「トクホ」と「トクホウ」消費者庁が日本コカ・コーラに行政指導
2013/05/15   広告法務, 景品表示法, その他

事案の概要

消費者庁は、日本コカ・コーラ株式会社(以下「日本コカ・コーラ」)に対し、同社が先月22日に発売した炭酸飲料の宣伝について、特定保健用食品ではないのにそう誤解させるような表現を用いたとして、改善を求める行政指導を行った。

問題となったのは、「カナダドライジンジャーエールFIBER8000」。
この飲料は、人間の生理学的機能に影響を与える保健機能成分を含む食品で国の許可を受けた特定保健用食品、略称「トクホ」ではないが、「トクホ」の飲料に使われている食物繊維を多く含むという触れ込みで、先月下旬に発売された。
その宣伝では、この飲料の新発売を「トクホウ」・「特報」と表していた。特に、先月24日から放送されたテレビコマーシャルでは、「トクホウ」という文字が複数回大きく表示されていた。但し、「特定保健用食品ではありません」という文もCM中で表示されている。
消費者庁は、その表示方法及び「トクホウ」という言葉の読み上げが「トクホ」に聞こえる事から、「トクホ」ではないのに「トクホ」だと誤解させるおそれがあるとして、今月15日までに改善を求める行政指導に踏み切ったとしている。
なお、このテレビコマーシャルの放送は今月7日に終了した。

今回の指導の背景には、特定保健用食品の売上げ増による販売競争の激化がある。特定保健用食品は、製品毎に食品の有効性や安全性について審査を受け、表示について許可を受ける必要があるが、「血圧を保つ事を助ける」、「おなかの調子を整えるのに役立つ」等、特定の用途を表示する事が出来る(下記関連資料)。消費者の健康意識が高まるにつれて、「トクホ」への関心も大きくなっており、昨年キリンビバレッジ株式会社が発売したトクホのコーラは大ヒットとなった。飲料メーカー各社からトクホの新商品が相次いで発売されている。

コメント

特定保健用食品に関しては、ブームとなっているだけに、その効用や宣伝の表現についての議論が盛んである。「あしたのジョー」の矢吹丈をCMに起用した上記トクホのコーラや、「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造による「脂肪にドーン」のキャッチフレーズで有名になったサントリーホールディングス株式会社の黒烏龍茶等、トクホのヒット商品の広告には批判がつきまとう。

広告・宣伝には世間の耳目を集めるための強調や工夫が必要である事は否定出来ない。また、表現の自由として国の規制からの保護の対象となる。一方、受け取る側の消費者もトクホだからと言って摂取するだけで即座に痩せたり病気が治ったりする食品があると思うほど愚かではないだろう。薬ですら激しい効果のあるものには副作用が付き物である。古代中国の軍師、太公望も、「頭の良くなる薬はありますか」と弟子に問われて、「そんなものがもしあればそれは毒に違いない」と答えている。あくまで食品のトクホに劇的な効果が期待できよう筈もない。強調・誇張したい企業と最初から割り引いて考える消費者の間で、結果的にバランスが取れているのである。

ただ、これまでのトクホの製品の宣伝が「健康面での効用を強調し過ぎているか否か」という点で問題視されたのに対し、今回は「トクホではないのにトクホと誤解させるような表現を用いている」点が問題となっている。それだけトクホという言葉が一般化したとも言えようが、敢えて「ニュース」や「大事件」等ではなく「特報」という言葉を選び、それを「トクホウ」と片仮名で表記している事には、「あわよくば」という悪質性が見え隠れするように思える。「トクホを飲めば痩せると思った」という誤解と、「トクホでない物をトクホだと思って買った」という誤解の差はかなり大きい。そこが今回の行政指導に繋がったと考えられる。

情報と物に溢れる現代においては、少しでも消費者の意識に留まるよう、トクホのような新しい言葉・概念が次々に現れ、利用されてゆくであろう。誇大表現か否かの判断は難しく、行政の基準はかなり曖昧にならざるを得ず、企業は営利のためにそのぎりぎりのラインを攻めざるを得ない。
最終的に、自分の身を守るのは自分でしかなく、消費者は眉に唾をつけて冷静な判断を行う必要があろう。そうすれば、騙されるどころか、広告表現を楽しむ余裕さえ生まれる。今回の件も、「トクホという言葉の独り歩きに対する風刺」と思えれば人生を楽しく生きていけると思うが、さすがに穿ち過ぎであろうか。

関連資料

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