QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第42回ソフトウェアライセンス契約:ライセンス期間~監査
2023/02/15   契約法務, IT法務

第41回からエンドユーザ・ソフトウェアライセンス契約について具体的な条項を提示した上解説しています。今回は, 以下目次のQ3Q8のライセンス料/本ソフトウェアの引き渡し/本ソフトウェアの試用/禁止事項および遵守事項/監査に関する規定例を提示しその内容を解説します。

【目  次】Q1:ソフトウェアライセンス契約の前文

Q2:ライセンスの許諾 (以上第41回)

Q3 ライセンス期間

Q4 ライセンス料

Q5 本ソフトウェアの引き渡し

Q6 本ソフトウェアの試用

Q7 禁止事項および遵守事項

Q8 監 査 (以上今回)

Q9:  アップデート, テクニカルサポートおよび保守サポート契約

Q10:  本ソフトウェアの不具合に関する責任

Q11:  知的財産権の侵害に対する責任

Q12:  秘密保持並びに資料等の利用目的および返還

Q13:  解除および期限の利益喪失

Q14:  反社会的勢力の排除

Q15:  損害賠償

Q16:  一般条項

本稿のPDFはこちらから

Q3 ライセンス期間


A3:以下に規定例を示します。なお, 以下, 契約規定例中に, 強調又は解説の便宜上, 下線を引いている箇所があります。
 

第2条    ライセンス期間

1.       お客様は, 承諾済み注文で合意されたライセンス期間(以下「当初ライセンス期間」という)中, 本ソフトウェアを利用できるものとします。

2.       ライセンス期間は, お客様または当社が, 当初ライセンス期間満了日10日前までに本契約を更新しない旨を相手方に書面(電子的媒体によるものを含む。以下同じ)で通知しない限り, 更に同一の期間, 自動的に更新されるものとし, 以後も同様とします。但し, お客様は, 各ライセンス期間満了日10日前までに当社に書面で通知することにより, 次の更新期間の長さを変更できるものとします。

3.       前項に定めるお客様から当社への書面での通知は, お客様が当社Webサイトまたはアプリケーション上に作成したユーザアカウント(以下「ユーザアカウント」という)を通じ行うものとします。

【解 説】


【第1項】

「承諾済み注文」は, 第41回Q4で解説した本契約第1条第2項に定義する通り, 「お客様からの本ソフトウェアの注文(以下「注文」という)に対し当社または当社認定企業(以下「注文先」という)が承諾した当該注文」のことです。

本契約では, ライセンス期間に定めがない, いわゆる永久ライセンスでなく, 所定のライセンス期間(例えば, 6か月ごと, 1年間ごと)があるという前提です。

【第2項・第3項】

承諾済み注文で合意された当初ライセンス期間の満了の一定期間前に, 当社(ライセンサー)からお客様(ユーザ/ライセンシー)の登録メールアドレス宛に「更新のお知らせ」が自動送信され, これに対し, お客様がユーザアカウント上で設定すること等を通じライセンス期間の不更新または更新期間の変更(例えば, 現行6カ月を更新後は1年間に変更)しない限り, 前のライセンス期間と同じ期間, 自動更新される, という前提です。

第2項で, 「お客様または当社が, 」としていますが, 一般的なソフトウェア製品であれば, 「お客様が, 」とし, 当社側からの不更新はないものとしてもよいでしょう。

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Q4: ライセンス料


A4:以下に規定例を示します。
 

第3条    ライセンス料

1.      お客様は, 承諾済み注文で合意されたライセンスの対価(以下「ライセンス料」という)を, 承諾済み注文で合意された支払期限・条件に従い支払うものとします。

2.      ライセンス料は, ライセンス期間ごとに設定されるものとし, 現行ライセンス期間満了後に適用されるライセンス料が増額変更される場合, 当社または当社認定企業は, 現行ライセンス期間満了日の満了前20日前までに, お客様に対し, その旨および内容を書面で通知するものとします。

