職場でハイヒール強要は違法?ー男女で異なる服装規定についてー
2017/03/04 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
先日、イギリスで、ある事件を発端に女性に職場でのハイヒール着用を義務付けることが違法ではないかと話題になっています。そして、ついには3月6日にイギリス議会の審議で取り上げられることとなりました。日本においても、職場におけるセクシャルハラスメント防止は企業にとって避けて通れない課題となっており、注目すべき事件であることは間違いないでしょう。
事件の概要と経過
イギリス在住の女性ニコラ・ソープさんは、2015年12月、受付業務アウトソーシング会社ポーティコからコンサルティング会社会社プライスウォーターハウスクーパースに受付嬢として派遣されました。そして、その初出勤日にソープさんがフラットシューズを履いて現れたところ、待ち合わせたポーティコのマネージャーに「女性は約5~10センチのハイヒールを履かなければならない」とポーティコの服装規定に規定されているため、至急買ってくるよう命じられました。
しかし、ソープさんは、派遣先での業務が9時間のシフトで来客を会議室に案内しなければならないものであるのでハイヒールを履くことはできないとして、マネージャーの命令を拒絶しました。すると、ソープさんはマネージャーに帰宅するよう命じられ、そのままその日の賃金が支払われることなく、解雇されてしまったのです。
そして、ソープさんはハイヒールの着用を義務付ける服装規定は性差別的であり、そのような服装規定を違法とすることを求めるオンライン請願を始めました。オンライン請願とはイギリスの議会に設けられている制度であり、国民の誰もがインターネットを通じて自由に始めることができ、署名が1万件以上集まれば議会から回答を得ることが可能で、10万人以上集まれば下院議会で審議されることになります。そして、ソープさんのオンライン請願に対する署名は最終的に15万2000件以上に上り、この度、3月6日の下院議会での審議にかけられることになりました。
関連する法制度と裁判例
イギリスには2010年平等法という法律があり、ハイヒールを強要するのは本来違法となりますが、イギリス下院議会の「請願委員会」と「女性と平等委員会」によると、一部の業界では差別的な服装規定がまだまかり通っており、平等法が効力を発揮しておらず、修正の必要があると指摘されています。
一方、わが国では、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)において、事業主は、労働者の募集・採用、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由として、差別的取り扱いをしてはならない(同法5条、6条)と規定されています。
また、性差別が問題となった訳ではないものの、企業の服装・身だしなみ規定が問題となった裁判例として、ハイヤーの運転手が口ひげを理由として乗務を外されたことに対し,口ひげが乗務に支障を及ぼすとは考えられないと判断したもの(東京地裁昭和55年12月15日判決)や,茶髪を理由に運送会社を解雇されたことに対して,「茶髪が営業に具体的な悪影響を及ぼした証拠はない」として解雇が無効とされたもの(福岡地裁平成9年12月15日判決)があります。
まとめ
わが国では、今ところ本件のような服装規定における男女別の取扱いが大きな問題とはなっていませんが、男女雇用機会均等法の規定を文言どおりに解釈すれば、男女で異なる服装規定を設け、それに違反したことを以って解雇することは、性別を理由として、解雇について差別的取扱いをしたとして違法と評価されるかもしれません。また、本件では、ソープさんはオンライン請願を始める前に事件についてフェイスブックに投稿し、それが大きな話題となっていたという背景があります。ゆえに、我が国においても、不満を持った従業員がSNSに投稿し、企業イメージを低下させるという危険性があり、そのようなリスクを避ける観点からも、男女で異なる服装規定を設けることには慎重になるべきでしょう。
新着情報
- 弁護士
- 目瀬 健太弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号

- セミナー
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
- 登島さんとぶっちゃけトーク!法務懇談会 ~第15回~
- 終了
- 2025/04/23
- 19:00~21:00
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号

- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード

- まとめ
- 株主提案の手続きと対応 まとめ2024.4.10
- 今年もまもなく定時株主総会の季節がやってきます。多くの企業にとってこの定時株主総会を問題無く無...

- 解説動画
岡 伸夫弁護士
- 【無料】監査等委員会設置会社への移行手続きの検討 (最近の法令・他社動向等を踏まえて)
- 終了
- 視聴時間57分

- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分

- ニュース
- 1000円着服で懲戒免職に退職金1,200万円不支給、最高裁は「適法」と判断2025.4.22
- 運賃1,000円を着服したなどとして懲戒免職となった京都市営バスの元運転手の男性。男性は退職金...