導入にあたって

 社外取締役を選任するためには、まず「社外取締役候補者」(会社法施行規則2条3項7号)を選任する必要があります。株主総会に対し、選任について議案を提出する必要がありますが、議案を提出する場合には、株主総会参考書類(議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類。会社法301条1項)に、当該候補者を社外取締役候補者とした理由等、施行規則74条4項各号のことを記載する必要があります。

6 責任限定契約について

 会社法は423条1項等いくつかの規定で、役員等の行為によって会社に損害が生じた場合に、当該役員が賠償をする責任を負うことを定めています。役員等は株主総会決議または取締役会決議により責任を軽減させることができますが、社外取締役はその2つに加え、会社との責任限定契約によっても責任軽減が認められています。責任限定契約を締結できる旨は定款で定めなければならず(427条1項2項)、この定款規定と社外取締役は登記事項となっています(911条3項24号~26号)。
 社外取締役は会社の内部事情に詳しくないにもかかわらず、一般の取締役と同等の責任が課せられています。事前の契約によってその責任を軽減し精神的負担を軽くすることにより、業務に対する萎縮を大きく取り除くことができると考えられます。

【参考サイト】
社外取締役就任相談サポートー「社外取締役のメリットとデメリット」

【企業法務ナビ内関連記事】
社外取締役選任で企業に活力を
社外取締役に関する法改正と現在の動き
社外取締役の設置義務化、2年後に再検討へ

【参考書籍】
『会社法 第2版』 伊東靖史他 有斐閣 2011年

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