3.      お客様は, 前項に定めるライセンス料変更を受入れない場合, 前条に従い, 現行ライセンス期間満了日10日前までに本契約を更新しない旨を通知するものとし, この通知がない場合には, 変更後のライセンス料によりライセンス期間が更新されるものとします。

【解 説】


【第2項・第3項】 当社側の料金改定により, 更新後のライセンス料が増額される場合には, 事前にその予告がお客様に対しなされ, お客様はその増額を受入れない場合にはライセンス期間を不更新とすることになります。

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Q5: 本ソフトウェアの引き渡し


A5:以下に規定例を示します。
 

第4条    本ソフトウェアの引き渡し

1.       お客様は, 注文先が提供するソフトウェアライセンスキー(以下「ライセンスキー」という)を使用し, ユーザアカウントから本ソフトウェアをダウンロードすることができるものとします。

2.      本ソフトウェアの引渡しは, 注文先がお客様にライセンスキーを提供し, お客様が本ソフトウェアをダウンロードできるようになった時点で完了したものとします。

【解 説】


【第1項・第2項】 

本ソフトウェアは, ソフトウェアが記録された媒体(CD-ROM等)を梱包した箱(パッケージ商品)の形態で流通するのではなく, 上記の通り, お客様がライセンスキーを使用し, ユーザアカウントから本ソフトウェアをダウンロードすることを想定しており, 上記のような形で引き渡しがなされたものとすることにしています。

なお, 有体物の提供ではないので, 売買契約にある所有権や危険負担の移転に関する規定は, 本契約上はありません。

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Q6: 本ソフトウェアの試用


A6:以下に規定例を示します。
 第5条    本ソフトウェアの試用

1.      当社がお客様に本ソフトウェアまたはその一部の機能(以下「試用ソフトウェア」という)の無償試用を可能としている場合, お客様は, 当社が定める範囲・条件および期間に従い, 評価目的でのみ, 本ソフトウェアを無償で利用できるものとします。

2.      試用ソフトウェア関してはいかなる保証もなされないものとします。

3.      前二項の定めを除き, 試用ソフトウェアには本契約の条件が準用されるものとします。

【解 説】


【第1項~第3項】 

第41回Q3で説明した通り,

現代のソフトウェア製品の取引では, 予め利用希望者に一定期間無償試用の機会を与え, その試用期間経過後自動的に有償ライセンスに移行する等の形態が多く採用されています。無償試用は, 利用者にとって利益があるだけでなく, ライセンサーにとっても, そのソフトウェア製品の販売促進策になること, 利用者に実際に利用してもらいある程度納得してもらった上で有償ライセンスに移行されるので, その移行後に利用者から不満・クレームがなされる可能性を少なくできるというメリットがあります。また, ソフトウェアのライセンス契約では「現状渡し」(すなわち無保証)とされていることが多いですが, ライセンサーが利用者に事前に無償試用の機会を与えていれば, 利用者が試用したその現状のままでの提供という意味で「現状渡し」を主張し易くなる効果が期待できます

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Q7: 禁止事項および遵守事項


A7:以下に規定例を示します。
 

第6条    禁止事項および遵守事項

1.      お客様は, 本契約で明示的に認められている場合および当社が事前に書面で明示的に同意した場合を除き, 以下の行為を行わないことを表明および保証し, また, これをしてはならないものとします。

(1)      本ソフトウェア(その一部を含む。以下本条において同じ)を本契約で定める範囲・条件以外で利用することおよび第三者に利用させること。

(2)      本ソフトウェアを改変もしくは翻案しまたはその二次著作物を作成すること。

(3)      逆アセンブル, 逆コンパイル, その他手段の如何を問わず, 本ソフトウェアのソースコードを得ようとし, その他リバースエンジニアリングを行うこと。

(4)      本ソフトウェアのセキュリティまたは利用制限の手段・機能を, 回避, 改ざん, 無効化または削除し, その他当該手段・機能を損なう行為をすること。

