QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第37回ソフトウェア開発委託契約:再委託~特許権等
2022/12/01   契約法務, 下請法

第34回からソフトウェア開発委託契約について具体的な条項を提示した上解説しています。[1] 今回は、以下目次のQ16~Q20の再委託/業務責任者及び業務従事者/協議/納入物等の所有権及び危険負担/納入物等の特許権等に関する規定例を提示しその内容を解説します。

 

【目  次】

Q1:本契約で対象とするソフトウェア開発委託

Q2:契約名称・前文

Q3:目的及び個別契約 (以上第34回)

Q4:定 義

Q5:仕様確定支援業務(準委任業務)の個別契約例

Q6:仕様確定支援業務の実施

Q7:仕様確定支援業務に係る業務終了報告書の提出・確認

Q8:仕様確定支援業務に係る委託料及び費用負担

Q9:仕様の確定 (以上第35回)

Q10:開発請負業務(請負業務)の個別契約例

Q11:開発請負業務の実施

Q12:本件ソフトウェアその他納入物の納入・検収

Q13:開発請負業務に係る委託料及び費用負担

Q14:契約不適合責任

Q15:仕様の変更 (以上第36回)

Q16:再委託

Q17:業務責任者及び業務従事者

Q18:協 議

Q19:納入物等の所有権及び危険負担

Q20:納入物等の特許権等 (以上今回第37回)

Q21:納入物等の著作権

Q22:知的財産権の侵害に対する責任

Q23:個人情報の取扱い

Q24:秘密保持並びに資料等の利用目的及び返還

Q25:解除及び期限の利益喪失

Q26:反社会的勢力の排除

Q27:損害賠償

Q28:その他一般条項

Q29:契約書末尾

本稿のPDFはこちらから


 

Q16:再委託


A16:以下に規定例を示します。なお、以下、契約規定例中に、強調又は解説の便宜上、下線を引いている箇所があります。
 

4章 共通条項


 


12(再委託)


1.      乙は、本条に従い事前に甲が承諾した場合に限り、本件業務の一部又は全部を第三者に再委託することができるものとする。


2.      乙は、本件業務の一部又は全部を第三者に再委託しようとする場合、事前に、甲に対し、その旨、再委託対象業務、当該第三者の名称、住所、事業内容、再委託の理由その他再委託に関する情報を記した書面を提出し甲の承諾を申請するものとする。


3.      甲は、前項の書面(以下「再委託申請書」という)受領後2週間以内に、当該再委託を承諾するか否かを書面で乙に通知するものとする。


4.      甲が再委託申請書に対しこれを承諾する旨を乙に書面で通知した場合には当該通知の時点で、甲が前項の期間が経過するまでに諾否いずれの通知も書面でしなかった場合にはその経過時点で、当該再委託が再委託申請書記載内容の通り甲により承諾されたものとする。


5.      前各項は、既に個別契約に記載され甲が承諾している再委託に関しては適用しない


6.      乙は、再委託先との間で、事前に、再委託対象業務に関し、乙が本契約に基づき負う義務と同等の義務を再委託先に課す再委託契約を締結するとともに、再委託先がかかる義務を遵守するよう、再委託先に対する必要かつ適切な監督を行うものとする。


7.      乙は、再委託先による再委託対象業務の履行について、自ら当該業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。


【解 説】


第4章では、仕様確定支援業務及び開発請負業務(「本件業務」)に共通して適用される条項を規定しています。

本条は、再委託について定め、仕様確定支援業務(準委任)、開発請負業務(請負)いずれについても、原則として、ユーザ(甲)の承諾(事前承諾又は個別契約における同意)が必要としています。

民法上、準委任では、委任者の受任者に対する信頼が基礎にあるので原則として再委託はできず(民法104条が根拠と考えられる)、一方、請負では、仕事を完成しさえすればその仕事を誰がしてもよいので再委託は制限されないと解されています[2]

モデル契約(経産省・IPA(情報処理推進機構)発行)では、「単一のベンダが大規模なソフトウェア開発を行うことは非現実的であり、多数の再委託先を起用している実態がある」(p. 80)との認識のもと、準委任・請負共通で、【A案 再委託におけるユーザの事前承諾を設ける場合】の他、【B案 再委託先の選定について原則としてベンダの裁量(但し、ユーザの中止請求が可能)とする場合】が提示されています(7条、p. 79-81、15,16)。

