「小田原かまぼこ」にみる地域団体商標の先使用権について
2017/11/27 商標関連, 商標法

はじめに
神奈川県小田原市の小田原蒲鉾協同組合が同市に隣接する同県南足柄市の食品業者「佐藤修商店」などに対して、組合が保有する地域団体商標「小田原かまぼこ」の使用の差し止めと損害賠償を求めていた訴訟で、24日、横浜地裁小田原支部は組合側の請求を棄却したことがわかりました。今回は、地域団体商標の先使用権について見ていきます。
事案の概要
神奈川県小田原市の小田原市の製造業社13社が作る小田原蒲鉾協同組合は2010年に「小田原かまぼこ」「小田原蒲鉾」の地域団体商標を出願し、2011年に登録されています。一方、製造業者の「佐藤修商店」と関連会社は、2001年ごろから東京都や大阪府などで、「小田原かまぼこ」「小田原蒲鉾」と表示したかまぼこを販売しているといいます。組合側としては、名称を使用されると佐藤修商店の商品の原産地が小田原市だと誤認されること、名称使用は組合が明治中頃から守ってきたブランドの信用に便乗する行為で不正競争にあたることを理由に、先使用権は認められないと主張しています。一方、佐藤修商店側は、同社と小田原市境は約2キロしか離れていないこと、「小田原かまぼこ」は市内とその周辺で生産されたと理解すべきで他人の信用を利用する目的もないと反論し、先使用権があると主張しました。横浜地裁小田原支部は、商品に地域名を使用できる範囲については「商品が当該地域と歴史、文化などのつながりがあるか考慮すべき」と指摘し、「小田原」の範囲について、現在は小田原市より広い地域で製造されており、自然や文化のつながりがある市周辺地域も含まれるとしました。それにより、佐藤修商店の先使用権を認めました。
地域団体商標制度
地域特産の農作物等にブランドを付けて生産、販売を行う事業者が、そのブランドを勝手に使用されるのを防止するため、商標権を取得する必要があります。地域団体商標は地域名と商品名または役務名から成る文字商標を言います(商標法7条の2)。そして、一定の条件を満たせば商標登録できます。ただ、多数の者がすでに使用している場合、登録が認められないケースもあります。例えば、福島県喜多方市のラーメン店でつくる団体の「喜多方ラーメン」の商標登録について、すでに多数の店が使用しているという理由で認められませんでした。(平成22年11月15日)
地域団体商標と先使用権
今回、問題となったのは、地域団体商標に関して先使用権が認められるか否かです。通常の商標の先使用権は、商標登録出願時における周知性が必要とされます。しかし、地域団体商標においては、周知性は要件とされません。地域団体商標の出願前から、日本国内において、不正競争の目的でなくその商標を使用していた場合、先使用権が認められます(商標法32条の2第1項)。
コメント
地域団体商標制度の先使用権について、周知性は要件とされていません。ただ、地域団体商標の出願前から使用していたことを立証する必要があるので、その証拠を示す難しさはあります。また、今回、先使用権の有無を判断する前提として、名称を使用できる地域の範囲について判断しました。今後は、地域団体商標の先使用権を争う場合、商品と地域との歴史的・文化的なつながりがあるかを証明していく必要があると思います。
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