三菱重工が日本商事仲裁協会に申立、「仲裁」とは
2017/08/01 訴訟対応, 民法・商法, その他
はじめに
三菱重工は7月31日、日立製作所との間で対立している、南アフリカでの火力発電所建設事業を巡る損失負担に関して日本商事仲裁協会に仲裁申し立てを行ったと発表しました。今後、仲裁人選定手続に入り、審理を行う予定とのことです。今回は裁判外紛争解決手続の一つである仲裁について見ていきます。
事案の概要
三菱重工の発表によりますと、三菱重工と日立製作所は2014年2月、両社の火力発電事業を分社化した上で統合させ、三菱日立パワーシステムズ株式会社を設立しました。この事業統合が行われる前の2007年に日立は南アフリカで火力発電所向けのボイラ建設プロジェクトを受注しておりました。当初三菱重工は当プロジェクトにより多額の損失が生じることを予見して、事業統合前の債務は日立側が負担する旨の合意を行っていたとのことです。最終的な両社の負担額について協議を重ねたものの解決には至らず、三菱重工は日立製作所に対し約7,743億円の支払を求め日本商事仲裁協会に仲裁申し立てを行いました。
仲裁とは
紛争当事者が、第三者の判断に服することを合意し、その判断によって紛争を解決する手続を仲裁と言います。裁判所における訴訟と違い、両当事者が仲裁人を選任し、私的な紛争解決機関を創設して紛争を解決するというものです。それゆえ基本的に仲裁人に制限はなく、その事業分野や慣習等に精通した人が選ばれることになります。また訴訟における上訴のような不服申立は無く、一審限りで終結することから、一般的に訴訟よりも期間が短くコストも安いと言われております。また訴訟は原則公開されますが、仲裁は非公開であり秘密保持に適しているとも言えます。
仲裁判断の効力
仲裁は裁判所による強制的・公権的な紛争解決ではなく、あくまで私人によるものですが、仲裁判断の効果は確定判決と同一の効力を有するとされております(仲裁法45条1項)。これは和解に確定判決と同一の効力が与えられている点と同様です。それゆえ当事者が仲裁判断に従わず、履行しない場合は確定判決と同様に強制執行をすることができます。ただし判決と違い、執行の際には裁判所の執行決定を受ける必要があります(同但書、46条1項)。そして仲裁判断には上記の通り不服申立てができず、またたとえ判断に不服があったとしても裁判所に訴えるというわけにはいきません。仲裁判断後、裁判所に訴えても、訴え却下となります。ただし、仲裁手続に行為能力の制限や、通知の不備、内容・手続の公序良俗違反などがある場合には例外的に取消を求め訴えることができます(44条)。
その他の裁判外紛争解決手続
仲裁意外の裁判外紛争解決手続(ADR)としては、あっせんと調停があります。あっせんとは仲裁とは違い、あくまで当事者間で紛争解決することを目指して、あっせん人が両者の話し合いを促進するというものです。調停もそういった意味では同様ですが、調停員や裁判官が間に入り、両者が話し合うといった特徴があります。いずれも仲裁とは違って強制的に解決する効力は無く、当事者間で折り合いがつかなければ紛争は解決しません。それゆえに両者に解決の意思がある場合に限り功を奏す手続と言えます。
コメント
以上のように仲裁手続は訴訟手続に比べて簡易迅速でコストも低いものと言えます。そして裁判官よりもその分野の慣習などに詳しい人を仲裁人にすることができ、より柔軟で的確な判断が可能な場合もあります。そして確定判決と違い国際条約(ニューヨーク条約等)によって海外での執行もやりやすいと言えます。また完全な対立構造となる訴訟よりも穏当な手段でもあることから、今後も協力関係を維持したい場合には適していると言えます。本件でも三菱重工は南アでの事業の負担割合だけが折り合いがつかないことから、その点について仲裁手続に付託したもので、今後も日立製作所とは協力関係を継続していくものと言えます。しかし上記のように訴訟手続きよりも厳格ではなく、仲裁人も法の専門家ではないことから、かえって不合理な結論が出たり、訴訟よりもコストがかかる例も存在します。訴訟も含めたそれぞれの手続の特徴やメリット・デメリットを正確に把握した上で、いずれの手続によるかを決定することが重要と言えるでしょう。
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