QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第38回ソフトウェア開発委託契約:著作権
2022/12/15   契約法務, 著作権法

第34回からソフトウェア開発委託契約について具体的な条項を提示した上解説しています。[1] 今回は、以下目次のQ21の著作権に関する規定例を提示しその内容を解説します。

【目  次】Q1:本契約で対象とするソフトウェア開発委託

Q2:契約名称・前文

Q3:目的及び個別契約 (以上第34回)

Q4:定 義

Q5:仕様確定支援業務(準委任業務)の個別契約例

Q6:仕様確定支援業務の実施

Q7:仕様確定支援業務に係る業務終了報告書の提出・確認

Q8:仕様確定支援業務に係る委託料及び費用負担

Q9:仕様の確定 (以上第35回)

Q10:開発請負業務(請負業務)の個別契約例

Q11:開発請負業務の実施

Q12:本件ソフトウェアその他納入物の納入・検収

Q13:開発請負業務に係る委託料及び費用負担

Q14:契約不適合責任

Q15:仕様の変更 (以上第36回)

Q16:再委託

Q17:業務責任者及び業務従事者

Q18:協 議

Q19:納入物等の所有権及び危険負担

Q20:納入物等の特許権等 (以上第37回)

Q21:納入物等の著作権 (以上今回第38回)

Q22:知的財産権の侵害に対する責任

Q23:個人情報の取扱い

Q24:秘密保持並びに資料等の利用目的及び返還

Q25:解除及び期限の利益喪失

Q26:反社会的勢力の排除

Q27:損害賠償

Q28:その他一般条項

Q29:契約書末尾

本稿のPDFはこちらから

Q21:納入物等の著作権


A21:以下に3つの規定例を示します。なお、以下、契約規定例中に、強調又は解説の便宜上、下線を引いている箇所があります。

【本契約第①案:納入物等に関する著作権は、原則としてベンダ(乙)が保有し、ユーザ(甲)は納入物等について利用・利用許諾の権利を有する案】

 


第17条 (納入物等の著作権及びその利用)


1.      納入物等に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)は甲又は第三者が従前から保有していた著作権を除き、乙に帰属するものとする。


2.      甲は、納入物等を自ら利用(複製及び翻案その他改変、並びにその複製、翻案又は改変したものの利用を含む。以下同じ)し、また、個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者にその利用を許諾できるものとする。乙は、これらの利用について著作者人格権を行使しないものとする。なお、かかる利用及び利用許諾の権利の対価は、委託料に含まれるものとする。


3.     乙は、第1項によりその著作権が乙に帰属する納入物等を自ら利用し又は第三者にその利用を許諾する場合、如何なる方法によっても、第20条(秘密保持)に違反してはならない


【解 説】


本件ソフトウェアその他納入物等に関する著作権の帰属は、一般的に、ユーザ、ベンダがそれぞれ以下のような主張をし、ソフトウェア開発委託契約の交渉上争点になることが最も多い事項の一つです。

【ユーザの一般的主張】


多くのユーザが、少なくとも最初は、主に以下のような理由で、ユーザへの著作権譲渡を主張します。

(a)ユーザは、ベンダに対し、ソフトウェア開発の対価を支払う以上、売買目的物の所有権と同様、著作権も譲渡されるべきである。

(b)ベンダに著作権が帰属したままでは、ベンダはユーザの資金負担により開発したソフトウェアをユーザの競合企業にも提供できることになる。

(c)ソフトウェアからユーザのノウハウや営業秘密が窺い知ることができる場合は、ソフトウェアがベンダからユーザの競合企業に提供されることにより、ユーザのノウハウ等が他に(特にユーザの競合他社に)流出するおそれがある。

【ベンダの一般的主張】


一方、ベンダとしては、ユーザのために開発したソフトウェアが非常に特殊で、その一部でも他に転用できないのであれば、著作権をそのユーザに譲渡しても問題はないかもしれません。しかし、通常は、以下のような理由でベンダが著作権を留保することを主張します。

