最高裁が上限額を超える和解を有効と判断、司法書士の業務範囲について
2017/07/26 コンプライアンス, 弁護士法, その他
はじめに
過払い金を巡る債務整理で司法書士が関与できる上限額を超えた和解契約の有効性が争われていた訴訟の上告審で24日、最高裁は有効であると判断しました。上限額の判断基準とそれを超える場合はどうなるのか。司法書士の業務範囲について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、平成20年12月、富山市内の男性の過払い金を巡る債務整理を司法書士が受任しました。当該司法書士は相手方金融業者と約330万円の過払い金につき、残債務を200万円とする和解契約を男性本人名義で締結しました。その後男性本人が和解契約は無効であるとして同金融業者に対し過払い金返還訴訟を提起しました。一審富山地裁は和解は有効であるとして請求棄却。二審名古屋高裁金沢支部は一転和解は無効であるとして請求を認容しました。これに対し被告金融業者は司法書士への委任は無効でも和解契約自体は直ちに無効とはならないとして最高裁に上告していたとのことです。
司法書士の業務範囲
司法書士は一般的に知られているように、不動産登記、商業登記の手続の代理を行います(司法書士法3条1号)。その他にも供託手続の代理や法務局、裁判所、検察庁に提出する書類の作成代行も行います(同2号、3号、4号等)。そして法務大臣の認定を受けた、いわゆる認定司法書士は簡易裁判所において140万円を上限とした訴訟手続、和解、仲裁について代理することができます(同6号、7号)。ここで140万円の具体的な判断基準が問題となりました。この点につき司法書士会連合会は依頼者の受ける経済的利益が簡裁の上限である140万円を超えるかで判断するとしました。それに対し日弁連は債権者が主張する債権額を基準にすべきとし、両者が対立しておりました。つまり借金額が140万円までなのか、過払い金額が140万円までなのかといった点で不明瞭となっておりました。
上限判断に関する判例
この点につき最高裁は経済的利益ではなく、個別の債権額を基準として判断するとしました(最判平成28年6月27日)。その理由としては裁判所法33条1項1号の訴額を超えないものについて司法書士に代理権を認めたこと、複数の債権の整理でも結局は一つ一つの債権ごとに解決方法が異なること、そして相手方や第三者から見ても客観的で明確な基準によって判断すべきことなどを上げております。この判例によって日弁連側が主張する基準が認められたものと言えます。
上限を超えていた場合の効力
以上のように司法書士が受任できる上限である140万円については、個別の債権額、つまり借入金の額によって判断されるようになりました。債権額が140万円を超える場合は、司法書士への訴訟手続委任は無効ということになります。では既に行われた債権額が140万円を超える事件での和解契約の効力は無効となるのか、それとも有効として存続するのかが問題となりました。
コメント
本件で司法書士が受任した額は、過払い金として330万円であることから、判例の基準ではなく司法書士会の基準に立ったとしても上限額である140万円を超えております。それ故本来は受任自体が無効となります。そして既になされた和解契約の有効性について最高裁は、和解契約自体はその内容、締結に至る経緯等に照らし、公序良俗に反するといった特段の事情がない限り有効としました。その理由として司法書士法、弁護士法違反行為自体は懲戒処分や刑事罰等で実効性が担保されていることから和解契約まで無効とする必要はないこと、和解契約自体の内容、経緯に問題がなければ無効とする必要がないこと、紛争が解決されたと理解している当事者を害することなどが挙げられております。これまで認定司法書士は過払い金の額等、委任者の利益を基準に判断しており、たとえ債権額が140万円を大きく上回っていたとしても実際の請求額が140万円を超えていなければ受任してきたとされます。上記一連の判例により今後はより厳格なものとなります。弁護士を使うまでもない低額債権の場合は司法書士を利用することが便利と言えますが、債権額自体が140万円を超える場合、または債権総額が不明瞭な場合は弁護士に委任することが安全であると言えるでしょう。
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