リスクマネジメント―試される介護と医療の現場―
2013/06/12 コンプライアンス, 危機管理, 民法・商法, その他
「当時はそれ以上のことは出来なかった」
埼玉県春日部市の高齢者介護施設の女性入居者を殴り死なせたとして、傷害致死の疑いで元職員(29)が逮捕された。これを受け、同施設の理事長らが11日、記者会見した。
理事長は死亡女性を診断した内科医院の院長を兼ねており、同医院に女性が搬送された際、骨折とみられる症状があり診察。異常がなかったため胸部大動脈瘤破裂と診断した。理事長は(整形外科は専門ではないので)「当時はそれ以上のことはできなかった」と話した。理事長は元職員の担当範囲内で被害が連続したことを不審に感じていたが、本人に事実確認をすることはなかったという。虐待と確認できなかったことについて「遺族の方に大変申し訳ない」と謝罪した。
コメント
この事件において、以前から指摘されていた2つの問題が顕在化した。
一つは介護福祉士の管理である。介護福祉士の待遇改善が厚生労働省の方針であるものの、低賃金・重労働・低い社会的評価と言う問題は依然として残っている。現場の介護福祉士のストレスが爆発してしまった最悪の事例が、今回の死亡事件と言えるだろう。一般企業では「うつ」による労働災害等のリスク回避のため、社員の精神面のケアや労働時間の管理が重視されつつあるが、医療や介護施設においては十分になされてこなかったという経緯がある。もっともトップにその必要性の認識がなかったとしても、法務担当がリスクコミュニケーションを行っていれば、訴訟リスク回避のための指摘ができたはずだった。
もう一つは、高度の専門化に伴う医療ミスである。総合診療医構想があるものの、現在あらゆる医療分野に通暁している医師は多くない。診断による医療ミスの免責の有無は一律ではなく、事前の予防策は不可欠である。医療における法的リスク回避の優先順位として高いものであると言う認識が医師と共有されていれば、病院として何らかの工夫をするインセンティブが生まれたかもしれない。
言うまでもなく、日本は世界に類を見ない高齢社会に突入している。今後成長産業となるだろう介護と、介護と連携することで診療報酬が上乗せされる方針の医療は、今後大きなシナジーを生み出すだろう。業務に当たっての順法意識や労務管理、訴訟リスクなどについて、これまで以上の質・量の法務サービス需要が生じるだろう事は、想像に難くない。
参考
医療ミスの免責要件についての最高裁判例は一応あるものの、下級審レベルでは必ずしもこれにしたがっているわけではない。
最判平成7年6月9日
関連コンテンツ
新着情報
- 業務効率化
- Araxis Merge 資料請求ページ
- 解説動画
- 大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間
- 弁護士
- 野口 大弁護士
- 野口&パートナーズ法律事務所
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満1-2-5 大阪JAビル12階
- 解説動画
- 岡 伸夫弁護士
- 【無料】監査等委員会設置会社への移行手続きの検討 (最近の法令・他社動向等を踏まえて)
- 終了
- 視聴時間57分
- ニュース
- 今年秋施行予定、フリーランス新法とは2024.4.24
- NEW
- 個人事業主などを保護する「フリーランス新法」が今年秋に施行される見通しです。下請法と異なり全...
- まとめ
- 会社の資金調達方法とその手続き まとめ2024.3.25
- 企業が事業活動を行う上で資金が必要となってきます。このような場合、企業はどのようにして資金調達...
- 弁護士
- 並木 亜沙子弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- セミナー
- 原 武之弁護士
- 松本 健大弁護士
- 【リアル】紛争・クレーム・不祥事案件の対応方法 -法務担当者向け 法務基礎シリーズ-
- 2024/06/20
- 15:30~17:00
- 業務効率化
- LegalForceキャビネ公式資料ダウンロード