オルツで臨時株主総会が成立せず、決議要件について
2025/09/10 商事法務, 総会対応, 会社法, IT

はじめに
人工知能(AI)開発を手掛ける「オルツ」。オルツは9月3日、都内で臨時株主総会を開催しようとしたものの、決議に必要な議決権数を満たすことができず不成立となっていたことがわかりました。
後日改めて招集するとのことです。
事案の概要
オルツは2014年に創業し2024年10月に東証グロース市場に上場しています。しかし、今年4月に売上過大計上の疑いが浮上しました。
調査の結果、売上高の90%、約119億円を水増ししていたことが発覚し、8月31日に上場廃止になっています。
同社は一連の不正会計に関わっていたとされる前社長らに代わる新たな取締役3名を選任するため、今月3日に都内で臨時株主総会を招集していました。
しかし、議案の決議に必要な議決権数を満たさず不成立となっていたとのことです。
株主総会の決議要件
会社法では株主総会での決議に関して一定の要件を規定しています。株主総会の決議は大きく分けて、(1)普通決議、(2)特別決議、(3)特殊決議の3種類があり、決議事項の内容によっていずれによるかが変わってきます。
(1)普通決議の決議要件は行使できる議決権の過半数の株主(定足数)が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成となっています(309条1項)。
そして、(2)特別決議は行使できる議決権の過半数の株主(定足数)が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成となります(同条2項)。
ちなみに、定足数については普通決議では定款で排除でき、特別決議では定款で3分の1にまで緩和することが認められています。
そして、特殊決議は議決権を行使できる株主の半数以上かつ議決権の3分の2以上の賛成を必要とします(同条3項)。
ここで注意が必要なのは、(3)特殊決議では定足数という概念が無く、議決権を行使できる株主の頭数で半数以上が賛成し、かつ議決権ベースでも3分の2以上の賛成を要するということです。
決議事項と決議要件
上でも触れたように会社法では決議事項つまり議題によって必要な決議が変わってきます。
普通決議の対象となっているのは役員等の選任及び解任(329条1項、339条1項)、役員の報酬決定(361条1項、379条1項等)、剰余金の配当(454条1項)、株主との合意による自己株式取得(156条1項)、準備金の減少(448条1項)、剰余金の資本組入(450条2項)、取締役の競業取引等の承認(356条1項、365条1項)などとなっています。
特別決議の対象は、定款変更(466条)、株式併合(180条2項)、譲渡制限株式の買取決定(140条2項)、全部取得条項付種類株式の取得(171条1項)、非公開会社での募集株式発行決定(199条2項)、資本金の減少(447条1項)、組織再編の承認などとなっています。
そして、特殊決議を要するのは、株式に譲渡制限をかける旨の定款変更、組織再編で対価が譲渡制限株式である場合の承認(783条1項、804条1項)などとなっています。
その他の特殊な決議要件
会社法ではこれら以外にも特殊な決議要件を課している場合があります。
まず、募集設立で会社を設立する際の創立総会での決議が特殊なものとなっており、行使可能な議決権の過半数かつ出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要するとされます(73条1項)。これは一見特別決議のようにも見えますが、創立総会には定足数が無く、全体の議決権の過半数の賛成および出席株主の3分の2以上の賛成の両方を満たす必要があるということです。
次に、非公開会社が株主の権利について個人別の定めを行う場合には総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成を要します(309条4項)。これは特殊決議をさらに厳格にしたものです。
なお、特例有限会社が株主総会で特別決議を必要とする場合の決議要件もこの4項特殊決議と同様のものとなっています。
コメント
本件でオルツは取締役3人の選任を目的とする臨時株主総会を招集したところ必要な議決権数を満たさなかったとされています。同社の定款規定は不明ですが、役員選任の場合の定足数は原則議決権の過半数で定款で3分の1まで減少できます。
これを満たす株主の出席が確保できなかったのではないかと考えられます。
以上のように会社法では決議事項によって必要な決議要件が異なってきます。株主への影響が大きい重大な事項ほど要件が厳しくなっています。
また、これらの決議要件に不備があった場合、決議方法の法令違反として株主総会決議取消の訴えの対象ともなっています。株主総会を招集する際にはどのような決議が必要か、また何人の株主の出席を要するのかをあらかじめ慎重に確認して準備を進めていくことが重要と言えるでしょう。
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