パブリシティ権侵害に注意~ピンク・レディー事件判決を踏まえて~
2013/11/18 知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, その他
事案の概要
原告ら(控訴人、上告人)は昭和50年代に幅広い年代層の支持を得て人気を博した歌手ユニット「ピンク・レディー」である。本事件は、原告らが同人らを被写体とする写真14枚を無断で週刊誌に掲載した被告(被控訴人、被上告人)に対し、原告らの肖像が有する顧客吸引力を排他的に使用する権利が侵害されたと主張し、損害賠償を求めた事案であるところ、原判決は、請求を棄却した第一審判決を維持したため、原告らが上告した事案である。
最高裁は、結論としては、被告の行為は専ら原告らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、不法行為法上違法であるということはできないとし、上告を棄却した(金築誠志裁判官の補足意見あり)。
最高裁は上記結論を導くにあたり、まずパブリシティ権につき、人の氏名や肖像等が顧客吸引力を有する場合に、その顧客吸引力を排他的に利用する権利と定義した上で、その法的性格につき「人格権に由来する権利の一内容を構成する」と位置づけた。
その上で、「正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」として、肖像等を無断で使用する行為は、「(1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、(2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、(3)肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」にパブリシティ権を侵害し、不法行為法上違法となるとして、いわゆる「専ら」基準に加えて具体的な3つの類型を提示した。
そして、本件の事実関係からは「本件各写真は、……本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきものであ」り、「専ら」原告らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないとして、被告の行為につきパブリシティ権侵害を否定し、不法行為上違法でないと判断した。
この判断を下すにあたり、最高裁は(ⅰ)本件記事の内容(ピンク・レディーそのものを紹介するものでなく、曲の振り付けを利用したダイエット法を解説することなどを内容とするもの)および(ⅱ)写真の使用態様や大きさ(約200頁ある雑誌の全体の3頁の中に使用されたにすぎないこと、いずれも白黒写真であること、およびその大きさも縦2.8cm、横3.6cmないし縦8cm、横10cm程度のものであること)に着目した。
コメント
本件の最高裁判決は、下級審判決で判断が分かれていた①パブリシティ権の法的性格および②その侵害の判断基準につき最高裁としての判断を示したものといえる。まず、①につき人格権に由来する権利であることを明言したうえで、②につき従来の裁判例の多く(東京地判平成16年7月14日等)と同様に「専ら」基準を採用しつつ、具体的な三類型を示した。本件のようなケースは出版業界等で日々生じうるものであり、表現行為が過度に制約されないようパブリシティ権侵害に該当する場合を限定的に解したものといえる。
そもそもパブリシティ権は明文の定めはないためその存在につき意識が希薄になりがちであるが、本件が示した基準を満たした場合には不法行為上違法になりうる以上、しっかりとした理解が必要になると思われる。
本件の使用態様についてはたしかに雑誌全体に占める割合でいえば少ないものであるが、使用された3頁を見るとピンク・レディーの顧客吸引力を利用したものとも思える。本件の最高裁判決の示した基準によりどのようなケースが不法行為上違法となりうるかは今後の裁判例の集積を待たれるところである。
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