しかし、本契約では、以下の理由から、再委託にはユーザの事前承諾を要するものとしつつ、その申請・承諾の手続を定めています

(a)本契約では中小規模開発(開発期間最大1年程度の中小規模のソフトウェア開発)を前提としていること。

(b)ベンダ一の選定が仕様確定・ソフトウェア開発成功の成否・品質に大きな影響を与え、また、一般的には、再委託先、再々委託先と進んでいけばいくほど、それら企業の開発能力・品質、情報漏えい防止体制等が低下し、ユーザによる管理も困難になると考えられること。

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Q17:業務責任者及び業務従事者


A17:以下に規定例を示します。
 

第13条 (業務責任者及び業務従事者)


1.      甲及び乙は、本契約又は個別契約の変更又は解除を除き、本件業務遂行上必要な重要事項に関し、各自の内部調整及び意思決定並びに相手方に対する請求・同意その他の意思表示を行う権限及び責任を有する者(以下「業務責任者」という)を選任し、各個別契約締結後速やかに相手方に書面で通知するものとする。


2.      乙は、その業務責任者の指揮命令のもとで本件業務に従事する乙の従業員(以下「業務従事者」という)を、本件業務を遂行する十分な知識経験・スキルを有する者の中から選定するものとする。


3.      乙は、労働法規その他関係法令に基づき業務責任者及び業務従事者(以下「業務責任者等」という)に対する雇用主としての一切の義務を負うものとし、業務責任者等に対する本件業務遂行に関する指示、労務管理、安全衛生管理等に関する一切の指揮命令を行わなければならない。


4.      乙は、本件業務遂行上、業務責任者等が甲の事務所等に立ち入る場合には、甲の防犯、秩序維持等に関する諸規則を当該業務責任者等に遵守させなければならない。


5.      甲及び乙は、各自の業務責任者を変更する場合には、事前に相手方に通知しその同意を書面で得なければならない。相手方は、合理的理由なく、当該変更を拒否してはならない。


【解 説】


ソフトウェアの開発委託は、ユーザの欲するソフトウェアをベンダが開発することを目的とする作業ですから、その目的達成には、ベンダの作業のみならずユーザの協力、ユーザとベンダの意思疎通及び必要な協議、並びにそのための各自の体制整備が必要です。

この点に関し、大規模開発を前提とする「モデル契約」では、「第2章 本件業務の推進体制」として、独立した章を設け、以下のような詳細な規定を置いています

第8条(協働と役割分担)甲によるシステム仕様書の早期かつ明確な確定、及び甲乙による共同作業・分担作業の必要性/共同作業・分担作業の基本契約別紙及び個別契約での明定/共同作業・分担作業遅延による賠償責任

第9条(責任者)各自の責任者選任義務/責任者変更(事前通知のみで可)/各自の責任者の権限の明細/責任者複数の場合の総括責任者選任

第10条(主任担当者)責任者の下に連絡確認・調整を行う主任担当者の選任義務/主任担当者の変更(事前通知のみで可)

第11条(業務従事者)本件業務に従事する乙の従業員の選定(乙が行う)/雇用主としての義務・指揮命令/甲事務所等に立ち入る場合の甲諸規則遵守

第12条(連絡協議会の設置)本件業務・共同作業・分担作業の進捗・実施状況、問題点協議・解決等を協議するため連絡協議会を個別契約で定める頻度で定期開催及び必要な都度随時開催/その出席者/連絡協議会決定事項の拘束性/議事録作成・承認・押印手続

第13条(マルチベンダの調整等の責任)[3]分割発注における甲の調整等の責任

これに対し、本契約では、中小規模開発を前提としていること、仕様確定後の業務は一括してベンダが請負いユーザの関与は必要な協力程度にとどまると思われること、上記のような詳細・厳格な手続規定までは必要なく、また、現実には履行されないおそれがあると思われること等を考慮し、中小規模開発でも特に規定しておいた方がよいと考えられる事項に絞り、当該事項に関し、第3条第2項・第6条第2項(甲の協力)、第13条(業務責任者及び業務従事者)、及び次に説明する第14条(協議)により、比較的簡単に規定しています。

なお、「モデル契約」では、責任者の変更が相手方への事前の書面通知のみでできることとされていますが、本契約では、業務責任者の変更は、ソフトウェア開発に重要な影響を与え得ると思われることから、相手方の書面同意を要するものとしています(但し、相手方は合理的理由なく拒否不可)。

