万博ルーマニア館建設工事費をめぐり、元請け企業が債務不存在確認訴訟
2025/09/08   契約法務, 債権回収・与信管理, 訴訟対応, 民事訴訟法, 建設

はじめに


大阪・関西万博のルーマニアパビリオンの施工を受注した外資系企業、GLイベンツジャパンが下請け建設業者を相手取り、「未払いがないことの確認」を求め提訴していたことがわかりました。建設業者側は請求棄却を求める方針とのことです。

 

事案の概要


報道などによりますと、被告側の建設会社は大阪・関西万博ルーマニア館の建設で2次下請けとして外構工事を担当していたとされます。

被告会社側の主張では、現時点で追加工事などの費用約1200万円が未払いとなっており、また直接の契約相手である1次下請けの会社も元請けのGLイベンツジャパンから工事費用が支払われていないとのことです。

これに対し、GLイベンツジャパンは工事費の未払いがないことの確認を求め東京地裁に提訴しました。

なお、日本国際博覧会協会には同様のトラブルに関する相談が本件を含め11件寄せられているとされます。

 

債務不存在確認訴訟とは


債務不存在確認訴訟とは、債務が存在しないことの確認を求める訴訟を言います。一般に訴訟は貸金債権や売買代金債権、不法行為債権などを持っている債権者側が提訴してその支払を求めますが、逆に債務者側から債権者側にその債務の「不存在」を確認することを求め提訴するという特殊性があります。

これにより請求される側がイニシアチブを取って紛争を収束させることが可能になっています。

すでに弁済した、代金を支払った、あるいはそもそも契約が無効または取り消されたにもかからわず先方からは依然として支払うことを求められ続けているといった場合や、悪質なクレーマーから執拗に金品を要求されているといった場合に法的な強制力を持って紛争を終わらせることが期待できます。

 

確認の利益


債務不存在確認の訴えに限らず、確認訴訟には“確認の利益”というものが必要です。これは訴えの利益とも言われ厳密には全て訴訟で必要となる訴訟要件の一つですが、確認訴訟では特に問題となることが多いと言えます。

“確認の利益”とは、原告の権利・法律的地位に危険・不安が現存し、その危険・不安を除去する方法として確認判決をすることが有効適切である場合を言うとされます。

一般的にその要件は(1)確認対象が適切であること、(2)確認訴訟によることが方法選択として適切であること、(3)即時確定の利益があることとされています。債務不存在確認の訴えの場合は現に相手方に請求されているといった場合には原則認められますが、もしかしたら請求されるかもしれないといった漠然として不安や懸念があると言った程度では認められないと言えます。

確認することが必要かつそれによって紛争を解決しうる場合でなければならないということです。

 

確認訴訟の特殊性


債務不存在確認の訴えに限らず、確認訴訟は一般的な給付訴訟に比べてかなり特殊と言えます。まず通常の給付訴訟では認容判決が確定したらそれを債務名義として強制執行することができます。

しかし、確認訴訟にはそのような執行力はありません。ただ求められている権利関係について確認がされるというだけです。そして、訴訟段階では証明責任についても通常の給付訴訟と異なってきます。通常の給付訴訟では原告側が原則としてその請求の原因について証明責任を負います。例えば不法行為の場合は、被告の故意・過失による権利侵害があったことや、損害が発生したこと、因果関係などを原告側が主張立証します。

債務不存在確認訴訟では自己の権利関係に具体的な不安や危険が存在し、それを解決するために確認が必要なこと、つまり確認の利益の存在の立証が必要となります。なお、被告側が確認の対象となっている債務について支払いを求める反訴を提起した場合は確認の利益は失われるとされます(最判平成16年3月25日)。

 

コメント


本件で大阪万博ルーマニア館の2次下請けである建設会社は約1200万円の建設費などの支払いを求めています。これに対しGLイベンツジャパン側は既に業者に約3億2000万円を支払っておりこれ以上の支払い義務はないとして債務不存在確認を求め東京地裁に提訴したとされます。

この訴訟で建設会社側は支払いを求め反訴を提起することも考えられ、今後の展開が注目されます。

以上のように、民事訴訟では積極的に相手に請求するだけでなく、債務は存在しないことを確認するといった訴えも提起が可能です。

これにより、不当な請求を繰り返すクレーマーなどの対処にも期待できます。一方で、確認訴訟は相手方に反訴を誘発し、紛争が長期化することにつながる場合もあると言えます。現状を性格に把握して、慎重に解決方法を選択していくことが重要と言えるでしょう。

 

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