QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第41回ソフトウェアライセンス契約:~ライセンスの許諾
2023/02/01   契約法務, 知財・ライセンス, IT法務, 民法・商法

今回から具体的なソフトウェアライセンス契約について条項例を提示した上解説していきます。今回は, その第1回で, ライセンス契約の契約方式/前文/ライセンスの許諾等を解説します。

【目 次】


(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)


Q1:本ソフトウェアの流通形態と契約形態


Q2:本ソフトウェアで採用するライセンス契約成立方式


Q3:ソフトウェアライセンス契約の前文


Q4:ライセンスの許諾


 


 

Q1:本ソフトウェアの流通形態と契約形態


A1: これから解説するソフトウェア(以下「本ソフトウェア」という)は, 前回解説したダウンロード版(オンラインコード版)の流通形態と契約形態をとることを前提とします。

このダウンロード版(オンラインコード版)では, オンラインショップ等でそのソフトウェア商品を購入すると, その購入者に対し, プロダクトキー(英数字・記号の文字列)がオンライン上で発行され, または, そのプロダクトキーが印刷されたカード等が配送され, その後, ソフトウェア製品の購入者が提供元のWebサイト上で, ユーザアカウントを作成し, そのプロダクトキーを入力をすると, 該当のソフトウェアが購入者のパソコン等にダウンロードできるようになります。この場合, ライセンス契約については, そのダウンロード開始前にそのWebサイト上で表示または閲覧可能にされ, ユーザが同意ボタンをクリックすることにより, 初めてダウンロードが可能となる仕組み(いわゆる「クリックオンライセンス方式」)がとられているものとします。

なお, このダウンロード版(オンラインコード版)の場合, Amazon等の中間業者は, 顧客に対し, それを購入すれば, 該当のソフトウェアをダウンロードし提供元からライセンスを受けて利用することができる権利を販売していると解すべきでしょう。

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Q2:本ソフトウェアで採用するライセンス契約成立方式


A2: 本ソフトウェアでは, そのライセンス契約を有効に成立させるため, それをダウンロードするためのWebサイトの画面を, 以下の手順・条件を満たすように設計することとします。

 


①   ダウンロードの前に「このソフトウェアには○○ライセンス契約が適用されます」等の表示がされ, その下に, そのライセンス契約の内容が表示されるようにする。

②   その下に, 「ライセンス契約に同意してダウンロードを開始する」等の表示がされ, その表示自体, 同意ボタンまたはチェックボックスをクリックまたはチェック入れすると, 初めてダウンロードが開始されるようにする。

【解 説】


前回解説したように, 本ソフトウェアのような市販のソフトウェア製品の場合, そのライセンスが民法第548条の2の定型約款における「定型取引」に, そのライセンス契約の条項が「定型約款」に, それぞれ該当することは, 一般に肯定されており, また, ライセンサー(定型約款準備者)とライセンシー(相手方)間でそのライセンス(定型取引)を行う合意(定型取引合意)があることは, ライセンシーのダウンロード行為により満たされます。

上記以外の定型約款のみなし合意成立のための要件(組入要件)は以下の通りです。

(a)定型約款組入の表示:ライセンサーが定型取引合意の前にあらかじめライセンス契約の条項をライセンスに係る契約の内容とする旨をライセンシーに表示していたこと, または,

(b)定型約款組入の合意:ライセンサーとライセンシー間でそのライセンス契約の条項をライセンスに係る契約の内容とすることの合意があること。

上記(a)の定型約款組入の表示の要件は, 上記①の「このソフトウェアには○○ライセンス契約が適用されます」等の表示だけで満たされ, それだけでも定型約款のみなし合意が有効に成立します。

しかし, Webサイト上では, 上記②のクリックまたはチェックにより上記(b)の定型約款組入の合意の要件を容易に満たすことが可能であること, および, そのクリックまたはチェックにより, ライセンサーが後で契約無効を主張する可能性が低くなると期待できることから, 上記②の手順まで実施するのが賢明です。

なお, 上記①の後半のライセンス契約(定型約款)の条項を表示することは, 定型約款のみなし合意成立のために必要というわけではありません。

しかし, 民法第548条の3によれば, ライセンサー(定型約款準備者)は, ダウンロード(定型取引合意成立時点)の前またはその後相当期間内にライセンシー(相手方)から請求があった場合には, 遅滞なく, 相当な方法でライセンス契約(定型約款)の内容を表示しなければならない(但し既に相手方にそれを提供していた場合を除く)とされ, また, 定型取引合意の前にこの請求を拒んだときは定型約款の合意が不成立となります。