(5)      本ソフトウェアの著作権その他権利に関する表示を削除, 改変その他損なう行為をすること。

(6)      本ソフトウェアを他のソフトウェア(オープンソースソフトウェアを含む)と組合わせ, その結果, GNU(General Public License)等の条件が適用され本ソフトウェアのソースコードの開示, 自由利用等が強制されるようにすること。

(7)      前号の他, 本ソフトウェアを他のソフトウェアと組合せること。

(8)      本ソフトウェアの機能を利用して, お客様が権利を有しないコンテンツまたはウイルスその他の有害なソフトウェアもしくはデータをアップロードその他送信すること。

(9)      本ソフトウェアを, 各国の輸出管理または経済・貿易制裁もしくは制限に関連するものを含め(但し, これに限らない), 適用ある各国の法令または行政機関もしくは司法機関の命令(以下「輸出管理および経済貿易制裁関連法令」という)に違反して他の国, 地域または者に輸出または再輸出し, その他違反行為を行うこと。

(10)   その他, 本契約で明示的に許諾された範囲・条件以外で利用すること。

2.      お客様は, 本ソフトウェアの不正利用その他本ソフトウェアに関係するセキュリティ上の問題が生じた場合, 直ちにその内容を当社に通知するものとし, また, 当社がこれに対応するためお客様の協力を要請した場合には, これに応じるものとします。

3.      お客様は, 本ソフトウェアの利用に際し利用するお客様のデータであって, お客様がそのバックアップが必要と判断するものについて, お客様の責任と費用でバックアップするものとします。

【解 説】


【第1項】

(2) 本ソフトウェアの改変等はその正常な稼働を損なう可能性があるので, これを禁止しています。

(3) 著作権法30条の4では, 著作物は, 情報解析等, 著作物に表現された思想・感情の享受を目的としない場合には, 必要な限度でこれを利用することができるとしているので, ソフトウェアのリバースエンジニアリングは必要な限度で許されると解されています。このような著作権法上許されている行為を契約で禁止していいのかという議論があります[1] しかし, ライセンサーとしては, ライセンシーがそのソフトウェアをリバースエンジニアリングして競合品を開発・販売することは是非とも回避したいところです。従って, ほとんどのソフトウェアのライセンス契約では上記のような議論にもかかわらず,リバースエンジニアリングを禁止しています。

本契約では, 単に, リバースエンジニアリングを禁止するだけでなく, その前提として, 第6条1項柱書で, お客様に, リバースエンジニアリングを含む行為を行わないことを「表明および保証」させることにより, もし, その表明保証に違反した場合には, 契約解除・損害賠償等が可能となるようにしています

(4) 例えば, ライセンスキーによる本ソフトウェアの利用制限を無効化させる等の行為を禁止しています。

(6) オープンソースソフトウェア(OSS)は, そのソースコードが, 一定のライセンス条件の下で, 開示され, 誰でもそのライセンス条件に従う限り自由に複製・改変・頒布等が可能とされているソフトウェアです。しかし, そのライセンス条件のうち, 例えば, GNU(General Public License)のライセンス条件では, 該当のOSSとリンクして動作するソフトウェアについてもソースコード開示義務が及ぶことになっています[2]。従って, もし, 「お客様」が本ソフトウェアをGNUでライセンスされるオープンソースソフトウェア(OSS)と組合わせると, その結果, 本ソフトウェアのソースコードの開示, 自由利用等が強制されるようになる可能性があります。従って, ここではそのような行為を禁止しています。

(9) 日本を含む主要国は, 武器や軍事転用可能な物品(貨物)・技術(ソフトウェアを含む)が, テロリスト等に渡ることを防ぐ等の目的で, 基本的には国際的枠組みに従い輸出管理を行っています。また, 輸出管理以外にも外国への物品・技術等の移動等を制限する結果となる外国制裁法令もあります。[3] ここでは, それらを「輸出管理および経済貿易制裁関連法令」と総称し, もし, 本ソフトウェアに「輸出管理および経済貿易制裁関連法令」の適用がある場合には同法令に違反して他の国, 地域または者に輸出, 輸入または再輸出し, その他違反行為を行うことを禁止しています。

