建築主事の国家賠償責任を限定的に判断
2013/03/29   訴訟対応, 民事訴訟法, 住宅・不動産

事案の概要

姉歯秀次・元1級建築士による耐震強度偽装事件をめぐり、建築確認の審査をした行政側の責任が争われた2訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(寺田逸郎裁判長)は26日、「審査する建築主事が職務上通常払うべき注意を怠り、漫然と法の規定との不適合を見過ごした場合には違法となる」との初判断を示した。行政側の責任を限定的に捉える内容となった。

判決は「建築主事は違法な建築物ができないよう防止する一定の職務上の法的義務を負う」と指摘。ただ安全性は一次的に建築士によって確保されるべきで、建築主事の審査はそれを前提にしているとした。行政の責任が問われるケースを例示したが、今回は建築主事の注意義務違反は認められないと結論付けた。

争点

建築確認の申請書に添付された構造計算書に一級建築士による偽装があった場合、建築主事が当該偽装を看過して確認したことは国家賠償法1条1項の適用上違法といえるか。

用語・条文

建築主:建築物の持ち主。

建築士:建築物の設計及び監理を行う職業、あるいはその資格を持った者。 建築士は建築主の委任を受け、申請の代理者となって申請手続をすることができる。

施工者:建築主から依頼を受け、もしくは競争入札などで施工契約を結んだ者。 主として、現場の進捗・品質などの管理を行い、実際に建物を造っていく者

建築主事:建築基準法(以下、建基法という)第4条の規定により建築確認を行うため地方公共団体に設置される公務員

建基法6条4項(建築物の建築等に関する申請及び確認)
「建築主事は、第一項の申請書を受理した場合においては、同項第一号から第三号までに係るものにあつてはその受理した日から三十五日以内に、同項第四号に係るものにあつてはその受理した日から七日以内に、申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し、審査の結果に基づいて建築基準関係規定に適合することを確認したときは、当該申請者に確認済証を交付しなければならない」。

国家賠償法1条1項
「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」。

判断基準

平成22年(受)第2101号 損害賠償請求事件
平成25年3月26日 第三小法廷判決
「建築主事による当該計画に係る建築確認は,例えば,当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに,申請書類
の記載事項における誤りが明らかで,当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったなど,建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該計画につき建築確認を行ったと認められる場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である」

コメント

今回の判決の意義は、建築主事が当該偽装を看過して確認した事案において国家賠償法の「違法」と評価されるには、「建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した」と評価できることが求められるとし、行政側の責任を極めて限定的にとらえる初判断を示した点にある。

翻っていえば、今回の判決は建築主事による偽造発見が事実上期待できない以上、建築士への信用に依存せざるをえないことを示したともいえる。

結局、建築主にとっては信頼できる建築士を慎重に選ぶことが重要になってくることだろう。

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