特許切れ薬売却にみる事業譲渡と会社分割のメリット・デメリット
2016/07/13   商事法務, 戦略法務, 会社法

アステラス製薬、塩野義製薬は特許切れ薬の事業部門の売却を行う。
塩野義製薬は外資系製薬に感染症薬などの売却の方針を固め、アステラス製薬は消化器病薬などの売却の調整に入ったとされる。
特許の有効期限が切れた薬(特許切れ薬)は、これまで国内製薬会社の収益の柱であった。しかし、国内でのジェネリック医薬品の普及により特許切れ薬の収益が低下したこと、政府がジェネリック医薬品の普及率を20年度までに8割に引き上げる目標を掲げたことから、特許切れ薬の収益性の見通しは暗い。そこで、製薬大手は、将来性の乏しい特許切れ薬の事業部門を売却し、短期的な収入減少と引き換えに将来的に収益の期待できる新薬の開発へと投資するものとみられる。
このような特許切れ薬部門の切り離しは、昨年、武田薬品が後発薬世界最大手のテバ・ファーマスーティカル・インダストリーズと国内に合弁会社を設立して、特許切れ薬の販売を任せることを発表したのを皮切りに活発化したようである。
そこで、以下では、企業経営の効率化には必須の手段である、事業部門の移転方法について、改めて比較してみようと思う。

事業譲渡と会社分割のメリット・デメリット

事業部門の移転方法としては、おおまかには事業譲渡と会社分割がある。両者は事業の全部または一部を移転する点では同じだが、以下のようにメリット・デメリットがはっきりと分かれ、事業の規模によって向いているかどうかが決まる。

事業譲渡

事業譲渡は、契約で決めた事業財産だけを売買することができる。
・メリット
①簿外債務の不承継
買い手は、契約書に明示されなかった債務を承継する義務を負わない。つまり、売り手の債務状況の調査に漏れがあっても買い手は責任を負わないということだ。したがって、知らない間に債務を負うというリスクを減らすことができる。
・デメリット
①手続の煩雑さ
事業譲渡では、会社法上の債権者保護手続きをとる必要はない。その代わり、事業の移転を完成させるには、それぞれの債権者の同意が必要であり、さらに第三者対抗要件の具備も必要となる。つまり、一括管理ができないので、関係する債権者が増えれば増えるほど手続きは面倒になる。
②許認可
買い手は事業の許認可を改めて申請する必要がある。
③雇用関係
移転事業のそれぞれの労働者と交渉が必要となる。
④税制
個別資産の売買と同じなので、譲渡損益と消費税が課税対象となる。
以上のように、事業譲渡は、手続きが面倒だが、買い手は契約書に書いてない債務を引き継ぐリスクが少なく、売り手は現金が手に入るというメリットがある。したがって、一事業だけなど債権債務関係等が把握しやすい小規模な事業移転に向いてるといえる。

会社分割

事業部門を組織として移転するため、契約関係や雇用関係を一括して管理することができる。
・メリット
①契約関係や雇用関係について包括承継
債権者保護手続きなどの会社法上の手続きをすれば、事業に関連する債権・債務や労働者を一括して移転できる。
②許認可
自動的に引き継がれる(ただし、個別の業法によって違う)。
③対価
売買代金を株式にしたり、現金以外にすることができる。
④税制
要件を満たす場合には、譲渡損益の繰延を行うことができる。つまり、利益の計上を先延ばしにして、課税を免れることができる。
・デメリット
①簿外債務を引き継ぐリスク
会社分割は、いわゆる包括承継であるため、把握できてなかった債務についても引き継ぐことになる。つまり、メリット①の裏返しとして、予定よりも価値がないものを買うリスクがある。
(もっとも責任を負う範囲は、承継した財産の範囲に限定される(会社法759条2項))

新設分割と吸収分割

ⅰ.新設分割
採算部門と不採算部門を切り離し、設立会社にコア事業を移転させることができる。また、自社株対策として1株当たり株式価値を引き下げることが可能となる場合がある。
他社との共同事業を新設するときにも使える。
ⅱ.吸収分割
他社に事業部門を組織ごと移転できる。

以上のように、会社法上の手続は多いものの、債権債務関係等を全部移転できるので、比較的短時間で大規模の事業移転が可能となる点で有用な手段といえる。また、対価や税制上のメリットがあるため資金面での有用性が高い。ただし、相手方の事業状況を十分に調査する能力が要求される。

まとめ

取引関係が簡明な小規模な事業移転であれば、リスクのコントロールが比較的容易な事業譲渡が有用といえる。一方で、大規模な事業移転においては、相手方の債務状況などの十分な調査が必要であるが、対価、税制上もメリットのある会社分割が有用といえる。

コメント

以上のそれぞれの手法の特徴からすると、武田製薬の新設分割は、共同事業の形で後発薬の製造、販売を効率化し、自社は研究開発への投資によって長期的な収益を確保する狙いと思われる。一方で、塩野義製薬、アステラス製薬は、期限切れ薬の事業部門の大きさから、現金を対価として吸収分割を行い、その代金を新薬の開 発に投資すると思われる。
企業経営において、JPX日経インデックス400などROEが重視される時勢のなか、今後ますますコア事業への経営集約の流れが強くなることが予想される。そうすると、これら事業移転、特に会社分割の更なる活用が企業にとって重要となるだろう。

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