競業避止義務は今一度見直す必要あり!?
2015/11/16   コンプライアンス, 民法・商法, その他

 企業が長年にわたって培ったノウハウ等の流失を防止すべく講じる施策はセキュリティー等の物的場面だけでなく、従業員の転職等の人的場面にも及びます。例えば企業に在籍していた人が企業のノウハウ等を利用して同業他社で業務を遂行されたら大きな損害を受けるかもしません。その場合ほとんどの企業が損害を防止するためにあらかじめ就業規則や誓約書等の個別の契約で競業避止義務に関する規定を設けていますが、その規定は同時に労働者のキャリア・アップの道を閉ざすことにもなりうるため訴訟まで発展するケースが多いです。そこで今回は退職後の競業避止義務規定(以下「競業避止規定」)の根拠と2有効性の判断基準、3法務担当者として留意するポイントと4競業避止規定違反の効果を紹介したいと思います。

1 競業避止義務の根拠
 競業避止義務を負う根拠として①就業規則で定められている場合と②誓約書による場合が考えられます。
 労働契約法7条本文は就業規則で定められた労働条件が合理的でそれを周知しているなら、就業規則で定められた事項が契約内容になります。企業が従業員の転職から営業ノウハウ等の財産的価値が流失することを防ぐために競業避止規定をおくこと自体は一般に合理性が認められるため、当該規定が設けられていたら契約内容となります。
 ②就業規則で当該規定がなくても企業と労働者が個別の合意をすれば労働契約の内容となります。誓約書等で退職後同業他社への転職をしない誓約がこれにあたります。
 なお、就業規則に当該規定がないにもかかわらず、個別の合意内容が就業規則に達しない労働条件である場合に、個別の合意が無効となることを定めた労働契約法12条違反に違反しないかが問題とります。そこで法務担当者としては例えば「会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする」というように、個別合意をした場合には個別合意を優先する旨就業規則に規定しておけば労働契約法 12 条に違反せず、誓約書等の個別合意が無効とはなりません。

2 当該規定の有効性判断基準
 競業避止規定の有効性を判断するためのリーディングケースは昭和45年10月23日で奈良地裁が行った約6つの考慮事項を総合考慮する手法です(いわゆるフォセコ・ジャパン・リミテッド事件)。
 おおまかな考慮事項は①守るべき企業の利益があるかどうか、②従業員の地位が、競業避止義務を課す必要性が認められる立場にあるものといえるか、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間や⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか、⑥代償措置が講じられているか、の6つです。

3 各種の考慮事項についての留意
 ①企業の利益については不正競争防止法の「営業秘密に」限定されず、判例・裁判例で争われた事案をみると技術的秘密や営業秘密に準じる利益(顧客に対するサービス手法も含む)、業務を通じて築いた顧客等の人的関係と広く含まれます。
 ②従業員の地位については①の利益と関わる職務上の地位を有するかが特に問題となります。そこで合理的な理由なく全従業員を対象とした規定ではなく、①の利益と関わる職務上の地位に限定した規定(一定の管理職等に限定)が望ましいといえます。
 ③地域的限定については地域的制限がないからといって競業避止規定が無効になることは少なく、業務内容と照らした判断が行われます。地域的制限を設けることが難しいときは④期間を短縮するか、⑥代償措置を高額にすることで対処することが考えられます。
 ④競業避止の存続期間については労働者の不利益や企業の利益とコミットをした判断がなされます。近年の傾向では2年以上の存続期間を無効とする裁判例が多いので、存続期間はおおむね1年間とする企業が多いです。
 ⑤禁止される競業行為の範囲についてはおよそ一般的・抽象的な定めをすると無効になりやすいです。そこで具体的な業務内容・職種を限定した定めをしたほうが合理性が認められやすい傾向にあります。
 ⑥代償措置については③と異なり、代償措置に関する規定がないことを理由に競業避止規定を無効とした事例は多いことに注意をする必要がありますが、代償措置規定がなくとも代償措置と実質的に同視しうる賃金(みなし代償措置規定。比較的に高額の報酬を受け取っていた場合や、奨励金が順次支給されていた場合)が支払われていたら代償措置ありと判断される場合もあります。しかしコンプライアンスの観点からは対価関係が明確な具体的な規定を設けるべきです。

4 当該規定違反の効果
 ①競業行為の差止め
 競業避止規定が有効であるならば企業ノウハウ等の流失を防止する直接的な手段として競業行為の差止めが認められます。
 ②損害賠償請求
 競業避止規定が有効であるにもかかわらず労働者が同業者に転職し、企業のノウハウ等を流用しチャンスロス等の損害が発生したら当該規定違反を根拠に損害賠償請求をすることが可能となります。
 ③退職金の不支給
 就業規則や約定により退職金不支給条項が定められ、競業避止規定に違反することが退職金不支給事由に該当する場合は退職金を一部又は悪質性が高いケースでは全額不支給となりえます。

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