【発達障害と雇用】会社の対応
2014/09/08 労務法務, 労働法全般, その他

発達障害とは
そもそも発達障害とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」(発達障害者支援法2条1項)とされる。ここにあげられているのは①自閉症②アスペルガー症候群③広汎性発達障害④学習障害⑤注意欠陥多動性⑥その他これに類する脳機能の障害である。この中でもアスペルガー症候群については、「同障害に対応する受皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では再犯のおそれが更に強く心配されることを量刑上重視せざるを得ない」として、求刑16年を超える20年の判決が裁判員裁判(平成24年7月30日)で言い渡されて問題になった。
その後、大阪高裁(平成25年2月26日)でひっくり返り最高裁で確定している(平成25年7月22日)。
発達障害とは、先天的な脳機能の疾患である。具体的な特徴としては、「机の上が片付けられない」、「忘れ物やミスが多い」、「約束や時間が守れない」、「すぐキレる」、「空気が読めない」等の特徴を示すことが多い。職場で多く問題になるのは、「空気が読めない」、「考えろと言ったのに何も考えてない」など想像力の欠如であることが多い。
特徴としてコミュニケーションが苦手で、ストレス耐性が弱く、不利な環境に対して反応を起こしやすい。ではなぜこの問題は生育過程で修正されず、さらには面接もすり抜けてしまうのか。それは学生時代には成績さえよければ生活態度等はウヤムヤにされることが多いこと、学生時代は付き合う人間を選べること等によって、自分の苦手な人と付き合うことが必ずしも求められず、人間関係によるストレスにさらされる機会が多くないからと言われる。
そして社会人になって毎日同僚や年の離れた先輩後輩と付き合わなければいけない中で、本音と建前を見極め、合わない人とも付き合い続けなければならず、このコミュニケーションの不得手さが露呈することになる。その結果、「どうして場の空気がわからないんだ」、「一度言ったことが同時並行できないんだ」と繰り返して指摘される失敗体験を経て、自信喪失していくという構図が認められる。
企業での対応
では実際に自分の部署に発達障害と思われる人がいた場合、会社はどうすべきか。
まず気に留めて欲しいのは、その出現頻度は6%以上と言われ、30人同僚がいるとすれば、平均して1.8人いることになる。発達障害の人はコミュニケーションに問題を抱えるだけで、それ以外は健常者と何ら変わりがない。それどころか、こだわり症であることが多いから、自分の得意分野にあたれば大きな成果を生むと言われている。
発達障害そのものを理由とした解雇は当然禁止される(労働契約法16条、17条)。解雇回避努力として配置転換、社内教育(労働契約法3条3項、5条)をした上で、なお適切な労務提供が認められない時にのみ解雇が許されるだろう。もしうつ病を併発した場合は、休職をすすめるということも良い。休職制度そのものは労基法には定めがないので、就業規則、労働協約によって休職制度があるか確認する必要がある。他に相談すべきところとして、発達障害情報・支援センターがある。
コメント
一度採用してしまえば日本の労働契約法では解雇規制(16条)が働くのはもちろん、採用コスト、教育コストを考えると簡単にクビにできないであろう。一方で仮に退職したとしても、うつ病等を併発して他の仕事もできなくなり身寄りもない場合などであれば、生活保護を受給することも考えられる。その場合のコストは社会全体で負担することになる。もっとも、先に述べたように発達障害者は周囲の理解さえあれば大きな力を発揮できるとも言われている。具体的には、変化に柔軟に対応するような仕事は向いてないが、在庫管理、経理などの定型的な業務を、正確に、緻密にさせることには向いていると言われている。企業の中で内部研修する機会を設けて理解を深めることが会社の発展へつながるのでないか。
関連法令
<発達障害者支援法>
第1条 この法律は、発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うことが特に重要であることにかんがみ、発達障害を早期に発見し、発達支援を行うことに関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、学校教育における発達障害者への支援、発達障害者の就労の支援、発達障害者支援センターの指定等について定めることにより、発達障害者の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図り、もってその福祉の増進に寄与することを目的とする。
第2条 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
<労働契約法>
第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
関連サイト
日本小児神経学会
内閣府「ひきこもり支援者読本」第2章
判例タイムズ1390号375ページ
発達障害情報・支援センター
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