職場での旧姓使用を求める訴え認められず、企業での通称使用について
2016/10/13   訴訟対応, 民事訴訟法

◆はじめに

 結婚後に職場で旧姓使用が認められず人格権を侵害されたとして、旧姓使用と損害賠償を求めた請求が棄却された。
そこで、旧姓などの通称を使用することを企業として認めるべきなのか検討したい。

◆事案の概要

 原告の30代女性は2003年から私立の中高一貫校に勤務し、2013年に結婚した後も学校側に旧姓を使うことを要望したが、就業規則などを理由に認められなかった。
もっとも、時間割表や成績通知表等には戸籍名を使用しているが、教室内では旧姓を名乗り、多くの生徒や保護者からも旧姓で呼ばれている状況だったという。

 裁判所は、「旧姓は人が結婚前に築いた信用や評価の基礎であり、旧姓を使用して信用や評価を維持する利益は法律上保護される」とした一方で、「職場という多数の人が関わる場所では、個人を識別・特定するために戸籍上の姓の使用を職員に求めることは合理的」であり、「この合理性は、旧姓が使用できなくなる不利益を上回る」と判断した。
また、教職員でも旧姓が使える場合が多数あるなど、旧姓使用が認められる範囲が広がっているとしながら、「(職場での)旧姓使用が社会に根付いているとはいえず、戸籍姓使用が違法な人格権の侵害とは評価できない」とした。

 以上から、「旧姓を使うことが人格権の一つとして保護されるものだとしても、職場で戸籍名の使用を求めることをもって、違法な侵害とは評価できない」と判断して原告の訴えを棄却した。

◆通称使用について

 日本では改名には家庭裁判所の許可が必要なため、本名とは別の姓を用いたい者が通称を使う場合がある。
例えば婚姻や養子縁組によって戸籍上の姓が変わった者が、職業上の便宜のために旧姓を使用し続けるケースなどである。
 
 通称使用のメリットとしては、既婚女性のアイデンティティの確保が挙げられる。
2012年の家族の法制に関する世論調査(内閣府)によれば、婚姻をきっかけに姓が変わることに喜びを感じると思う者の割合が47.5%と高い一方で、「名字(姓)が変わったことに違和感を持つと思う」者も22.3%おり、33%の人が姓によって自己喪失感を感じると答えている。
また、会社内では、名刺やアドレスの変更等の手間が省ける、取引先や会社内部への新たな姓を改めて周知させる必要がないなどのメリットも挙げられる。
デメリットとしては、国家資格の職業によっては戸籍姓のみ認められたり、公的書類の姓と同一でない場合に処理が煩雑になったりするといったことが挙げられる。

(引用 家庭の法制に関する世論調査

◆通称使用についての最近の動向

 最高裁大法廷は2015年12月の民法上の夫婦同姓規定を合憲とした判決で、「通称としての旧姓使用が広まれば不利益は緩和される」と指摘している。
 また、政府が2016年5月に示した「女性活躍加速のための重点方針」でも、マイナンバーカードへの旧姓併記や、公務員の旧姓使用の拡大などの方針が盛り込まれ、旧姓使用容認の機運は高まっているといえる。

◆コメント

 今回の判決では、現状として既婚女性の7割が職場で戸籍上の氏を使用しているという調査結果も原告の主張を退けた理由の一つとして挙げられている。

 もっとも、女性の社会進出・活躍が出来る機会の増加やそれに伴う政府の動向は企業としても見過ごすことは出来ない。
民法上は夫婦同姓が規定されているため旧姓使用を認めないことも違法ではないが、今後企業としては一定の要件の下で通称使用を認める等、業務内容や社風に適した検討を行う余地があるだろう。

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