近隣住民によるマンション建築確認の取消訴訟について
2016/11/04 行政対応, 訴訟対応, 民事訴訟法, 住宅・不動産

はじめに
世界遺産下鴨神社の隣接地で建設予定の分譲マンションを巡り、近隣住民など8人が京都確認検査機構を相手取り建築確認の取り消しを求める訴えを京都地裁に起こしていることがわかりました。建造物の建築に際して、処分の当事者以外の住民等から起こされる行政訴訟について見ていきます。
事件の概要
下鴨神社は1994年に世界遺産に登録されました。2015年3月、その境内南端のいわゆる緩衝地帯とされる部分にJR西日本不動産開発(兵庫県尼崎市)合計8棟からなる低層高級マンションを建設する計画が発表されました。50年間の定期借地権を付けて分譲する計画で、下鴨神社は年間8000万円の地代によって式年遷宮の費用を賄うとしています。近隣住民は神社としての神聖・荘厳さや風致・景観を損ね、またユネスコが求める世界遺産としての価値を失うとして指定確認検査機関である京都確認検査機構による建築確認に対し審査請求の申立てを行っておりました。また敷地内の樹木45本の伐採を認めた京都市風致地区条例による風致許可も違法であり、それに基づく本件建築確認も違法であるとして京都地裁に取り消しを求める訴えを提起しました。
建築基準法上の規制
建築基準法によりますと、一定の規模以上の建造物を新築、増改築、大規模修繕等を行う場合には建築確認を受けなければならないとしています(6条1項)。建築確認とは工事の着手前に、その計画が建築基準関連規定に適合するかについて確認を行い、適合すると判断された場合には確認済証が交付されるというものです。確認を行うのは通常自治体の建築主事ですが、平成11年改正から指定確認検査機関という民間事業者によってもなされるようになりました。事業者は建築確認を受けなければ工事に着手することができません。
取消訴訟
行政事件訴訟法3条2項によりますと、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に対しては取消訴訟を提起することができます。行政処分とは許可や認可、といった受益的なものから、不許可処分、営業停止処分といった不利益なものもあります。建築確認も行政処分の一つです。取消訴訟では、問題となっている処分が法に反して違法であると認められた場合には裁判所により取り消されることになります。通常取消訴訟は処分を受けた者や処分の申請をしたのに不許可となった者といった当事者が提起します。しかし一定の要件の元に近隣住民や一般消費者、消費者団体といった第三者にも取消訴訟の提起が認められることがあります。これを原告適格の問題といいます。
第三者の原告適格
行政事件訴訟法9条1項によりますと、「処分の取り消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」に限り取消訴訟を提起することが認められております。通常は処分の相手方当事者です。しかし一定の場合には第三者も該当します。判例によりますと処分の根拠となる法令上、不特定多数の人の個別的利益として保護している利益が侵害されることになる場合には、その人も「法律上の利益を有する者」に該当するとされております。つまり根拠法令によると近隣住民等の利益にも配慮して、不利益を被らせないように規定されていると解釈できる場合には近隣住民にも原告適格が認められることになります。認められた例としましては、騒音被害を受ける飛行場の周辺住民、原子炉の周辺住民、崖崩れにより被害を受ける可能性のあるマンション周辺住民、日照被害を受ける建築物の周辺住民等が挙げられます。利益の内容が住民の生命や身体と言った重要なものほど認められやすいと言えます。
コメント
本件で下鴨神社の近隣住民には世界遺産にも登録され、歴史的価値の高い神社の静謐で荘厳な環境の下で生活するという利益が損なわれようとしています。この利益が建築確認という処分の根拠となる関係法令群によって保護されていると解釈された場合には原告適格が認められることになります。しかし建築確認は基本的に建築しようとしている建造物が法の基準を満たしているかを機械的に判断するもので、満たしている場合には確認済証を出さなくてはなりません。そこには裁量の余地は無いとされており、また住民の利益の内容も生命・身体といったものではないことから本件では原告適格が認められる可能性は低いのではないかと思われます。仮に認められても、あくまで取消訴訟の入り口に入っただけであり、そこから本来の処分の適法性が判断されます。このように周辺住民による訴訟で建築確認や事業認可が取り消されることは少ないと言えます。しかし事業計画を策定した段階で周辺住民による反対運動等が起こった場合、行政は住民の理解を得るよう行政指導を行うことがあります。建築確認には裁量はありませんが、合理的な範囲内で行政指導中は確認済証の交付を留保することも判例上は認められております(最判昭和60年7月16日)。大規模なマンションや商業施設の建築を計画している場合には周辺住民の意向にも注意を払い、理解を得る努力が必要と言えるのではないでしょうか。
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