【社員がエボラ熱にかかったら?】
2014/10/20   労務法務, 労働法全般, その他

エボラ熱について

1、エボラ熱とは何か
 エボラウイルス(フィロウイルス科)によるウイルス性の急性熱性疾患である。1976年に、スーダンのヌザラとコンゴ民主共和国のヤンブクの2か所で初めて発生した。コンゴ民主共和国のエボラ川の近くの村で発生したことから、川の名前を取ってエボラ熱とされた。
2、エボラ熱の症状
 潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2~21日である。最初の症状は、突然に襲われる発熱を伴う倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛である。これらの症状に続いて、嘔吐、下痢、発疹、腎機能および肝機能の障害がみられ、しばしば内出血と外出血(歯肉出血や血性便)がみられる。2~3日で急速に悪化し、死亡例では約1週間程度で死に至ることが多い。出血は報告にもよるが、主症状ではないことも多い(2000年ウガンダの例では約20%)。ザイール型では致死率は約90%、スーダン型では致死率は約50%である。 特別な治療法はなく、症状を緩和するための対症療法が中心となる。
3、感染ルート
 動物から移る場合と、人間から移る場合が考えられる。まず自然界の動物では、エボラウイルスに感染したオオコウモリ、サル等の死体、その生肉から人に感染する。そして人間から感染する場合、感染者の体液(血液、分泌物、吐物・排泄物)、注射針等を通して、傷口や粘膜から感染する。もっとも、症状のない患者から感染しないし、空気感染もしない。 アメリカの例では、症状の現れている患者に看護師が接点を持つことで感染したと考えられている。傷口はないし、粘膜なんて露出してないと思うかもしれない。しかし皮膚でないところが粘膜である。口の中、鼻の中、目の中と粘膜は沢山ある。また、分泌液には、汗、唾液も入る。人間の目に見えないだけで、話をする時に唾液を外に飛ばしてる。その唾液が口の中に入って感染という可能性もある。この点で問題が深刻化している。
4、なぜいま問題か
 1970年代以降、中央アフリカ諸国(コンゴ民主共和国、スーダン、ウガンダ、ガボン等)で、しばしば流行が確認されている。今回は2014年3月にギニアで集団発生から始まり、住民の国境を越える移動により隣国のリベリア、シエラレオネと言った西アフリカ諸国へと初めて拡大したことが問題である。そしてその治験のためにアメリカやスペインに患者を搬送したところ、看護師に二次感染したことで更に大きな問題となっている。
5、感染者数と死亡者数
 WHO(世界保健機関)によると、ギニア、リベリア、セネガル、シエラレオネ、ナイジェリア、スペイン、アメリカで感染者が出ており、感染者合計9216人、死亡者4555人である(2014年10月14日)。死亡者の多い順にリベリア2484人、シエラレオネ1200人、ギニア862人、ナイジェリア7人、アメリカ1人である。感染者はアメリカに3名、スペインに1名いる。アメリカ、ヨーロッパの国を通して日本国内に三次感染することが懸念されている。

国や地方公共団体の対応

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症法」とする)がある。
 エボラ熱は一類感染症に定められており(感染症法6条2項1号)、診断した医師は直ちに最寄の保健所を通して都道府県知事に届け出ることが義務付けられる(同法12条1項1号)。 そして都道府県知事は直ちに厚生労働大臣に報告しなければならない(同法12条2項)
 そして都道府県知事は感染者に対して特定感染症指定医療機関、もしくは第一種感染症指定医療機関 に入院を勧告することができる(同法19条1項本文)。患者がそれに従わない時は、特定感染症指定医療機関 に72時間強制入院させることができ(同法19条3項、4項)、必要があればさらに10日入院を強制できる(同法20条2項)。更に必要があると、10日の延長ができる(同法20条4項)。特定感染症指定医療機関は、成田赤十字病院(千葉県)、国立国際医療研究センター病院(東京都)、りんくう総合医療センター(大阪府)の3ヶ所で、8床しかない。

企業の対応

 では企業はどうすべきか。まず企業は労働者に安全配慮義務(労働契約法(以下、「労契法」とする)5条)を負っている。さらに、感染症法上の義務として国民は、「正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払う」努力義務がある(感染症法4条1項)。となると、従業員が発熱、倦怠感を訴えている時は、休みを促すべきである。初期段階ではエボラ熱か分からないからである。他の従業員に感染したときは、エボラ熱はもちろんのこと、エボラ熱でないとしても安全配慮義務(労契法5条)違反として、債務不履行(民法415条)または不法行為(709条)による損害賠償請求の対象となりうる。
 有給休暇については、事前申請制をとっていたとしても、当然認めるべきように思える。就業規則が契約の内容になる(労契法7条)のは、会社の効率的運営のために過ぎないからである。
 労災の適用についても、デング熱の時と同じ問題がある。労災は「業務上」(労働者災害補償保険法7条1項1号」または「通勤」(同法7条1項2号)による障害であることを要する。
「業務上」とは業務遂行性(そのような行為が業務と言えるか)と業務起因性(当該業務に内在する危険と言えるか)を満たすことである。具体的には、看護師やエボラウイルスを持った動物を扱う職種では、業務として感染し易い場所にいる必要(業務遂行性)があり、さらにその場所で業務をするにあたって感染した(業務起因性)という事情が明白であろう。
 また、「通勤」による障害と言えるためには、通勤に内在する危険である必要がある。過去の裁判例では、通勤のため自宅から最寄り駅まで歩いていたところ、カルト教団の信者に毒をかけられて死亡した事件で、自然現象や外部の力などによって生じた災害については、通勤に内在した危険とは言えないとしたものがある(最二小決平12.12.22 労判798-5)。エボラ熱を持った患者が襲ってくる、血液に触れる機会があるということは通常起こりえないので、仮に通勤途中に感染しても通勤に内在する危険とは言えないであろう。
*第1弾は、【社員がデング熱にかかったら】

関連法令

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
労働契約法
民法 
労働者災害補償保険法

関連サイト

WHO(世界保健機関) Ebola Situation report update - 17 October 2014 (英語)
FORTH(厚生労働省検疫所)エボラ出血熱について(ファクトシート)
厚生労働省 エボラ出血熱に関するQ&A
厚生労働省 感染症指定医療機関の指定状況(平成26年4月1日現在)
厚生労働省健康局結核感染症課 エボラ出血熱に関する対応について(情報提供)
大幸薬品 日本における感染症対策-感染症法
大阪南労基署長(オウム通勤災害)事件(最二小決平12.12.22 労判798-5)
独立行政法人労働政策研究・研修機構 6.安全衛生・労災

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