働き方改革の一環としての長時間労働の是正
2018/03/15   労務法務, 労働法全般

1 はじめに

 日本における労働者の長時間労働は先進諸国において有名ですが、最近は日本人にもそのことが認識されてきました。政府が進める働き方改革は、2018年春季労使交渉でも主要なテーマとなることが予想されます。そこで本稿では、労使交渉で争点となるであろう、働き方改革の一環としての長時間労働の是正について、検討していきます。

2 日本の長時間労働について

 国際統計格付けセンターの調査によると、経済協力開発機構(OECD)に加盟する世界35の国と地域を対象にしたランキングにおいて、日本の平均労働時間は1745時間で15位となっています。高度成長期の1980年代には2100時間を超えており、徐々に減っては来ていますが、世界的にはまだ労働時間が長い状態であるといえます。
 労働時間が長いにもかかわらず、労働者1人当たりの生産性は、OECDに加盟する35か国中21位、先進7か国では最下位となっています。この点については、日本では海外に比べ、長時間の会議や会議の資料作りなど、直接は付加価値を生まない仕事が多いからであると考えられています。

3 働き方改革について

 政府は今国会に働き方改革関連法案を提出する予定です。

●働き方改革関連法案3つの柱
《規制強化》  
①残業時間の上限規制 ②同一労働同一賃金
《規制緩和》
③脱時間給制度の創設
*4つ目の柱とされていた裁量労働制の拡大については、法案から削除されることになりました。
  従来は、労使が合意していれば、残業時間を青天井で増やすことができました。現在の上限は厚労省が告示によって定めているのみでしたが、月45時間、年間360時間、特例で年720時間という上限が労基法に明記されるようになります。違反企業には罰則もあり、実効性の担保もなされています。

参考:日経ビジネスオンライン

4 改革を受けた今後の労組の見通し

 これを受け、主要電機メーカーの労働組合は、年内にも残業時間の上限を年720時間に定めるよう求めています。19年4月の施行を目指す政府の残業規制を先取りし、従業員の生産性向上を目指すものと考えられます。
 日本総合研究所の試算によると、産業界全体の残業代は、年14兆円規模に上るということです。残業を減らせば総労働時間は短くなりますが、それだけ労働者の所得も減ります。残業代が生活を支えているというような状況の労働者も多く、このような人のために生活保障が必要という観点から、18年交渉では賃上げを求める労組が多く見られます。賃上げのためには企業側の財源が必要であり、以前の総労働時間で稼げていた分を短時間で稼げるような、効率的な業務遂行方法を模索することが必要になります。

5 企業における工夫の検討

 残業時間を減らした場合、企業は残業代を支払う義務を免れます。そこで、この分を従業員への投資とし、福利厚生や教育などに回すことが考えられます。これらの点が充実すると、従業員は「自分達は企業に大切にされている」と感じることができ、精力的に仕事を遂行することができると考えられます。
 その他の工夫としては、労働環境の確認などが考えられます。例えば、現在会議にどれくらいの時間がかかっているかを見直し、適切な時間はどのくらいかを検討したうえで、時間を10分ほど縮めてみる、どうあっても延長はしないなどの方針を策定し、従来よりも短時間で成果を上げられる会議を目指すなどが考えられます。このあたりの見直しは企業の工夫として従来からあるものですが、最近では通勤時間を節約できる在宅勤務やシェアオフィスなど、従来の枠にとらわれない働き方による手段も増えています。

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