【第3項】

実態は労働者派遣であるのに、労働者派遣法上の義務・制約を免れるため、請負契約や業務委託契約を締結し偽装することは、一般に「偽装請負」と呼ばれ取締りの対象となります(第33回Q6参照)。これに該当するか否かは、厚労省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に基づき、実態に即して判断されますが、本項では、第1項及び第2項とともに、「偽装請負」と判断されることがないように必要な条件を定めています

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Q18:協 議


A18:以下に規定例を示します。
 

第14条 (協議)


甲及び乙は、本件業務又は本件業務に関し甲が実施若しくは協力すべき事項の進捗・実施状況、問題点等に関連し相手方から確認、協議等を求められた場合、会議、回答その他の方法(電子的手段を含む)により、これに誠実に応じるものとし、その結果両者が同意し決定した事項については、これを甲及び乙の業務責任者が承認した書面で記録し保存するものとする。


【解 説】


前記の通り、「モデル契約」では、第12条(連絡協議会の設置)で甲乙間の協議を会議体で行うこと及びその頻度・出席者・決定事項の拘束性・議事録の作成・承認・押印手続等、詳細・厳格な手続を定めていますが、本契約では、中小規模開発及び近年の実務に即するよう、会議(ビデオ会議を含む)、回答(電子メールでのやりとりを含む)、その他電子的手段を含む協議手続を規定しています。また、協議の結果両者が同意し決定した事項の書面の作成・記録・保存も、本契約では第1条第2項で「書面(電子的なものを含む。以下同じ)」と定義しているので、電子的手段(電子署名を含む)で行うことができるものとしています。むしろ、紙での議事録作成ややりとりでは、後の証拠としての使用を含め、保存・検索等に関し問題があるかもしれません。

なお、甲乙間の同意・決定事項(本契約又は個別契約の変更又は解除を除く:13条1項)については、本条に従い業務責任者同士で書面で承認するものとしています。

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Q19:納入物等の所有権及び危険負担


A19:以下に規定例を示します。
 

第15条 (納入物等の所有権及び危険負担)


納入物等の所有権及び納入物等の滅失、毀損等の危険負担は、検収の時(但し、納入物以外のものは甲への納入の時)に乙から甲へ移転したものとする。


【解 説】


納入物等のうち記録媒体等を含む有体物の所有権の移転時期は乙(ベンダ)の立場からは「甲より乙へ当該個別契約に係る委託料が完済されたとき」(それまで所有権留保)が最も安全有利ですが、甲の支払能力に特に懸念がなければ本条の通りで検収の時でも問題ないでしょう。本契約では、納入物等の危険負担の移転も、公平の観点から所有権移転時期と同じにしています。

ちなみに、「モデル契約」では、所有権の移転時期は個別契約に定める時期(43条)、危険負担の移転時期は納入時(26条4項)としています。

なお、本契約では、所有権の目的物である有体物(民法85,206)としては、通常、本件ソフトウェア、仕様の案の記録媒体であるCD-ROM、紙等しかないので、その所有権の移転時期をいつにするかは有体物の売買の場合程には重要な問題ではありません。また、危険負担についても、本件ソフトウェア等が消失しても、通常は、ベンダが契約不適合責任履行等のためそのコピーを保存しているでしょうから、それ程重要な問題にはならないと思われます。

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Q20:納入物等の特許権等


A20:以下に規定例を示します。
 

第16条 (納入物等の特許権等)


1.      本件業務遂行の過程で生じ納入物等に実施又は適用された発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下総称して「発明等」という)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含む。但し、著作権は除く)、ノウハウ等に関する権利(以下、特許権その他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利を総称して「特許権等」という)は、当該発明等を行った者が属する当事者に帰属するものとする。


2.      甲及び乙が共同で行った発明等から生じた特許権等については、甲乙共有(持分は貢献度に応じて定める)とする。この場合、甲及び乙は、共有に係る特許権等につき、それぞれ相手方の同意及び相手方への対価の支払いなしに自ら実施し、又は第三者に対し通常実施権を許諾することができるものとする。


3.      乙は、本件ソフトウェアに関し乙が保有する特許権等について、甲に対し、甲及び個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者が本件ソフトウェアを利用するのに必要な範囲で、当該特許権等の通常実施権を許諾したものとする。なお、かかる許諾の対価は、委託料に含まれるものとする。


