パワハラ問題を審議する委員会の調査が不十分だとして損害賠償請求
2016/07/15 コンプライアンス, 労務法務, 労働法全般, その他

パワハラ問題を審議する委員会の調査が不十分だとして、私立大学の職員が勤務する大学を訴えていた裁判の控訴審判決
私立大学の事務職員が、勤務する私立大学の所属する部署の上司からパワー・ハラスメント(パワハラ)及びセクシャル・ハラスメント(セクハラ)を受けたとして、同大学のハラスメント防止委員会に対して申立てを行った。しかし、原告は十分な調査を行ってもらえず、そればかりか、ハラスメント防止委員会の審議で名誉を毀損されたとして、学校側に対し、学校側の安全配慮義務違反又は、同委員会の委員の不法行為に係る使用者責任による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めたが、原告が出した証拠である「秘密録音」が証拠として認められないとして、請求は認められない旨の判決が下された(原告の敗訴)
パワーハラスメント
①職場のパワーハラスメント
「職場のパワーハラスメント」とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、又は職場環境を悪化させる行為をいう。
②職場での優位性
職場での優位性…パワーハラスメントという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせをさして使われる場合が多いが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもある。「職場内での優位性」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性が含まれる。
ハラスメント防止のための窓口
厚生労働省は、パワーハラスメントの防止のために、相談窓口の設置、相談対応ができる機関の設置を上記訴訟で問題となったような「大学」に限らず、「企業」に求めている。
相談窓口としては、組織内に相談体制を設ける方法と、組織外に相談窓口を設置して対応していく方法が考えられます。本判決では、組織内にハラスメントの相談体制が設けられていたケースであり、委員会メンバーがパワーハラスメントの行為者であること、または、メンバーが行為者と懇意にしている間柄である場合などのように、相談窓口の機関がパワーハラスメントの事実を隠ぺいするおそれが存在した体制だった可能性がある。
企業が設置すべき適切な窓口~上記のような訴訟を防止するために~
相談担当者は、何よりも中立的な立場で相談を受け、解決に向けて取り組むことが最も大切である。留意点としては、以下の通りである。
①迅速な対応を行う
②当事者による自主的な解決に任せず、上司や関係部署が連携して対応する
③相談者の気持ちをよく慮って、言葉や態度で傷つけないよう配慮する
※「その程度のことはよくあることだ」、「あなたにも問題があったのではないか」など、相談者に共感を示さない言葉は厳禁
④相談のしやすさ、プライバシーの保護を十分に確保する
⑤複数名での相談を原則とする
⑥相談者と同性の窓口担当者が同席する
⑦相談者とともに事実関係を整理する
⑧記録を取る
参照:上記HP(厚生労働省)
コメント
本件訴訟は、大学側が迅速な調査を行うことを欠き(①)、原告に対する気持ちをよく慮って、言葉や態度で傷つけないようにする配慮に欠いた(③)ため、原告が大学に対して不信感を募らせ、最終的には大学に対する不満が損害賠償請求訴訟という形で噴出したものと考えられる。
現在、パワーハラスメントという用語が一般的となっている。また、筆者の私的経験ではあるが、10年位前は客の前でパワーハラスメントを平気で行っていた量販店業界も、現在ではパワーハラスメントを防止することに努めるようになっている。そのため、ほとんどの企業はパワーハラスメントの相談窓口を設置していると思われる。
法務担当者としては今後、企業に設置されている窓口が、従業員にとって十分か否か検討し、「会社は何もやってくれない、相談しても無駄だ」などと、思われないような窓口になっているか。このような視点から、先述の①から⑦が徹底される体制となっているかを再度見直し、関係部署と連携して本件のような紛争を予防することが必要であると考えられる。
特に、相談者はパワーハラスメントを受けたことで、大きな苦痛を感じており、それが心身の不調をもたらす(鬱など)ことがある。心身の健康が悪化している可能性があることを前提に、対応できる窓口となっているか否かも加えて検討しなければならないと考えられる。
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