(a)あるユーザ(以下「ユーザA」という)のために開発したソフトウェアに汎用性があり、他のユーザへの転用が見込める場合、ベンダに権利を留保しておけば、実際に他のユーザ(以下「ユーザB」という)から同様のソフトウェアの開発を受託したときは、既に開発済みのソフトウェアを転用することにより、コスト削減、納期短縮、品質・信頼性向上等を達成しながらソフトウェアを開発することができ、ベンダのみならずユーザBにとっても利益となる。

このことは、一見、ユーザAにとって不利と見えるが、ユーザAは少なくとも先行利益は確保している筈である。また、このような考え方から、可能な限り自社が権利留保することを方針としているベンダであれば、ユーザAがユーザBの立場に立つ可能性がある。

(b)ユーザBが多数見込めるときは、ベンダは権利を留保すれば、ソフトウェアを製品として提供することもでき、ユーザ一般として見れば低価格で高品質なソフトウェアが利用できる

(c)ベンダがどのユーザに対しても著作権を譲渡していたのでは、全てのユーザについて常にゼロから開発を行うことになり、開発能力・生産性・ソフトウェア品質はいつまでも向上することがない。ユーザは著作権譲渡を簡単に受け入れるベンダを好ましいと思うかもしれないが、そのようなベンダは、いつまでも開発能力・生産性・ソフトウェア品質が低いままか、又は、契約を遵守するつもりがない可能性がある。そのようなベンダに開発を委託することがユーザの真の利益となるとは思われない。

上記の主張の対立については、何らかの方法で両者の利益調整を図らなければなりません。また、上記は、権利が帰属した当事者の相手方当事者はソフトウェアを利用できないことを前提とした議論ですが、相手方当事者に、適切な範囲でソフトウェアを利用する権利を与えることにより、利益調整は可能です。

なお、ユーザの主張のうち、(a)については所有権と知的財産権の譲渡を同一視・混同するもので適切でなく(例えば、本を購入した場合、その所有権は移転するがその著作権まで移転しない)、(c)については、そのような態様によるユーザの営業秘密の漏えいも、秘密保持条項に違反することになるので、その旨確認的に規定すればある程度対応可能です。

【「モデル契約」の提示する条項案】


モデル契約」(経産省・IPA(情報処理推進機構)発行)(45条)でも、ユーザ、ベンダが各自上記と同様の主張をするという意見を踏まえ、以下の各場合の条項案3案を提示しています(p. 17-19)。

【「モデル契約」A案】納入物に関する著作権は、原則としてベンダが保有し、ユーザは納入物のうち(コンピュータ)プログラムについて利用・利用許諾の権利を有する— なお、この案には、ユーザが納入物のうちプログラム以外のもの(例:外部設計書、マニュアル)について利用・利用許諾の権利を有する旨の明記がないが、これを明記すべきと思われる。

【「モデル契約」B案納入物に関する著作権に関しては、原則として汎用的な利用が可能なプログラム」(以下「汎用的プログラム」)の著作権はベンダが保有し、ユーザは汎用的プログラム「以外」の著作権を譲渡されるとともに、汎用的プログラムについては利用・利用許諾の権利を有する

【「モデル契約」C案納入物に関する著作権に関しては、原則として汎用的プログラムの著作権はベンダが保有し、ユーザは汎用的プログラム「以外」の著作権をベンダと共有し相互に自由利用・利用許諾できる— なお、この案には、ユーザが汎用的プログラムについて利用・利用許諾の権利を有することの明記はないが、これを明記すべきと思われる。

 

【本契約第①案:納入物等に関する著作権は、原則としてベンダが保有し、ユーザは納入物等について利用・利用許諾の権利を有する案】

骨子は「モデル契約」【A案】とほぼ同様です。

【第1項】 原則として著作権は乙(ベンダ)に帰属するものとしています。そうすることは、ソフトウェア開発のコスト削減、納期短縮、品質・信頼性向上等につながり、結局ユーザ一般の利益にもなり、社会経済上も望ましいと考えるからです。

「利用(.....翻案その他改変......を含む。.......)」としているのは、「翻案」は最高裁判決(江差追分事件・平成13年6月28日判決)で「既存の著作物......の表現上の本質的な特徴の同一性を維持つつ......別の著作物を創作する行為」とされているので、翻案を超える大幅改変・改良も含め、ユーザ(甲)が自ら又は乙以外の他のベンダに委託してかかる改変ができるようにするためです。

