株主総会におけるプロキシーファイト(委任状争奪戦)
2016/07/04   商事法務, 総会対応, コンプライアンス, 金融商品取引法, 会社法

昨年、大塚家具で会社の経営権を巡り父娘が対立したことは
各メディアで大きく報道されました。
また、6月下旬は各企業が株主総会対応に追われている時期です。
そこで、今回は株主総会におけるプロキシーファイト(委任状争奪戦)について
検討していきます。

定義

プロキシーファイトとは、委任状(株主である自分に代わって他人に議決権行使を任せる書類のこと)争奪戦のことを言います。
なぜ、株主総会実務でプロキシーファイトが常に毎年話題になるのでしょうか。
それは、株主総会では、議決行権使の総数のうち過半数の賛成が得られれば、
その議案を会社は実行しなくてはなりません(会社法(以下、「法」という。)309条1項)。
そうしますと、当該会社で株主が自己の意思を反映させようとするためには、
株主総会での議案・議決において自分の意見と賛同する株主からの委任状を提出してもらい、
賛同してくれた株主と自分たちの議決権の合計を過半数に満たす必要があるからです。

プロキシーファイトの定義
(出典 マネー事典 m-Words)

プロキシーファイトの手続


  • 株主提案権(会社法305条)
  • 株主提案権とは、株主が株主総会で議案を提案する権利のことをいいます。

     株主提案権を行使するためには、株主は6ヶ月前から、

    総株主の議決権(株主総会に出席していろいろな議案を決議する権利)の100分の1以上、

     または300個以上の議決権を、継続して持っていなければならならない、いわゆる少数株主権に1つです。

     上記条件を満たした株主は、株主総会が開催される日の8週間以上前に株主提案を取締役に提出する必要があります。

     ただし、株主の要求した議案が法律上決議するべきものでなければ、取締役は会社から各株主に送付される招集通知に記載する必要がありません。

     また、その議案が法令などに違反する場合や、同じ内容の議案がすでに株主総会にかけられたことがあり、

    その総会で議決権の10分の1以上の賛成を得ることができず否決された日から三年間経過していない場合は、

    その議案を提案をすることはできません(法303条1項但書)

    株主提案権について
    (出典 マネー事典 m-Words)

  • 委任状の書き方

  • もっとも、委任状争奪戦の名の通り、上記の株主提案権を行使しただけで
    総会当日まで何も行動しないと意味がありません。
    そこで、実際に当該企業の株主に向けて委任状を送付する必要があります。
    株主総会委任状書式
    株主総会委任状書式
    (出典 委任状ガイドHP)

過去の著名なプロキシーファイト事例


  • 前掲大塚家具(2015年)

  • 経営者一族の経営権" target="_blank">株主総会委任状書式争奪を巡り、旧経営陣の父親が
    現経営陣の娘の退任を要求して、株主に委任状を送付した事案です。
    結果として、父親のプロキシーファイトは功を奏さず、
    現経営陣の経営続行が決議されました。
    大塚家具
    (出典 THE PAGE HP)

  • サッポロHD vs スティール・パートナーズ事件(2007年)
  • 2006年からサッポロHD株の買い増しを進めていたスティール・パートナーズに対し、サッポロHDはスティール・パートナーズによる買収を防ぐため、株主総会を前に、新買収防衛策の導入提案を取締役会で決めました。
    これに対して、スティール・パートナーズは、サッポロHD株の買収を進めたい狙いから、新買収防衛策に反対し、反対に賛同する委任状の送付を行いました。
    結果として、株主総会では会社提案の新買収防衛策は承認される一方、スティール・パートナーズの株主提案は否決され、サッポロHD側が勝利しました。
    その後、2010年の株主総会の際にも、サッポロHDとスティール・パートナーズでは取締役選任に関して違った提案が出されたが、この時もサッポロHD側の提案が可決され、スティール・パートナーズの提案は否決されています。
    サッポロHD vs スティール・パートナーズ
    (出典 zuu onnine)

  • アデランスHD vs スティール・パートナーズ(2009年)
  • 2009年5月末の株主総会時点でアデランスHDの26.7%の株式を保有していた米スティール・パートナーズが、株主提案として取締役の選任を提案しました。
    これに対して、アデランスHDは国内投資ファンドのユニゾン・キャピタルと組み、取締役の選任提案を提出し、双方でプロキシーファイトが行われました。
    結果として、米スティール・パートナーズが提案した8人の取締役は8人全員が選任された一方、会社側提案のうち、ユニゾン・キャピタルが送り込んだ3名の取締役は全員否決されました。
    アデランスHD vs スティール・パートナーズ
    (出典 zuu onnine)

