「相続クーデター」の対策について
2016/08/23   コンプライアンス, 会社法

 日本国内に存在する企業のうち99.7%は中小企業であり、かつそのうち大多数は同族企業であるといわれています。そこで、今回は、同族企業特有の「相続クーデター」について考えてみたいと思います。

同族企業とは
 同族企業とは、特定の親族などが支配・経営する企業体系のことをいいます。大企業でいうと、創業者一族の支配力が大きいサントリー等が同族企業にあたります。

同族企業の具体的特徴としては、
①社長等の重役を自分の親族(配偶者・息子等)に就かせる
②一族で株式の大部分を有する
といったものがあります。

相続クーデターについて
 同族企業のほとんどは、会社法上の非公開会社です(会社法2条5号参照)。非公開会社では、株式譲渡の際に会社の承認を必要としますから、外部への会社の支配権の移転は生じにくいといえます。
 もっとも、同族企業の場合であっても、突発的な会社の支配権の移転が起こらないというわけではありません。
特に、大株主の相続の場合、相続をきっかけとした内部からの乗っ取りすなわち相続クーデターに注意が必要です。

具体例
 相続クーデターの具体例としては、相続人に対する株式の売渡請求権の行使が考えられます(会社法174条)。
たとえば、ある非公開会社Xの経営者が社長Aとその妻Bだったとします。Xの株式の保有割合はAが60%、Bが10%有するほか、他の取締役C及びDがそれぞれ15%です。
 この場合、Aが死亡したとすれば、BがAの株式を相続し、70%の株式の株主となる結果、Bの会社支配権は維持されるとも思えます。
 しかし、非公開会社の大半では相続人に対する株式の売渡請求権が定款で規定されており、この場合にはBの支配権が維持されるとは限りません。
 株式の売渡請求権は、会社にとって都合の悪い方が株主になることを防ぐための制度であり、会社がこの請求権を行使すると、相続人は意思に反して株主の地位を失うことになります。
 問題となるのはその要件です。この請求権を行使するためには、株主総会の決議が必要になるのですが、株主でもある相続人はここで議決権を行使することができません(175条3項本文)。
 そうすると、C・Dが結託すればBを追い出すことが可能になってしまいます。

対策
① 株式の譲渡制限の解除
 上記の事態は、被相続人(上記の場合だとA)が保有する株式が譲渡制限株式であるため生じます。そこで、譲渡制限を解除(株主間の合意のみで譲渡できるような状態にすること)してしまうのも一つの方法だと思います。
 ただし、この方法をとると、今回のケースでは株式の半分が譲渡制限を解除されることになってしまうので、株主が変動しないといういう非公開会社のメリットを大きく損なってしまいますので、改めて株式に譲渡制限を課すといった対応をする必要があります。
 譲渡制限を解除するためには、株主総会の特別決議により定款を変更し(466条、309条2項11号)、登記をする必要があります。また、公開会社になるため、取締役会を設置していなかった場合には、新たに取締役会を設置する必要があります。
参考 株式の譲渡制限を解除する場合 自分でできる会社設立

② 持株会社の設立
 この方法は、被相続人の持株を現物出資して持株会社を設立するというものです。
 この場合、相続人が相続するのはあくまで持分会社の株式ということになりますから、株式売渡請求権の対象外となります。
この方法のデメリットは、主として会社設立の手続が煩雑であることです。
会社設立の手続については会社設立簡易フローチャートをご覧ください。

③ 拒否権付種類株式の発行
 既に述べましたように、株式売渡請求をする場合には、株主総会決議が必要です。会社法では、これに加えて、種類株主総会決議も必要とする旨を定款で定めることができます(108条2項8号)。種類株主総会とは、通常の株式とは権利の内容が異なる内容の株式(種類株式)の株主のみが議決権を行使することができる株主総会をいいます。
 この場合における種類株式は、株主総会決議を拒否するという効果を持っていますので、拒否権付種類株式あるいは黄金株と呼ばれています。
 あらかじめ、Bに株式売渡請求に対する拒否権付種類株式を発行していれば、株式売渡請求がされてもBが種類株主総会で請求を拒否することができます。
 種類株式を発行する場合には3分の2の賛成を得て定款を変更する必要がありますが、上記のケースではABで計70%の株式を有することになるので、今回では一番容易な方法であると私は考えます。

さいごに
 同族企業の場合、経営権の移転という会社にかかわる部分と、被相続人の個人的な部分が不可分に結びついています。ですから、法務担当の方としても、中々経営者に進言する事も難しいかもしれません。
 ですが、経営権が誰に渡るのかは企業にとって極めて重要なことですから、「経営者が誰に経営権を譲るのか」は、なるべく把握し、経営者の意思を実現するためのアドバイスをするという形で発言する機会を確保することが重要です。
参考 事業承継サポート 富山綜合法務事務所

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