4.      甲及び乙は、第2項又は前項に基づき相手方と共有し又は相手方に通常実施権を許諾する特許権等について、必要となる特許権等の取得又は承継の手続(職務発明規程の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等を含む)を履践するものとする。


【解 説】


納入物等の特許権等の帰属・実施等に関しては、基本的に「モデル契約」(44条)と同様の規定内容としました。但し、一部必要な修正等をしています。

【第1項】

本項は、本件業務遂行の過程で生じ納入物等に実施又は適用された発明等に係る特許権等は、当該発明等を行った者(従業員等)が属する当事者に帰属し、相手方に譲渡等されないとするものです。

「モデル契約」では、単に「本件業務遂行の過程で生じた発明......」ですが、本条では、「本件業務遂行の過程で生じ納入物等に実施又は適用された発明......」に限定しています。これは、本件業務遂行の過程で生じた発明であっても、納入物等に実施又は適用されることがなかった発明についてまで本契約で取決める必要はなく特許法の原則(発明者に帰属・共有)通りとすれば足りると思われるからです。

本条では、甲(ユーザ)が単独又は共同で発明等を行う場合も想定していますが、ユーザ自身がソフトウェア開発企業である場合(例:元請け)を除き、現実に本件業務遂行の過程でユーザが発明等を行うことはほとんどないと思われます。従って、本件業務遂行の過程で発明が行われるとしても、それは、多くの場合ベンダ側単独で行われ、その場合本項により特許権等はベンダに留保され単独帰属することになります。

これに対し、ユーザは、ベンダ単独で行った発明等に係る特許権を含め全ての特許権の譲渡を要求する場合がありますが、これは、以下のような理由から妥当でないと思われます。

(a) 著作権は請負業務により著作物であるコンピュータプログラムを作成すれば必ず発生する。従って、特別な事情がない限り、請負委託料の中にその譲渡の対価が含まれているとの解釈も成り立ち得る。これに対し、特許を受けることができる程の技術的進歩性[4]を有する発明は請負業務を行えば必ず生まれるものではなく、ベンダの特別の能力と努力の結果初めて生まれる可能性があるものである。従って、事前には、生まれるか否か、また、その内容も分からない発明に対する権利の譲渡対価を予め織り込んで請負の委託料を見積もることは不可能であり、請負の委託料の中に当該対価が含まれているという主張は成り立ちにくい

(b)  例え、ベンダが革新的なソフトウェアを開発するために特許に値する発明をしたとしても、最初からその権利はユーザに譲渡される定めになっている場合には、ベンダとしては、あえて苦労をしてそのような発明をしようとは思わないであろう。むしろ、そのような定めはベンダが技術的に優れたソフトウェアを開発する妨げとなるおそれがある。

(c) ノウハウ(例:特許を受けることができる技術レベルに達しないノウハウ、特許の対象とならないノウハウ等)についても基本的に上記と同様のことが言える。

【第2項】

甲乙共同で発明等をした場合、その特許権等は、特許法上も、本項第1文の通り甲乙共有となります。各共有者は、その特許発明を自ら実施する場合は、特許法上も本項と同様、相手方の同意及び相手方への対価の支払いを要せず、自由に実施できます(特許法73条2項)。

しかし、各共有者がその共有特許権について第三者に専用実施権を設定し又は他通常実施権を許諾する場合には、特許法上は相手方の同意を要します(同法73条2項)。これに対し、本項第2文では、共有特許権の第三者への通常実施権許諾については、特許法とは異なり、相手方の同意及び相手方への対価の支払いを要せず、自由に行えるものとしています。

【第3項】

・本項では、「本件ソフトウェアに関し乙(ベンダ)が保有する特許権等について」、甲(ユーザ)及び個別契約において本件ソフトウェアを利用する者として特定された第三者(例:本件ソフトウェアを甲とともに利用する甲の子会社)が本件ソフトウェアを利用するのに必要な範囲で、当該特許権等の通常実施権を許諾したものとするとしています。そうでなければ、甲及び当該第三者が本件ソフトウェアを利用できないからです。ここで、「許諾したものとする」とは、改めて許諾の意思表示・契約等を要せず自動的に許諾されたものとみなすという趣旨です。

この点、モデル契約」では、上記の下線部分が、「第1項に基づき特許権等を保有することとなる場合、」とされています。しかし、それでは、反対解釈として、「本件業務遂行の過程で[乙に]生じた特許権等」ではなく、従前より乙が有していた特許権等については通常実施権の許諾はされず、許諾には別途契約が必要だと解される可能性があります[5]これは、ユーザにとり予想外かつ不合理なので、本契約では、両方の特許権等が許諾の対象となるよう、上記の通りとしています。

