「忘れられる権利」にみるリスクマネジメント
2016/07/14 コンプライアンス, 危機管理, 個人情報保護法, IT

はじめに
7月12日に、「忘れられる権利」を認めない東京高裁決定が出されました。
「忘れられる権利」とは、インターネット上に残り続ける個人情報の削除を求める権利です。インターネットの発展に伴い、個人が気軽に個人情報を発信できるようになり、意識されるようになった新しい権利です。以下、事案について紹介していきます。
事案
今回問題となっているのは、性犯罪で50万円の略式命令を受けたことのある男性が、自分の名前と住所で検索すると、3年余り前の自分の事件に関する情報がグーグルの検索結果に表示されるため、裁判所に対して、グーグルへの削除命令の仮処分を求めた事案です。1審の決定によれば、裁判所は、仮処分を認め、グーグルに対して削除命令を出していました。これに対して、グーグルは削除命令の取消しを求めて、不服申立てを出しましたが、グーグルの不服申し立ては認められず、高裁で争われていました。
決定のポイント
このような中で、今回、東京高裁は、「男性の逮捕歴は社会的に関心の高い行為で、公共の利害に関わると判断」した上で、(忘れられる権利は)「法律で定められた権利ではなく、要件や効果が明確ではない」として、男性の「忘れられる権利」の存在を認めませんでした。
男性のプライバシーや社会的名誉よりも、情報の持つ公益的な価値を優先した判断といえるでしょう。
コメント
「忘れられる権利」については、削除を自由に認めると、企業の報道の自由、表現の自由を妨げるという問題点が世界的に議論されています。
確かに、個人情報は当該個人のものであり、本来、書き込みや削除は個人が自由に行うことができるのが原則であるとも考えられます。他方、公益に関わる情報など、インターネット上の情報はそれにアクセスできる人々に共有されることに価値があり、自由な情報の流通は、インターネット文化の発展の基礎になるとも考えられます。
現在、世界的にこれらの問題についての訴訟が頻発している状況で、グーグルの対応も基本的には表現の自由を重視しながらも、個別の事案に応じて削除の対応を取っているようです。企業としても、まずは、インターネット上の情報流出を防止するためのリスクマネジメントが必要です。
「忘れられる権利」についての裁判所の考え方や世界的な議論の流れが固まっていない現状においては、少なくとも企業の取れる自衛手段として、不用意な情報をそもそも書き込まない、法務としても個人情報の流出防止を徹底する方法を策定する、情報発信についての内部ルールを定めるなど、最低限の自衛手段を検討するなどがまずは得策であるように思われます。
関連コンテンツ
新着情報
- セミナー
森田 芳玄 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 パートナー/東京弁護士会所属)
- 【オンライン】IPOを見据えた内部調査・第三者委員会活用のポイント
- 終了
- 2025/05/21
- 12:00~12:45
- 弁護士
- 松田 康隆弁護士
- ロジットパートナーズ法律会計事務所
- 〒141-0031
東京都品川区西五反田1-30-2ウィン五反田ビル2階

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分

- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード

- ニュース
- 大阪万博の海外パビリオンスタッフが賃金不払いを理由に労働組合を結成2025.10.1
- 大阪・関西万博の海外パビリオンのスタッフが賃金支払いなどを求め労働組合を結成していたことがわか...

- まとめ
- 株主提案の手続きと対応 まとめ2024.4.10
- 今年もまもなく定時株主総会の季節がやってきます。多くの企業にとってこの定時株主総会を問題無く無...
- 弁護士
- 境 孝也弁護士
- さかい総合法律事務所
- 〒105-0004
東京都港区新橋3-9-10 天翔新橋ビル6階

- 業務効率化
- 鈴与の契約書管理 公式資料ダウンロード

- 解説動画
江嵜 宗利弁護士
- 【無料】新たなステージに入ったNFTビジネス ~Web3.0の最新動向と法的論点の解説~
- 終了
- 視聴時間1時間15分