法務部員の副業としての法律業務と弁護士法72条
2016/09/05   コンプライアンス, 弁護士法, その他

法務部員の法律業務が弁護士法72条違反にならない理由

 弁護士法72条によれば、弁護士でなければ、報酬を得る目的で他人の法律事件に関する法律事務を取り扱うことができない。その趣旨は、非弁護士が他人の法律事件に介入してくると、法律秩序が混乱し、国民の公正な法律生活が侵害されるおそれがあるため、非弁護士の法律事件に関する行為を禁圧する点にある。
 企業と法務部員とでは、「法人」と「自然人」という違いがあり、両者は、他人である。そして、法務部員が自社の法律業務を取り扱うことは、弁護士法72条が禁止している他人の法律事務を取り扱うことにあたるようにも思える。しかし、法務部員については、企業と雇用契約等を締結し、企業の指揮命令下に入ることで、いわゆる他人性の要件が解決されていると考えられる。
 また、他人性の要件が解決されている以上、法務部員は「自社」の法律事務を、いわば「自己」の法律事務として取り扱うことになるため、契約関係法務や株主総会関係事務等はもちろんのこと、自社に関する訴訟や交渉に対応する紛争対応事務も行うことができる。
 このため、法務部員の法律業務は、弁護士法72条違反にならないのである。
 なお、法務部員は、自社の訴訟代理人となることができないことには注意をする必要がある。

グループ会社間での法律業務の取扱い

 グループ会社間における法律業務の提供等において、各企業の法務部員が弁護士法72条に違反するかという問題は、以前から議論されてきた論点である。
 この点に関し、法務省は、
 ①グループ企業間であっても、各企業は別の法人格である以上、法律業務について弁護士法72条の規制を全く受けないとはいえない
 ②一定の場合には、同条の「報酬を得る目的」や「法律事件」の要件を欠くことにより、結果として同条に該当しないこととなる
との解釈を以前から示していた。
 これに加えて、2016年6月30日、法務省は、
 ①弁護士法72条の解釈・適用は捜査機関、裁判所の判断に委ねられるものであること
 ②一定の場合には、親会社の子会社に対する法律業務の取扱いは、弁護士法72条に違反するものではないとされる場合が多いこと
 ③同条に違反するかは、行為の内容や態様だけではなく、親会社・子会社の目的やその実体、両会社の関係、当該行為を親会社がする必要性・合理性その他の個別の事案ごとの具体的事情を踏まえ、同条の趣旨に照らして判断すべきこと
との判断も示している。
 この判断は、弁護士法72条のどの文言の該当性に欠けることになるのかが明らかではないが、規制を緩和にする方向に解釈をしているものと考えられる。すなわち、グループ企業間であったとしても、他人性の要件が解消されるわけではないが、一定の場合には、「報酬を得る目的」や「法律事件」の要件を欠くことにより、グループ企業間において法律業務の提供等をすることができるのである。どのような場合が「一定の場合」にあたるかについて、法務省は、次のような具体例を示している。

 ・「報酬を得る目的」について
  実質的に無償委任といえる場合であれば、特別に要した実費を受領しても、報酬とはいえない。この「実費」にはコピー代等が含まれ得るが、人件費のように当該事務のため特別に費やされたといえないものは、報酬と評価されることが多い。

 ・「法律事件」について
  ‣法律事件にあたらないもの
   ⊡通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話し合いや法的問題点の検討に関する「契約関係法務」
   ⊡具体的な紛争を背景にしない「法律相談」
   ⊡新株発行などの「株式・社債関係事務」
   ⊡株主総会の開催について会社法等の関係法規との適合性を確保するための「株主総会関係事務」

  ‣法律事件にあたるもの
   ⊡紛争が生じてからの和解契約の締結等の「契約関係法務」
   ⊡具体的な紛争を背景にした「法律相談」
   ⊡「訴訟管理関係事務」

参考資料
グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について(pdf)
親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条(pdf)
グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について【参考資料】(pdf)

法律業務の副業

 このような現状において、法務部員が法律業務で培ったスキルを他社で発揮することは可能であろうか。
 法律事件にあたらないような法律業務をすることはもちろんのこと、法務部員が自社だけではなく、他社とも雇用契約等を締結すれば、他人性の要件を解決することができる。このため、法務部員が法律業務の副業をすることができる、と弁護士法72条を解釈することも可能といえる。
 もっとも、雇用契約等を締結しさえすればよいとなると、例えば、業務を行う時間が、週1時間である、週2、3日である、土日の数時間である、等といったように勤務条件が多様化するであろう。このとき、どの程度の勤務条件であれば、弁護士法72条に違反しないかの判断を企業が単独で判断することは難しいであろう。としても、雇用契約等の締結の度に、勤務条件が弁護士法72条に違反しないかに関して弁護士会等に照会するような状態になることは、企業、弁護士会等の双方にとって迂遠であり、現実的ではない。
 また、前述のように、グループ企業間での法律業務の取扱いに関してでさえも制限的にしか認められていない流れの中では、法務部員が副業をしていこうという流れにはなりづらいものといえる。
 副業が解禁されていく流れの中で、法務部員だけが副業をすることにつき、他部門の従業員に比べて制限されてしまうというのは、いかがなものかと思う。弁護士法72条の解釈によっては、法務部員が法律業務に関する副業を全くできなくなることもある。弁護士法72条の趣旨が、非弁護士の法律事件に関する行為を禁圧する点にある以上、法律事件にあたらないものについては、法務部員に幅広く活躍の場を与えても、その趣旨に反することにはならない。むしろ、「正社員として法務部員を雇用できないが、週に何日か法律業務をしてほしい」、等という企業のニーズと合致し、雇用の創出に資するものといえる。このため、法務部員の副業としての法律業務につきより明確な法的根拠を与えるためにも、弁護士法72条に関して立法による解決が必要になってくるのではないだろうか。

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