国連決議への違反に関する考察
2012/06/14 海外法務, 外国法, その他
事案の概要
中国が昨年、長距離弾道ミサイルの発射台車両やミサイル製造に使われる物質バナジウム2トンを北朝鮮に輸出するなど、広範囲な軍用物資取引に関わっていたことが、6カ国協議参加国当局作成の報告書にあったと発覚した。北朝鮮への大量破壊兵器関連物資の輸出などを禁じた国連安全保障理事会制裁決議が、中国により骨抜きになっている実態が裏付けられた。
報告書によると、北朝鮮政府がダミー会社を通じて、長距離弾道ミサイルの発射台に転用可能な特殊大型車両4台を中国から輸入した。また複数の日本政府関係者によると特殊車両は中国国有企業の子会社が開発したもので、海上保安本部が北朝鮮からのカンボジア船籍の貨物船を立ち入り検査したところ、中国側からの輸出を示す記録が見つかったという。
報告書によれば特殊車両の輸出以外にも、同じく北朝鮮企業がミサイル製造に利用できるバナジウム約2トンを中国から輸入。バナジウムはミサイルの合金などを製造する際、強度を高めるために加えられるレアメタル。同社は中東への兵器輸出も指摘されている。
中国当局の黙認や中国企業の関与なしには難しく、報告書は中国が北朝鮮の制裁逃れの温床になっている点を強調している。
弾道ミサイル物資の対北輸出は国連安保理制裁決議に違反している。ただ、決議は国連の全加盟国に履行を義務づけているものの、各国の自主性に委ねられ、不履行国に対する罰則規定がないため、実効性を疑問視する声が上がっていた。
一方、中国による北朝鮮へのミサイル発射台車両の輸出を昨年把握していた日本政府は、米国、韓国とも情報を共有していながら、公表していなかった。
外務省幹部は、「ただちに安保理決議違反とはいえないと判断した。トラックを輸出しても北朝鮮が改造した可能性もある」と釈明。別の政府高官は「この事実を国連にすぐ報告しても意味がない。いかにカードとして使うかが問題だ」と述べた。
発射台車両は4月15日の北朝鮮の軍事パレードで公開されたが、パネッタ米国防長官がの下院公聴会で「中国の協力があったと確信している」と証言していた。
コメント
今回は中国が決議に違反したことは非常にインパクトがあるが、日韓が事実を直ちに公表せず、何らかの形で国益に利用しようとしたことも印象的だった。規則の裏には、各国の思惑や取引が渦巻いている。
各国の共通の利益を見出すことが難しい国際社会では、コンセンサスを形成し強い規定を設けることは不可能に近い場合も存在する。是非はともかく、ルールをよく理解し、したたかに振舞うことが生き残る道の一つであることは間違いないだろう。
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