そこで, この請求に応じた表示の必要性と型約款の合意不成立のリスクをなくすため, ①の通り予めライセンス契約の内容を表示するようにします。

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Q3:ソフトウェアライセンス契約の前文


A3: 以下に規定例を示します。なお, 以下において, ①, ②......等は, 後でその部分を解説するために付けた番号です。また, 下線は, 強調または解説の便宜のためです。
 

エンドユーザ・ソフトウェアライセンス契約


①お客様が本ソフトウェアを利用する場合, このエンドユーザ・ソフトウェアライセンス契約(以下「本契約」という)がお客様と株式会社○○○○(以下「当社」という)との間の契約の内容として適用されます。お客様は, 本契約への同意ボタンをクリックし, または, 本ソフトウェアのダウンロード, インストールまたはその他使用または利用(以下「利用」と総称する)をすることにより, 本契約の個別の条項を含め, 本契約の内容に同意したものとみなされます。

②お客様が, 従業員・役員等, 法人その他の組織(以下「法人」と総称する)に所属する者であって, その法人における職務として本ソフトウェアを利用する場合には, 「お客様」とはその法人をも意味します。この場合, お客様は, その法人に代わり本契約に同意したものとします。

③お客様が本契約に同意できない場合または同意の権限・能力がない場合, 本ソフトウェアの利用を開始することなくまたは直ちに利用を中断し, 当社(但し, お客様が本ソフトウェアの注文を当社認定企業(以下「当社認定企業」という)にした場合には当社認定企業)に, 本ソフトウェアとその付属物の全てを返却し, 支払済みの代金があればその返金を受けて下さい。

④本契約は, 本ソフトウェアの無償試用にも適用されます。

【解 説】


①【定型約款の組入要件を満たすための文言】

A2で説明した組入要件は, A2で解説した手順・条件だけでも満たされますが, この本契約中の文言により組入要件を重ねて充足しようと意図しています。

「お客様と株式会社○○○○(以下「当社」という)との間の契約」本ソフトウェアがライセンサーから中間業者を経由して販売された場合でも, 本ソフトウェアのライセンスおよびその契約の当事者は, 当社(ライセンサー)とその最終利用者(エンドユーザ)であることを明らかにしています。

「ダウンロード, インストールまたはその他使用または利用」著作権法上は, ソフトウェアを含む著作物の「使用」と「利用」を使い分けていると解する余地がありますが, 本契約では, 両者を含め, 本ソフトウェアに関する全ての取扱いを「利用」と総称しています。

②【従業員等がダウンロードする場合】

ライセンシーが会社等の法人の場合, 実際に本ソフトウェアをダウンロードするのは, ほとんどの場合, その法人の代表取締役等の代表者ではなく, 法人の従業員・役員等なので, 本契約をその法人等との間で成立させるため, このような文言を置いています。

③【ライセンス契約に同意できない場合の返品等】

ここでは, 本ソフトウェアをダウンロード等しようとする者が本契約の内容に同意できない場合には, 本ソフトウェアの返却と交換に支払済みの代金を返還することを要求しています。このように規定することにより, そのようにしなかった場合には, ライセンシーが本契約に合意していたことの証拠となることが期待できます。

「当社認定企業」:当社(ライセンサー)が認定している中間業者(販売店/OEM/VAR/SIベンダ等)を意味します。

④【試用への契約条件適用】

現代のソフトウェア製品の取引では, 予め利用希望者に一定期間無償試用の機会を与え, その試用期間経過後自動的に有償ライセンスに移行する等の形態が多く採用されています。無償試用は, 利用者にとって利益があるだけでなく, ライセンサーにとっても, そのソフトウェア製品の販売促進策になること, 利用者に実際に利用してもらいある程度納得してもらった上で有償ライセンスに移行されるので, その移行後に利用者から不満・クレームがなされる可能性を少なくできるというメリットがあります。また, ソフトウェアのライセンス契約では「現状渡し」(すなわち無保証)とされていることが多いですが, ライセンサーが利用者に事前に無償試用の機会を与えていれば, 利用者が試用したその現状のままでの提供という意味で「現状渡し」を主張し易くなる効果が期待できます

