企業間訴訟で活用が増加、証拠保全について
2016/09/07 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

はじめに
日経新聞電子版は5日、特許侵害や企業秘密盗用などの企業間トラブルを巡り、訴訟に先立って「証拠保全」手続を利用するケースが増加している旨報じました。今年5月には三重県のサービス業の会社事務所に違法コピーのソフトを会社ぐるみで使用している疑いで証拠保全がなされ70台のPCの証拠調べがなされたとのことです。今回は証拠保全について概観します。
証拠保全とは
本来の訴訟における証拠調べ手続まで待っていたのでは証拠調べが困難ないし不可能となるおそれがある場合に、あらかじめ証拠調べ等を行い、その結果を将来の訴訟で利用するために確保しておく手続を証拠保全と言います(民事訴訟法234条)。たとえば証人となるべき人がまもなく海外に移住してしまう場合や、証拠物が滅失してしまうといった場合が本来想定されておりました。しかし実務上では医療過誤訴訟等のように証拠物件のほとんどを相手側が保持しているというように証拠が偏在する場合の証拠収集手段として活用されてきました。これが近年では特許権や著作権侵害、企業秘密の持ち出しといった企業間紛争にも活用が広がっているとされています。警察などの国家機関と違い強制的な捜査権限をもたない民間の訴訟当事者が証拠を確保する有効な手段となっております。
証拠保全の手続
(1)申立て
証拠保全を行う場合にはまず証拠保全の申立てを行うことになります(234条)。申立ては書面で行い(民訴規則153条1項)、書面には①相手方の表示②証明すべき事実③証拠④証拠保全の理由を記載することになります(同2項)。証拠保全の理由として、滅失や改ざんのおそれがある等具体的に記載することになります。あわせて理由を疎明する資料も添付することになります(同3項)。証拠保全には迅速性が要求されますので、相手方がいまだ特定できていない場合でも申し立てることができます。この場合には裁判所は特別代理人を選任することになります(法236条)。また訴え提起後は裁判所が職権で行うこともあります(237条)。
(2)管轄裁判所
申立てを行う管轄裁判所は訴えの前後で異なります。訴え提起前の申立ては、保全対象の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に行うことになります(235条2項)。訴え提起後に申立てする場合は、その証拠を使用すべき審級の裁判所に申し立てることになり、審理が開始された後は受訴裁判所に申し立てることになります(同1項)。
(3)審理
証拠保全の申立てがなされた場合、裁判所は決定手続で証拠保全の理由の有無を審理することになります。理由があると認めた場合には「証拠保全決定」を出すことになります。この証拠保全決定に対して相手方は不服があったとしても不服申立てを行うことはできません(238条)。それに対して申立人は証拠保全の却下決定に対しては抗告をすることができます(328条1項)。
(4)実施
証拠保全決定が出された場合は、保全の対象の性質に応じて証人尋問、書証、検証等の証拠調べが実施されます。実施に先立って執行官から相手方に証拠保全決定書正本と期日呼出状が送達されます。実施の際には通常、裁判官、書記官、原告代理人、相手方が立会い、記録のためにカメラマンが同行することもあります。急速を要する場合には、申立人と相手方の立会がなくても証拠調べを実施することは可能です(240条)。
コメント
本来証拠保全手続は上記のように、訴訟の証拠調手続実施まで待てない場合の緊急措置として運用されることが想定されていました。しかし実際には訴訟を提起する前に、相手方に証拠の開示を裁判官立会のもとで迫る機能を有していることから、強力な証拠収集手段として活用されてきた側面があります。証拠保全決定に基いての証拠調べには法律上の強制力はありません。決定正本が送達され裁判官を伴って証拠保全に来られても、それを拒否することは可能と言えます。しかし拒否した場合その後の訴訟で原告の主張が真実であると裁判官に判断されてしまう可能性があります(232条1項、224条)。つまり事実上の強制力を有していると言えます。特許権侵害等の知財紛争では証拠収集に活用することによって訴訟や和解で有利に進めることも可能になります。一方で逆に証拠保全を受けることになった場合には注意が必要です。証拠保全手続で開示すべき証拠は送達されてきた決定書正本に記載されたものになります。通常は送達から実施まで数時間しかなく、受けた側は検討や準備もできないまま動揺して不要なものまで開示してしまうことも多々あります。証拠保全手続は活用して訴訟を有利に進めるだけでなく、受けた場合に備えてあらかじめ対応を検討しマニュアル化しておくことが重要と言えるでしょう。
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