JASRACが京大に著作権料徴収せず、著作物の引用について
2017/05/26   知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント

はじめに

日本音楽著作権協会(JASRAC)は24日、米歌手のボブ・ディラン氏の歌詞に触れた入学式の式辞をホームページに掲載していた問題で、京都大学に対して著作権使用料の請求はしない旨発表しました。今回は著作物を許諾なく利用できる場合である「引用」について見ていきます。

事案の概要

京都大学の山極寿一学長は4月の入学式の式辞で、昨年ノーベル文学賞を受賞した米シンガーソングライターのボブ・ディラン氏の歌詞に触れました。そして同校のHPで掲載したところJASRACからこの点について問い合わせがなされたとのことです。HPにはボブ・ディラン氏の「風に吹かれて」の歌詞「How many roads must a man walk down Before you call him a man?」など4つのフレーズとその日本語訳が掲載されており、これについて第三者から著作権上問題がないのかJASRACに問い合わせがあったとのことです。JASRACはこの問題について24日、「引用として判断している。請求はしない」との発表を行いました。また京大への問い合わせについても、使用料の請求ではなく単に利用目的を確認しただけの「日常業務」にすぎないとしています。

著作権侵害について

著作権については以前にも取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。著作権は他の商標権や特許権と違い著作物が制作された時点で自動的に発生します(51条1項)。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」を言い(著作権法2条1項1号)、著作権は著作者の死後50年を経過するまで存続します(51条2項)。著作権侵害がなされますと差止請求(112条)や損害賠償請求(114条、民709条)といった各種民事上の請求がなされ、さらに10年以下の懲役、1000万円以下の罰金といった罰則も規定されております(119条1項等)。他人の著作物を使用する場合は原則的に著作権者の許諾が必要となりますが、例外的に不要な場合があります。その一つが「引用」です。以下具体的に見ていきます。

引用とは

著作権法32条1項によりますと、「著作物は、引用して利用することができる。」「この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、・・・目的上正当な範囲内でおこなわれるものでなければならない」としています。また48条1項では引用する際には著作物の出所を「合理的」と認められる方法及び程度により明示しなければならないとしています。つまり正当な目的があり公正な慣行に合致し出所を明示していれば許諾なく著作物を使用することができるというわけです。この条文の要件は抽象的で不明瞭ですが、いくつかの判例によって適法な引用の要件が具体化されております。以下見ていきます。

引用の要件

(1)明瞭区分性
明瞭区分性とは括弧でくくる等、どこからどこまでが引用部分であるかを明確に示しているかを言います。自分の意見なのか、別の人の著作物からもってきた他人の意見なのかを明確に分ける必要があるというわけです。本なのか広告なのか学術論文なのかといった著作物の種類等によってその区分の仕方は異なりますが、基本的にはその業界の慣行にしたがうことになります。

(2)主従関係
主従関係とは自らの文章と引用してきた文章のどちらが主でどちらが従と言えるかの関係を言います。自分で書いた文章よりも引用した文章のほうが圧倒的に多い場合はもはや適法な引用とは言えないということです。この主従関係は両者の分量の対比のみでなく、引用の目的、両者の性質、分量を総合的に考慮して引用著作物が主たるものであり、引用された著作物が参考や補足といった従たるものであるかを読者の一般通念に照らして判断することになります。

(3)正当な範囲
引用は明瞭に区分され主従関係が認められても、「正当な範囲内」でなければなりません。正当な範囲とは具体的には引用の必然性や引用した量および範囲の必要性、そして引用方法の適切性を言います。自分の文章とは関連性のない他人の意見を持ってくることは必然性が認められませんし、自分の意見の補足や参考になる部分を超えて、関連性が無い部分まで引用することは量と範囲の必要性を欠くことになります。あくまで補足・参考のために必要と言える範囲でなければならないということです。

コメント

本件で京大学長が引用したボブ・ディラン氏の歌詞は分量にして式辞全体の10分の1程度に過ぎず、また英文の下に和訳を置いて引用部分が明瞭になっており、ボブ・ディラン氏の「風に吹かれて」からの引用であることが明示されております。また目的についても、答えのない問に常識にとらわれず目をそらさずに追求することの重要性を補足させる目的で引用したと言えることから適法な引用と言えるでしょう。昨今問題となっているキュレーションサイト等で掲載されている記事は他人の記事をほぼそのままコピーしたものや、引用がほとんどで自己の意見がわずかしか書かれていないものなど不適法なものが多いとされております。広告やブログ、HPの製品紹介等でも学術論文やメディアの記事を引用することは多々あると思われますが、上記適法引用の要件を念頭に、著作権侵害とならない範囲で適切に引用することが重要と言えるでしょう。

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