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Q4:ライセンスの許諾


A4: 以下に規定例を示します。
第1条      ライセンスの許諾1.      本契約に従い, 当社は, お客様に対し, お客様自身の業務のために本ソフトウェアを利用する, 非独占的, 譲渡不可, 再許諾不可かつ制限付きの利用権(以下「ライセンス」という)を許諾します。

2.      お客様が本ソフトウェアを利用できる範囲・条件(例:利用可能機器, 同時利用可能ユーザ・機器の数・範囲, 利用可能期間等)は, お客様からの本ソフトウェアの注文(以下「注文」という)に対し当社または当社認定企業(以下「注文先」という)が承諾した当該注文(以下「承諾済み注文」という)の内容(例:ライセンスタイプ, ライセンス数, ライセンス期間等)の通りとします。

3.      本ソフトウェアの機能上の仕様(以下「機能仕様」という), および, 本ソフトウェアが正常に動作するための, ハードウェア, オペレーティングシステム, 他のソフトウェア, 通信その他サービス, データ処理量その他の要件・条件(以下「稼働環境」という)は, 承諾済み注文の成立時点で当社が公表している内容の通りとします。

4.      お客様は, お客様自身の業務処理に必要な限度で, かつ, お客様の監督および責任のもとで, 本ソフトウェアを, 自己の従業員および業務委託先に, 本契約に定める条件で利用させることができるものとします。

5.      本契約により許諾されたライセンスを除き, 本ソフトウェアに関する全ての権利は, 当社または当社以外の権利者に留保されるものとします。

【解 説】


【第1項】

お客様自身の業務のために」本契約は, その名称にある通り, ライセンシーが本ソフトウェアのエンドユーザ(最終利用者)であることを前提にしています。従って, ライセンシーが本ソフトウェアを他の者に利用させることは原則として禁止されます。

「非独占的, 譲渡不可, 再許諾不可かつ制限付きの利用権」:本ソフトウェアおよびそのライセンスは, 独占的な権利ではなく, 他に譲渡できず, サブライセンスできず, また, 利用可能機器, 同時利用可能ユーザその他制限のついたものです。英文のライセンス契約では, "a non-exclusive, non-transferable, non-sublicensable, personal, limited license"等と表現されています。

【第2項】

一般に, ソフトウェア製品は, ライセンシーが予め設定し公表しているたライセンスタイプ・メニューに応じ提供されます。ライセンサーとライセンシーが個々に交渉して締結するライセンス契約では, ライセンスタイプ・メニューをその契約中で具体的に特定することも考えられますが, 本契約はどのライセンスタイプ・メニューにも共通して適用される定型約款なのでそうすることは適切ではありません。また, ライセンサーとしては, そのライセンスタイプ・メニューは, その時々の販売・価格戦略に応じ随時柔軟に変更できるようにしたいというニーズがあります。そこで, 本契約では, そのタイプ・メニューは, 「当社または当社認定企業(以下「注文先」という)が承諾した当該注文(以下「承諾済み注文」という)の内容(例:ライセンスタイプ, ライセンス数, ライセンス期間等)の通り」としています

【第3項】

ソフトウェア開発委託契約等では, 開発されるべきソフトウェアの仕様や稼働環境は当然その契約中で具体的に特定される必要性があります。しかし, 本契約は, 定型約款であり, また, 市販のソフトウェア製品に関するもので, その製品の仕様や稼働環境は常に市場に合わせ変更・改良されるので, 契約中で具体的に特定されることは適切でありません。そこで, 本契約では, 仕様や稼働環境は, 「当社が承諾済み注文成立時点で公表している内容の通り」としています

第4項】

ソフトウェアライセンス契約では, ライセンス条件との関係で, ライセンシーがそのソフトウェアを業務委託先に利用させることができるか, 別途許可が必要かがよく問題になります。この点, 本契約では, あくまで, 「お客様自身の業務処理に必要な限度」という条件で, 本ソフトウェアを業務委託先に利用させることができるとしています。あくまで, 「お客様自身の業務処理に必要な限度」なので, 例えば, ライセンシーの業務委託先が, ライセンシー(お客様)だけでなく他の会社の業務処理のために本ソフトウェアを利用することはできません

第5項】

確認的規定です。

 

今回はここまでです。

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「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

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【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 


【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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