利用(......その複製、翻案又は改変したものの利用を含む.......)としているのは、著作権法2条1項11号に定義される「二次的著作物」(著作物を翻案することにより創作した著作物)について、同法28条で、『二次的著作物の原著作物の著作者[ここではベンダ]は、当該二次的著作物[ここでは本件ソフトウェアをユーザが翻案等改変したもの]の利用に関し、......当該二次的著作物の著作者[ここではユーザ]が有するものと同一の種類の権利[例えば複製権・翻案権]を専有する。』と規定されていることによります。同条によれば、例えば、ユーザが本件ソフトウェアを翻案等改変したものを第三者が利用するには、当該改変物(二次的著作物)の著作者であるユーザの許諾の他、原著作物である本件ソフトウェアの著作者であるベンダの許諾を得なければならないことになります。そこで、本項では、「利用」に本件ソフトウェアの改変したものの利用が含まれることを明記し、ユーザは、(改めてベンダの許諾を得ることを要せず)第三者にその「利用」を許諾できることを明確化としました。

「著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)」としているのは、著作権法61条2項で、著作権を譲渡する契約において法第27条(翻訳権、翻案権等)及び法第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する、と規定されていることとの関係から、これらの権利も含めた著作権が譲渡されることなく乙に帰属することを明確化するためです(なお、後記の本契約第②案ではこれらの権利も含めた著作権が譲渡されることを明確化)。

「甲又は第三者が従前から保有していた著作権」は、それらが納入物等に含まれている場合でも、当然に乙に帰属しません。

【第2項】 甲は、乙又は第三者に著作権が帰属する部分を含め、「納入物等」(本件ソフトウェアの他、外部設計書、マニュアル、仕様の案等を含む)の全部を、甲自ら又は個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者が納入物等を利用するのに必要な範囲で、利用し、また、当該第三者にその利用を許諾できる旨規定しています。ユーザとしてはその利用・利用許諾が本来的目的のはずで通常それで十分だからです。

「個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者」とは、例えば、甲(ユーザ)とともに本件ソフトウェアを利用する予定の甲の子会社等です。

「著作者人格権」は、財産的権利である「著作権」(複製権・翻案権等)とは別の権利で、「著作者」(著作物を創作した者:法2条1項2号)(ソフトウェア開発委託では通常ベンダ)に一身専属的に帰属し他に譲渡できず(法59条)、その内容としては、「公表権」(公表・公表の時期方法決定権)、「氏名表示権」(著作者名表示・実名変名表示決定権)及び「同一性保持権」(内容・名称を無断改変されない権利)(法第18条~20条)が含まれます。

上記の通り、乙が甲に許諾する権利には、第三者への利用許諾(その第三者が不特定多数なら公表に該当)及び翻案その他改変を行う権利が含まれますが、著作者である乙が著作者人格権を行使すると、甲に許諾した権利が制限される可能性がある[2]ので、乙は許諾の範囲内で「著作者人格権を行使しない」ものとしています。

(「モデル契約」におけるユーザの本件ソフトウェア利用可能範囲)「モデル契約」(A案・B案)では、ユーザ(甲)は、「著作権法第47条の3」(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)及び「著作権法第47条の6第1項第2号」(著作権法改正により2021年1月1日以降同第6号)に従って、「自ら電子計算機で実行するために必要な限度で」、本件ソフトウェアを複製及び翻案することができるとされています。

しかし、この「モデル契約」の条件のもとでは、ユーザ(甲)が、本件ソフトウェアの翻案を超える大幅な改変・改良をすることができるのか等が不明なように思われます。また、「モデル契約」は、上記の通り、著作権法の具体的条文を引用していますが、同法の改正によりその条文内容・条文番号は変わってしまい、後日契約内容の把握に支障をきたします。

