薬事法から薬機法へ改正
2017/10/04   薬事法務, 薬機法

第1、イントロダクション

平成26年11月25日の改正により、薬事法は、『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』という長い名称に変わっています。各業界で略称が分かれているようですが、ここでは、薬機法という略称で、その改正内容についてご紹介したいと思います。

第2、改正のニーズと対策

1、医薬品・医療機器等に係る安全対策の強化

(1)薬事法改正のニーズ
ア、医薬品・医療機器等の実用化を促進するに当たっては、併せて、安全対策を強化することが必要とされていました。
イ、医薬品、医療機器等に添付する添付文書は、使用上の注意等を現場に伝える重要なものであり、薬害肝炎事件の検証において、添付文書の位置付けを改めるべきことが指摘されていました。また、添付文書は常に最新の知見が反映されていることが重要であり、薬事法では、これが明確となっていませんでした。
Cf:添付文書とは、
・使用者に必要な情報を伝達するため、医薬品等の使用上の注意等を記載した文書。
・記載要領(通知)に基づき各製造販売業者が作成しており、副作用報告等の安全性情 報を踏まえて随時改訂が行われていました。
・薬事法においては、添付文書の記載事項は定められているものの、最新の知見に基づき記載すべきことや、記載内容に対する国の関与については規定されていませんでした。
ウ、このため、添付文書の位置付けを見直すこと等により、医薬品、医療機器等に係る安全対策の強化を図ることが必要と考えられていました。

(2)薬機法での対策
ア、医薬品等の製造販売業者は、最新の知見に基づき添付文書を作成し、厚生労働大臣に届け出るものとされました。同時に、迅速な情報提供を行う観点から、届け出た添付文書を直ちにウェブサイトに掲載することとされました。
イ、薬機法の目的に、保健衛生上の危害の発生・拡大防止のため必要な規制を行うことが明示されました。
ウ、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保等のための関連事業者、医療従 事者等の関係者の役割が明確化されました。
エ、医療機関の副作用等の報告先を、製造販売業者の報告先と一元化して独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)とし、国はPMDAに情報の整理等を行わせることができることとするほか、必要な市販後安全対策を講じることとされました。

2、医療機器の特性を踏まえた規制の構築

(1)薬事法改正のニーズ
ア、医療機器は、パソコン等の他の機械製品と同様に短いサイクルで改善・改良が行われた製品が市場に供給される場合が多いことなど、医薬品と異なる特性を有しています。
Cf:医療機器の主な特性
①臨床現場での実際の使用を通じて、実用化されます。
②絶えず改良・改善が行われ、一製品あたりの寿命が短いです。
③有効性・安全性は、医師等の技能に依る部分が大きく、かつ、臨床現場では少量多品目が使用されています。
イ、新医療機器の開発・実用化については、医療の質の向上に寄与するとともに、我が国の経済成長を牽引する産業分野としても期待されていますが、承認・上市に時間がかかる等といった課題も指摘されていました。
ウ、さらに、医療機器の国際展開を進めるためには、国際整合性に配慮する必要があると考えられていました。
エ、このため、医療機器の特性を踏まえた制度改正を行い、医療機器の迅速な実用化と規制の合理化を図ることが必要と考えられていました。

(2)薬機法での対策
ア、医薬品と別個の章を新設し、法律の名称にも明示されました。
(ア)医療機器の製造販売業・製造業について、医薬品等と章を区分して規定されました。
(イ)「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性 の確保等に関する法律」という名称にし、医療機器が明示されました。
イ、迅速な実用化に向けた規制・制度を簡素化しました
(ア)民間の第三者機関を活用した認証制度を、基準を定めて高度管理医療機器にも拡大しています。これにより、PMDAの審査について新医療機器に重点化・迅速化を図ることができると考えられています。
(例)歯科インプラント、コンタクトレンズなど
Cf:このほか、
・製造販売の認証を受けた者の地位の承継
・登録認証機関の業務規程の認可
・厚生労働大臣による認証取消し等の命令
など、認証制度の拡大に合わせた所要の規定の整備が行われました。
ウ、単体プログラムの位置付けの明確化
Cf:単体プログラムとは、汎用PC等にインストールすることで、医療機器としての性能を発揮するプログラムのことをいいます。
(ア)単体プログラムについて、欧米では既に医療機器として位置付けられていることを踏まえ、これを医療機器の範囲に加え、製造販売等の対象とされました。
(例)MRI等で撮影された画像データの処理、保存、表示等を行うプログラム
エ、その他の改正事項
(ア)医療機器の製造業について、許可制・認定制から登録制に改め、要件が簡素化されました。
(イ)承認・認証において、個別製品ごとに行われていたQMS調査(製造管理・品質管理が基準に基づいて行われているかの調査)を合理化し、製品群 (医療機器の特性等に応じて種類別に大くくりしたもの)単位で調査を実施することとされました。
※既にQMS調査で基準に適合している製品と同じ製品群に属する製品 についてのQMS調査が原則免除されることとなりました。なお、都道府県によるQMS調査は廃止され、認証機関とPMDAに集約されました。
(ウ)現行の再審査・再評価に代えて、厚生労働大臣が指定する医療機器(※) について、製品の特性に応じて期間を設定し、当該期間中に使用成績に係る 調査を行い、有効性や安全性を確認することとされました。
※人工心臓など長期間に渡って体内に留置される製品を想定しています。
(エ)高度管理医療機器等の賃貸について、業として対価を得ずに貸与を行う場合についても、許可又は届出の対象とされました。
オ、医療機器を医療機関等に販売する際に、ウェブサイトに情報を掲載すること、医療機関の了解があること等の一定の条件を満たした場合は、添付文書の製品への添付を省略できることとされました。

