AI創作物に著作権は発生するのか
2016/05/12   知財・ライセンス, 著作権法, IT

政府の知的財産戦略本部は、5月9日、AI=人工知能が作った小説や音楽などの著作権を含む知的財産の保護の必要性や在り方について、具体的な検討を進めることなどを盛り込んだ新たな「知的財産推進計画」を決定しました。
 果たして、AIが自律的に創作した音楽や小説に著作権は発生するのでしょうか。

著作権の保護対象

 現行著作権法は、著作物=「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(第2条1項1号)と定義しており、著作物を創作した人間に著作権が発生するとされています(第2条1項1号)。そして、人間がAIを道具として利用した創作物については著作権が発生すると考えられています。
 しかし、人間の関与が薄く、AIが自律的に創作したもの(以下AI自律創作物)は権利の対象とならないというのが一般的な解釈とされています。

他国での状況

 イギリスでは、1988年に著作権法を改正し、AI自律創作物を著作物と認める制度を導入しており、著作権を誰が有するかについては、「必要な手配を行った者」としています。例えば、AIが自律的に創作した楽曲については、その楽曲作成システムを開発した人が著作権者ということになると考えられます。

知的財産推進計画の内容

 政府の知的財産戦略本部は、人間の創作物とAI自律創作物かを外形上見分けることは、現状では困難であり、権利や制度の変更や見直しの必要性を指摘し、AI自律創作物が増える可能性を懸念し、小説や音楽などのコンテンツでの対応を優先的に検討すべきとし、AI自律的創作物の知的財産の保護の必要性や在り方について、具体的な検討を進めることが必要だとしています。
 日本において、AI自律創作物について人間が創作したものと同様の著作権を認める場合には、イギリスの著作権法が参考になるのではないでしょうか。

コメント

 将棋の世界では2010年以降、プロ棋士が次々とコンピューター将棋に敗北を喫しました。また、マイクロソフトがLINEで女子高生AI「りんな」を公開し、まるで女子高生と話しているかのような会話ができると話題になりました。
 このように、AIの進化は近年めざましい状況であり、様々な知的作業の場面で人工知能の躍進が進んでおり、進化に伴う法整備も重要な課題となってきています。
 仮に日本において、イギリス同様、AIが自律的に創作したものについて「必要な手配を行った者」に対し著作権が帰属するという法制度を採用した場合、「必要な手配を行った者」が誰であるのかが問題となるケースが生じる可能性があります。
 例えば、AI自律創作物を作成するシステム開発を行った人、その自律的AIシステムの成長に必要なデータベース提供を行った人がいる場合、どちらもAI自律創作物の作成に対し重要な役割を果たしており、どちらも「必要な手配を行った者」に当たると考えることも可能です。このような場合、どちらが「必要な手配を行った者」であるかが不明確であり、後日著作権の帰属先が誰であるかにつき紛争が起こるケースが生じる可能性が考えられます。
 以上のことは、あくまでイギリスの著作権法制度を日本にも導入した場合の話ですが、AI自律創作物の取扱いについてどうなるかにつき一定の参考になると考えられます。 今後、AI自律創作物の著作権法がどのように整備されていくことになるかについてその動向を注視していきたいと思います。

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