そこで、本契約では、ユーザ(甲)が大幅な改変・改良ができるよう特に制限を付けずに、また、著作権法の条文を引用せず、「甲は、納入物等を自ら利用(複製及び翻案その他改変、並びにその複製、翻案又は改変したものの利用を含む。以下同じ)......できると規定しています。

【第3項】 乙は、納入物等の利用上如何なる方法によっても、例えば、本件ソフトウェアからユーザの営業秘密が窺い知ることができる場合はそれを第三者に開示することにより、秘密保持義務に違反してはならないことを確認的に規定しています。ユーザの営業秘密の漏えいの懸念に対応するためです。

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【本契約第②案:納入物等に関する著作権は、原則としてユーザに譲渡・保有されベンダは納入物等について利用・利用許諾の権利を有する案】
 

第17条 (納入物等の著作権及びその利用)


1.      納入物等に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、当該個別契約に係る委託料が完済されたときに乙から甲へ譲渡されたものとする。なお、かかる著作権譲渡の対価は、委託料に含まれるものとする。


2.      甲は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物を含め、納入物等を自ら利用(複製及び翻案その他改変、並びにその複製、翻案又は改変したものの利用を含む。以下同じ)し、また、個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者にその利用を許諾できるものとする。乙は、これらの利用について著作者人格権を行使しないものとする。なお、かかる利用及び利用許諾の権利の対価は、委託料に含まれるものとする。


3.      乙は、納入物等を自ら利用(複製及び翻案その他改変並びにその複製、翻案又は改変したものの利用を含む。以下同じ)し、また、第三者にその利用を許諾できるものとする。


4.      乙は、前項に定める利用及び利用許諾を行う場合、如何なる方法によっても、第20条(秘密保持)に違反してはならない。


【解 説】


【第1項】 原則として著作権は甲(ユーザ)に譲渡されるものとしています。

納入物等に関する著作権」に関し、ユーザ側から、「本件業務遂行の過程で生じた全ての著作権」等とすることが要求される場合がありますが、これは以下の理由から適切ではないと思われます。

(a)ユーザは納入物等を利用できればいいのであるから、納入物等に含まれていない以上、納入物等の開発過程で作成したが最終的には納入物等に含まれなかったソフトウェア等の著作権をユーザに譲渡する必要性がない。

(b)仮にこれを譲渡対象に含めた場合には、ベンダがより良いソフトウェア等を開発しようと試行錯誤するインセンティブを減殺するおそれがある。

「乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権」は、当該著作物が納入物等に含まれている場合でも、譲渡されません。第三者の著作権は当然ですが、乙の著作権も、乙がそれを甲からの委託とは無関係に従前から保有していたのにその著作物を本件ソフトウェアに組み込んだだけで甲に取り上げられてしまうのは不合理で、また、もし甲に取り上げられてしまうなら、乙はいくらよいものでも利用しようとしないからです。

「委託料が完済されたとき」は、甲の支払能力に特に懸念がなければ検収時又は納入時でも問題ないでしょう。

「なお、かかる乙から甲への著作権譲渡の対価は、委託料に含まれるものとする」は、公正取引委員会の役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独禁法上の指針(最終改正:平成29年6月16日)の「7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」に、要旨以下のような記述があり、これを意識したものです。

(要旨)受託者が作成した情報成果物について、取引上優越した地位にある委託者が、一方的に当該成果物に係る著作権、特許権等の権利を委託者に譲渡させる場合、その譲渡の対価を別途支払ったり、当該対価を含む形で対価に係る交渉を行っていると認められる場合を除き、優越的地位の濫用として問題を生じやすい

【第2項】 甲等は、第1項において甲への著作権譲渡対象から除かれている「乙又は第三者が従前から保有していた著作物」についても利用権がなければ、本件ソフトウェアを全体としては利用できないので、本項で利用許諾しています。なお、第三者が従前から保有していた著作物について、乙ではなく甲が直接利用権の許諾を受けることとする場合には、その旨、開発請負業務の個別契約に定めるかまたは別途甲乙合意することになります。

【第3項】 第1項により甲に著作権譲渡される部分のプログラム(以下「譲渡プログラム」という)については、そのままでは、乙はその利用・利用許諾ができないところ、本項により、複製・翻案を含む利用・利用許諾権(以下単に「利用権」という)が与えられることとなります。