3、再生医療等製品の特性を踏まえた規制の構築

再生医療とは、病気やけがで機能不全になった組織、臓器を再生させる医療であり、創薬のための再生医療技術の応用にも期待されています。
(1)薬事法改正のニーズ
ア、iPS細胞等による再生医療は、革新的な医療として実用化に向けた国民の期待が高いと考えられていました。一方で、安全面などの課題が懸念されていました。
イ、このため、再生医療等製品については、安全性を確保しつつ、迅速な実用化が図られるよう、その特性を踏まえた制度等を設けることが必要と考えられていました。
Cf:再生医療等製品の主な特性
人の細胞等を用いることから個人差などを反映し、品質が不均一となりやすいです。

(2)薬機法対策
ア、医薬品・医療機器と別個の定義付け
(ア)医薬品や医療機器とは別に「再生医療等製品」を新たに定義し、再生医療等製品の「章」を設けました。
Cf:再生医療等製品の範囲
a、人の細胞に培養等の加工を施したものであって、
(a)身体の構造・機能の再建・修復・形成や、
(b)疾病の治療・予防を目的として使用するもの、
又は
b、遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用するもの

Cf:再生医療等製品の例
a、(a)人の細胞に培養等の加工を施したものであって、身体の構造・機能の再建・修復・形成するもの
  (b)人の細胞に培養等の加工を施したものであって、疾病の治療・予防を目的として 使用するもの
b、遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用するもの

(イ)条件及び期限付承認制度が導入されました。
a、均質でない再生医療等製品については、有効性が推定され、安全性が確認されれば、条件及び期限付きで特別に早期に承認できる仕組みを導入しました。
その場合、承認後に有効性・安全性を改めて検証することとされています。
※条件及び期限については、販売先を専門的な医師や設備を有する医療機関等に限定する条件や、原則として7年を超えない範囲内の期限を想定しています。また、承認を受けた者は、期限内に使用成績に関する資料等を添付して、再度承認申請を行うことが必要とされています。
(ウ)安全対策等の整備
a、医師等は、製品の使用に当たって患者に対して適切な説明を行い、使用の 同意を得るよう努めるものとされました。
b、使用成績に関する調査、感染症定期報告や使用の対象者等に係る記録と保存など、市販後の安全対策を講じこととされました。
※厚生労働大臣が指定した再生医療等製品については、製造販売業者は 長期に記録を保存するとともに、医療機関は使用の対象者等について記 録・保存しなければならないこととする。
c、再生医療等製品による健康被害について、副作用被害救済制度及び感染等被害救済制度の対象とする。
(エ)その他の改正事項
a、製造所における製造管理又は品質管理の基準を作成し、品質・安全性等を確保する。
b、業として人体から採血することは原則として禁止されていますが、再生医療等製品について、その製造業者や医療機関が人体から採取した血液を原料として、 製品を製造することが可能となりました。(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律の改正)

第3、まとめ

 以上見てきましたように、薬機法では、大きく捉えると、①医薬品・医療機器等に係る安全対策の強化、②医療機器の特性を踏まえた規制の構築、③再生医療等製品の特性を踏まえた規制の構築という3点を主眼に改正が行われています。
 大きな改正でしたので、医薬品、医療機器を扱う企業にとっては、周知の内容だったことと思いますので、改めて対応が必要ということは少ないかと思いますが、安全性と迅速性を改善する改正になっており、消費者の保護を図りながら、医療の現場のニーズに応えた改正と評価できるのではないかと思います。

第4、参考資料

薬事法改正2014。名称変更の理由と新しい法律の変更点・ポイント(薬事法マーケティングの教科書)
薬事法改正について(厚生労働省医薬食品局)

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