  • TBS vs 楽天(2007年)
  • 当時TBSの筆頭株主であった楽天が「買収防衛策の導入貴人の引き上げ」、「三木谷浩史、楽天CEOの社外取締役選任」を求めて株主提案を実施し、これに反対したTBS社と委任状争奪戦になりました。
    結果として、楽天はTBSに敗れています。
    TBS vs 楽天
    (出典 zuu onnine)

  • 西武vs米サーベラス社

TOBを通じて西武株式を大量に取得したサーベラス社が
定時株主総会に、独自の取締役候補案を株主提案の形で提案し、
これに対して西武HD側はこの提案に反対する意向を表明してプロキシーファイトに発展しました。
結果として、西武が勝利しています。
西武vs米サーベラス社西武vs米サーベラス社

(出典 日経ビジネスジャーナルHP)

プロキシーファイトのメリット・デメリット


  • メリット

  • ・株主主導による旧経営陣の交代が実現
    会社法は、会社のステークホールダーは株主、他方、
    会社経営に携わるのは専門家である取締役と、役割を
    明確に分離しています。
    しかし、会社の所有者は株主です。
    そうしますと、このような立場にある株主は、取締役を解任する権利があります
    (法339条1項)。
    したがって、既存株主が現経営陣の経営方針等に不満があれば、
    プロキシーファイトを通じて、自分の意に沿った経営陣を刷新する機会といえます。
    ・株主重視の経営への転換
    上記の通り、株主は、取締役を解任する権利があります。
    そうしますと、新経営陣は自分の解任権を持つ株主の利益を重視した
    経営に転換することを余儀なくされてしまうといえます。
    ・敵対的買収の防止
    これに対して、前掲したサッポロHD vs スティール・パートナーズの事案のように、
    対立構造が経営陣vs既存株主ではなく、既存株主・経営陣vs新規株主の場合があります。
    この場合、新規株主が提案した敵対的買収に反対する意向のある既存株主は、
    会社の委任状を提出すれば、株主の力で敵対的買収を阻止することができます。
    したがって、プロキシーファイトは既存株主が意図していない急激な変革に対して、
    NOを突きつける手段といえます。

  • デメリット

・企業成長に歯止めがかかるおそれがある
他方、前掲したメリットの敵対的買収の防止と裏表の関係にあるのが、
既存株主が会社の変革に応じず、かえって企業成長の機会が失われてしまうことです。
そうしますと、プロキシーファイトは企業成長に歯止めをかけてしまうといった、
会社にとってもったいないケースになるおそれがあります。
プロキシーファイトの問題点

(出典 証券取引法研究会研究記録)

対策


  • 上場会社の委任状勧誘規制(金商法194条)

  • 委任状勧誘規制とは、上場会社の総会における議決権行使について、
    これに関する委任状を勧誘する際には、委任状用紙および参考書類の交付と財務局への提出が
    義務づけられています。
    ただし、委任状の勧誘先が10人未満であればこの義務は免除されます。
    このように、上場会社では委任状勧誘の予想以上の過熱やその影響が大きくなることを防止するため、
    プロキシーファイトについて厳格な要件を課しています。
    上場会社の委任状勧誘規制
    (出典 企業法務のツボ★活字フェチ弁護士の臨床的視点)
  • 白紙委任状の取扱いの明確化

企業・株主間で経営の当否が争わプロキシーファイトに発展した場合、
その後の株主総会取消訴訟で争われるのが、議決権、特に白紙委任状の
取り扱いについてです。
なぜなら、このような白紙委任状に基づく票が決議の結果を左右する場合があるからです。
この場合、企業及び委任状を送付した株主は、当該委任状のうち、
白紙委任状の取扱いについて明確に規定する必要があります。
そうしますと、白紙委任状の取扱いに関する取消訴訟のリスクを
軽減できます。
白紙委任状の取扱い

(出典 成和明哲法律事務所 企業法研究部会・報告)

コメント

プロキシーファイトは、経営権を持たない既存株主が自己の意思を
経営面に反映させる重要な機会といえます。
他方、経営権を剥奪させる現経営陣としては、既存の地位を奪われる
リスクの重さを強く意識して、株主総会に臨む必要がありそうです。
その際には、前掲した対策を参照していただければよろしいかと思います。

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