(甲による乙の利用権拒否)甲(ユーザ)が、乙に利用権を与えることを拒否することがあるかもしれません。しかし、これは、以下の理由から非現実的かつ不合理と思われます。

(a)仮に、乙に利用権が与えられない場合、乙は、他のユーザのために譲渡プログラムを利用できる場合であっても、そもそも譲渡プログラムに依拠しない(全く参照しない)か、又は依拠したとしても開発したソフトウェアが譲渡済みプログラムに類似しない(複製は勿論、翻案にも該当しない)ようにしなければならない。何故なら、この依拠性及び類似性の両方があると、乙は、利用権がない以上、甲の譲渡プログラムの著作権を侵害してしまうことになるからである。[3]

(b)しかし、依拠性を否定するには、他のユーザのためのソフトウェア開発は、譲渡プログラムを作成した者(譲渡プログラムの内容が記憶に残っている可能性がある)以外のエンジニアに行わせ、かつ、そのエンジニアによる譲渡プログラム参照を禁止すること等が必要となる。また、依拠したとしても類似性を否定するには、他のユーザのために開発するソフトウェアを、譲渡プログラムの翻案の範囲を超える程度にあえて改変する必要がある。

(c)このようなことは、ソフトウェアエンジニアが同種のソフトウェア開発を繰り返し経験することにより、又は過去に自ら又は他のエンジニアが開発したソフトウェアを参照・利用することにより、ソフトウェア開発の技術を向上させ、そのことにより、ベンダがより高品質・低コストのソフトウェア開発をユーザに提供できるようになることを否定する結果となる

【第4項】 前述の本契約第①案第3項の趣旨と同趣旨です。

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【本契約第③案:納入物等に関する著作権は、原則としてユーザに譲渡・保有されベンダは汎用的プログラムについて制限付きで利用・利用許諾の権利を有する案】 — 前記の本契約第②案と比べ、第3項のみ異なり、他は同じ。

 


第17条 (納入物等の著作権及びその利用)


1.      納入物等に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、当該個別契約に係る委託料が完済されたときに、乙から甲へ譲渡されたものとする。なお、かかる著作権譲渡の対価は、委託料に含まれるものとする。


2.      甲は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物を含め、納入物等を自ら利用(複製及び翻案その他改変、並びにその複製、翻案又は改変したものの利用を含む。以下同じ)し、また、個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者にその利用を許諾できるものとする。乙は、これらの利用について著作者人格権を行使しないものとする。なお、かかる利用及び利用許諾の権利の対価は、委託料に含まれるものとする。


3.      乙は、納入物等に含まれる汎用的な利用が可能なプログラム(使用頻度の高い定型的処理を行い他のプログラムの部品として使用されるモジュールレベルのプログラムであって、当該部品レベルを超えるプログラム、本件ソフトウェアの全体等を含まないものとする)を、他のソフトウェアの部品として自ら利用(複製及び翻案その他改変、並びにその複製、翻案又は改変したものの利用を含む。以下同じ)し、また、甲に従前から存在し甲特有かつ未公開のノウハウその他の情報が第三者により確認又は推測されるおそれがある場合を除き、かかる利用を第三者に許諾できるものとする。


4.      乙は、前項に基づき許諾された利用及び利用許諾を行う場合、如何なる方法によっても、第20条(秘密保持)に違反してはならない。


【解 説】


前記の本契約第②案の第3項では、乙に利用及び利用許諾の権利が与えられる対象が「納入物等」(の全部)とされているところ、本案ではその対象を「納入物等に含まれる汎用的な利用が可能なプログラム」(以下「汎用的プログラム)」)に限定し、かつ、その意味及び利用・利用許諾の範囲を限定したものです。他の部分は本契約第②案と同じです。

「汎用的な利用が可能なプログラム」は、「モデル契約」(45条)のB案及びC案に用いられている用語ですが、「モデル契約」ではその定義及び上記のような限定はありません。これには以下のような問題があると思われます。

