残業代が支払われない?-管理監督者とは-
2017/02/21 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
2017年2月17日、大手弁当チェーン店の運営会社が店長を管理職扱いにして残業代を支払わなかったのは違法であるとして、静岡地裁は同社に対し約160万円(残業代等)の支払いを命じました。判断のポイントとなったのは、本件における店長という役職が労働基準法(以下、「労基法」と表記)上の「監督若しくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」と表記)に当たるか否かという点でした。
そこで今回は、管理監督者の労基法上の地位を確認した後、どのような場合に管理監督者に該当するのかという点について見ていきたいと思います。
管理監督者の労基法上の地位
労基法によると、管理監督者となった者は労働時間等の規定の適用が除外されることになります(41条2号)。管理監督者も労働者ではあるものの、同時に経営者の側面が強くなってくるため、労働時間規制の必要は無いであろうとの考えに基づくものです。適用が除外される規定は以下の通りです。
① 労働時間(32条):1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならない
② 休憩(34条):1日6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならない
③ 休日(35条):毎週少なくとも1日の休日(法定休日)を与えなければならない
④ 割増賃金(37条):32条の法定労働時間を超え、または35条の法定休日に労働させた場合は、所定の割増賃金を支払わなければならない
上記のうち、冒頭の事件では④の支払いが主たる争点となりました。労基法上、管理監督者には基本的に労働時間規制が適用されないため、そもそも残業時間という概念がなくなり、結果として残業代を支払わなくても良いと考えられているわけです(なお、深夜労働の部分については、管理監督者に対しても割増賃金を受給する権利が原則として認められています)。したがって、自己の役職が管理監督者に該当するかどうかということは、通常であれば給与の額に大きく関わる問題となります(残業代分を「役職手当」という形で補填している会社も中にはあるようです)。
管理監督者該当性の判断基準
では、どのような場合に管理監督者に該当するのでしょうか。「店長」や「部長」「課長」という名称からはまさに「管理監督をしている者」という印象を受けるので、それだけで法律上も管理監督者ということになってしまうのでしょうか。
裁判所はそのようには考えていません。冒頭の事件と同様に管理監督者性が争われたものとして「日本マクドナルド事件」(東京地判平成20年1月28日労判953号10頁)があります。この事件の裁判においては、厚生労働省からの通達(昭和63年3月14日)に基づいて以下の3つのポイントで管理監督者性が否定されました。
① 職務内容・権限・責任等
店長は各店舗の人員について採用や勤務シフトの決定など店舗経営において重要な職務を負っているものの、日本マクドナルドの経営者と一体的な立場で企業全体の経営には関与していない。
② 労働態様・労働時間管理の現況
店長には自分の労働時間を自由に決定できる裁量があったものの、実際には月100時間を超える残業等の長時間労働を強いられていたことが重視され、実質的に労働時間を自由に決定できない状況であった。
③ 待遇
店長の平均年収は約700万円、ファースト・アシスタントマネージャーの平均年収は約590万円であったことから、その地位に相応の優遇を受けていたとも思えるが、店長の中でも評価によってはファースト・アシスタントマネージャーの平均年収を下回る場合もあり、店長の労働時間の長さを考えると十分な優遇とはいえない。
上記のポイントは、単に役職の名称だけでなく、その人が社内においてどのような地位であり、どのような仕事をしており、それに対してどのような待遇がなされているのかということ等を個別具体的に総合考慮し、管理監督者に該当するか否かを判断しているという点です。冒頭の判決においても裁判長は「店長は経営上重要な決定に関与しているとは言い難く、管理職に応じた高い待遇を受けていたとは認められない」と述べており、同様の基準で判断しているということが伺われます。
おわりに
世の中には業種や業務形態に応じて様々な肩書が存在します。各企業における肩書と労働条件の関係が勤務実態に即しているものとなっているのかどうかを、もう一度、使用者と被用者の両方の視点から見直してみることも大切だと思います。
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