企業への補償はゼロですか?
2013/09/03 労務法務, 労働法全般, その他

事案の概要
裁判員を務めた後に「急性ストレス障害(以下、ASD)」と診断された福島県の60代女性が、裁判員裁判制度の問題点を、国家賠償請求訴訟を通じて訴えた。女性は問題点の1つとして、現行の裁判員法では裁判員を出した企業への補償が何ら明記されていない点を挙げている。第1回口頭弁論は、今月24日に福島地裁で開かれる。
女性はこれまで、福祉施設でパートタイマーとして勤務していた。そして、今年3月に福島地裁郡山支部で開かれた強盗殺人事件の審判に裁判員として参加した。裁判を通じてショッキングな証拠の数々(カラー写真の遺体写真や被害者が通報した際の音声記録等)を見聞きしたことや被告に死刑判決が下されたことにより、ASDに罹患した。
その後女性は、休職を余儀なくされ、5月18日から休職をしていた。そして6月中旬、医師から7月からの職場復帰が認められた。しかし、職場からは「病気のため、7月末で契約終了とする」と書かれた解雇通知が送られてきた。女性は会社に対して法的措置も考えたが、結局契約更新をしないという結論に至った。「従業員がある日突然裁判員となって、長期間会社を休み、その後精神を病んで思うように働けなくなれば、会社としても困るのも納得」と感じたためである。
コメント
裁判員は非常勤の国家公務員として扱われるため、務めた結果、精神病(ASDや心的外傷後ストレス障害(PTSD)等)に罹患すれば、国家公務員災害補償法に基づく補償を受けることが出来る。
しかし、裁判員を務めた結果、心身を故障してしまった有職者に対する企業の対応、及びそのような企業に対する国の対応は、あまり議論が進んでいない。
企業体力がある大企業であればともかく、中小零細企業の場合、経営者もしくは従業員が裁判員に選任されると大問題である。裁判員の休業に起因する代替要員やの人件費、売上の減少等の負担も考えられる。更に今回のように、裁判員を務めたあとの精神的ショックにより、仕事を続けることが困難となれば、企業としても見通しがたたず、負担は更に増す。場合によっては企業の存続に関わる問題になりかねない。このように考えれば、心身を病んだものに対して、企業が解雇を通告することも、やむを得ない場合が多くあり、一律に企業ばかり責め立てるのでは問題の本質的な解決にはならない。
日本の企業数の99.7%を中小企業が占めるにも関わらず、欠けた人員を補填するための国からの補償が何らなく、全て企業任せになってしまっている。現状のままでは、制度の存続も危ぶまれるため、早急に対策を打つべき問題である。
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