(a)「汎用」の意味は曖昧・非一義的で辞書的によっても異なる説明がある。従って、「汎用的な利用が可能な」の意味・程度・範囲が客観的に定まらないし、その範囲を開発前に確定することは困難であること。

(b)仮に納入時にその範囲を確定しようとしてもユーザがその適切さを判断することは一般的に困難であり、また、事後的な確定ではその範囲自体が争いの原因になり得ること。

(c)「モデル契約」(45条)のB案でもC案でも汎用的プログラムの著作権は乙(ベンダ)が保有し、ユーザは汎用的プログラム「以外」の著作権を保有・共有する。この場合、「汎用的な利用が可能な」を単に「他に転用できる可能性があること」と解すれば、本件ソフトウェアのうちそのほとんどが汎用的プログラムに該当し、ベンダはその著作権を保有し他に自由に転用できる[4]。一方、ユーザが著作権を保有・共有する汎用的プログラム「以外」の著作権はほとんど中身がないことになる。

そこで、本項では、上記(a)~(c)のような問題を完全には解決できないものの、著作権を原則としてユーザに譲渡するとともに、①汎用的プログラムを定義し、②それを乙による著作権保有ではなく利用・利用許諾権の対象とし、③その用途を「他のソフトウェアの部品として利用」に限定し、更に、④乙から第三者へのその利用許諾は、甲の固有・特有かつ非公開のノウハウ等(本契約第20条の「秘密情報」とは異なり必ずしも秘密表示を要しない)が確認・推測されるおそれがない場合に限り可能とする旨規定しました。

 

今回はここまでです。

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「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[5]

[1] 【本稿作成上モデル契約以外で主に参考とした資料】(1)西本強「ユーザを成功に導くシステム開発契約―クラウドを見据えて〔第2版〕」 2016/7/8、商事法務(以下「西本」). (2)伊藤雅浩・久礼美紀子・高瀬亜富「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」 商事法務、2021/10/18(以下「伊藤他」). (3)阿部・井窪・片山法律事務所(編集)「契約書作成の実務と書式- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版」2019/9/24(2021/2/20補訂)(以下「阿部・井窪・片山法律事務所」). (4)上村哲史、田中浩之、辰野嘉則「ソフトウェア開発委託契約 交渉過程からみえるレビューのポイント」2021/7/22、中央経済社(以下「上村他」). (5)愛知県弁護士会 研修センター運営委員会 法律研究部 契約審査チーム(編集)「新民法対応 契約審査手続マニュアル」 2018/3/5、新日本法規出版(以下「愛知県弁護士会」という). (6)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会(編集)「実務家のための逐条解説 新債権法」 2021/10/13、有斐閣(以下「逐条」という).(7) 池田聡「システム開発 受託契約の教科書」2018/1/17, 翔泳社(以下「池田」). (8)難波修一,中谷浩一,松尾剛行「裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務」2017/2/27、商事法務(以下「難波他」)

[2] 著作権法20条2項3号により、同一性保持権は、「特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変」に及ばない。従って、敢えて「著作者人格権を行使しない」と規定しなくても、OSのバージョンアップに対応するための修正やバグの修正は、同一性保持権により制限されることはないと思われる。しかし、当該「必要な改変」の限度を超える大幅改変はやはり同一性保持権により制限されることになる。

[3] 【著作権侵害の判断基準】 (参考) 唐津真美「著作権侵害の判断基準(デザインの「パクリ」を題材に)」 2016年09月30日, Business Lawyers

[4]「モデル契約」上のベンダの転用権】 更に、「モデル契約」46条では以下の通り規定されており、秘密保持義務に反しない限り、乙が本件ソフトウェア全体又は汎用的プログラムを転用できることが明確化されている。(46条乙は、第41条(秘密情報の取扱い)に反しない範囲において、乙が著作権を保有する本件ソフトウェアその他の納入物を利用することができる。2. 前項による利用には、有償無償を問わず乙が本件ソフトウェアの利用を第三者に許諾し、又はパッケージ化して複製物を販売する場合を含むものとする。」

[5]

【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては, 自己責任の下, 必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐ等してご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を日本・米系・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格 (現在は非登録)。2003年Temple University Law School  (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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