【第2項】

ソフトウェアのセキュリティ上の脆弱性等は重大問題であり, 当社が直ちに対処すべき問題であることから, もし, お客様においてそれを発見した場合には, その旨の通知と, 対処への協力を義務付けています。

【第3項】

ソフトウェアの不適切な操作やバグ, または, ソフトウェアを利用しているパソコン等の不作動等により, ユーザのデータが消失等してしまうことはよくあり得ることです。ここでは, お客様が, 自らの判断で, 必要なデータのバックアップを行うことを義務付けています。

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Q8: 監 査


A8:以下に規定例を示します。
 

第7条    監 査

1.      当社が, 本ソフトウェアにライセンス条件の管理・遵守監視のための自動化ツールをインストールする場合, お客様は, これを許可し, また, これを無効化しその他その機能を損なう行為をしてはならないものとします。

2.      お客様は, 本ソフトウェアが本契約を遵守して利用されるよう, 自己の従業員・役員および業務委託先を監督し, また, 本ソフトウェアのライセンス条件と実際の利用状況との適合・不適合に関する記録を作成し, ライセンス期間中およびその後1年間保存するものとします。

3.      当社は, 必要と判断した場合には, いつでも, お客様に対し本契約の遵守状況に関する情報(第2項の記録を含む)の提供を要請できるものとし, お客様は, この要請に7日以内に応じるものとします。

4.      前項に定める要請の他, 当社または当社が委託する第三者は, 必要と判断した場合には, いつでも, 当社の費用負担で, 合理的な予告期間を置いて書面で通知し, お客様による本契約遵守状況の確認のみを目的として, お客様の施設において, その通常の業務時間内に, 本契約の遵守状況(第2項の記録および本ソフトウェアが利用されているシステムの状況を含む)を調査および監査できるものとします。当社は, 当該監査において知ったお客様の情報を第11条に定める秘密情報として扱うものとします。

5.      前項の監査の結果, ライセンス料の5%を超える過少払いが判明した場合, お客様は, 当該過少払いの金額および合理的範囲内の監査費用を, 当社からの請求後30日以内に支払うものとします。なお, お客様がこれらの支払いをする場合でも, 当社は, 本契約に従い本契約を解除する権利その他本契約上の権利を放棄するものでないものとします。

【解 説】


【第1項】

当社側で, オンラインでライセンス条件の管理・遵守監視のための自動化ツールを使う場合の規定です。

【第2項】

お客様側で, いわゆる「ライセンス管理」[4]を行うことを義務付けています。その方法としては, ライセンス管理台帳を作成する, 管理ツール(ソフトウェア)を使う等の方法があります。

【第3項~第5項】

違反の兆候がある等の場合, 当社がお客様によるライセンス条件遵守状況を調査・監査できるようにしています。第4項・第5項の内容は, 特許やソフトウェアのライセンスにおける典型的監査条項です。「なお」書きは, 違反状況によっては, 当社は, 併せて, 契約解除・損害賠償請求等ができることの確認的規定です。

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今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[5]

 

[1] 【ソフトウェアのリバースエンジニアリングの契約による禁止の有効性】 (参考) (1)鮫島 正洋「第2版 技術法務のススメ」2022/8/9. p.366, 367.

[2] 【OSSライセンスの問題点】 (参考) 鮫島 正洋「第2版 技術法務のススメ」2022/8/9. p.368-372. (2) 内田・鮫島法律事務所「GPL系のOSSライセンスとソースコード開示義務」. (3)弁護士法人クラフトマン「オープンソースソフトウェアの概要

[3] 【輸出管理および経済貿易制裁関連法令】 (参考) 浅井敏雄「日米欧中における輸出管理・外国制裁制度」2020/11/11, 企業法務ナビ

[4] 【ライセンス管理】 (参考) ZOHO Japan Corporation.「ソフトウェアライセンスを管理してコンプライアンス違反を防止

[5]

==========


【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 


【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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