・なお、ここでは、甲等が本件ソフトウェアを利用するために必要な他社保有の特許権等については触れていませんが、これについては、次回以降で解説する、本契約第18条(知的財産権の侵害に対する責任)でカバーされます。すなわち、乙は、そのような他社保有の特許権等を侵害しないよう本件ソフトウェアを設計しなければならず、もし、それができなければ、予めその他社から甲等への実施許諾権を得ておくか、さもなければ、同条により責任を負うことになります。

【第4項】 [6]

本件業務遂行の過程で生じる発明は、甲・乙(使用者)の従業員等(自然人)により行われ、従って、その発明は通常特許法 35条1項の「職務発明」に該当し、その発明に係る特許を受ける権利は原則として当該従業員等に帰属します(特許法29条1項柱書)。しかし、甲・乙が、本条に基づき特許権(特許を受ける権利を含む)を相手方と共有し、又は相手方に通常実施権を許諾するには、前提として甲・乙が各自の従業員等のした発明について特許権を有していなければなりません。ここで、職務発明については、勤務規則等(職務発明規定等)で予め使用者である甲・乙に特許を受ける権利を取得(原始的帰属)又は承継(譲渡)させることを定めた場合には、甲・乙に原始的に帰属させ又は譲渡させることができる(特許法35条3項・同条2項反対解釈)とされています。そこで、本項では、甲乙は、各自、このような「必要となる特許権等の取得又は承継の手続(職務発明規程の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等を含む)を履践するものとする」としたものです。

なお、本項の「必要となる特許権等の取得」には、ベンダが納入物等の開発を再委託した場合において、その再委託先がした発明等であって納入物等に実施又は適用されたものに係る特許権等について、ベンダがその再委託先から譲渡を受けることを含みます

【ユーザの立場から第2項を削除する案】

仮に、第2項のように、ユーザがベンダと共同で発明を行う場合には、その発明にユーザ特有のノウハウ等が含まれる可能性があると思われます。従って、ユーザとしては、そのようなユーザ特有のノウハウ等の流出を防止するため、第2項を全部削除して特許法通りとし、第三者への通常実施権許諾についても相手方の同意を要することとすることが考えられます

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今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[7]

【注】

[1] 【本稿作成上モデル契約以外で主に参考とした資料】(1)西本強「ユーザを成功に導くシステム開発契約―クラウドを見据えて〔第2版〕」 2016/7/8、商事法務(以下「西本」). (2)伊藤雅浩・久礼美紀子・高瀬亜富「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」 商事法務、2021/10/18(以下「伊藤他」). (3)阿部・井窪・片山法律事務所(編集)「契約書作成の実務と書式- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版」2019/9/24(2021/2/20補訂)(以下「阿部・井窪・片山法律事務所」). (4)上村哲史、田中浩之、辰野嘉則「ソフトウェア開発委託契約 交渉過程からみえるレビューのポイント」2021/7/22、中央経済社(以下「上村他」). (5)愛知県弁護士会 研修センター運営委員会 法律研究部 契約審査チーム(編集)「新民法対応 契約審査手続マニュアル」 2018/3/5、新日本法規出版(以下「愛知県弁護士会」という). (6)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会(編集)「実務家のための逐条解説 新債権法」 2021/10/13、有斐閣(以下「逐条」という).(7) 池田聡「システム開発 受託契約の教科書」2018/1/17, 翔泳社(以下「池田」). (8)難波修一,中谷浩一,松尾剛行「裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務」2017/2/27、商事法務(以下「難波他」)

[2] 【準委任・請負における再委託の可否】永里佐和子「協力会社への再委託の可否」2017.2.28、内田・鮫島法律事務所

[3] 【「モデル契約」第13条(マルチベンダの調整等の責任)の条項のタイトルは「モデル契約」第1版では、「プロジェクトマネジメント責任」であった。しかし、「プロジェクトマネジメント」は、判例等、一般には、ベンダ(乙)の責任の問題として議論される(参考:尾城 亮輔 「プロジェクト・マネジメント義務と協力義務」2018年01月29日、Business Lawyers)。そこで、「モデル契約」第2版では「マルチベンダの調整等の責任」との条項タイトルに変更したものと思われる。なお、ベンダのプロジェクトマネジメント責任については、そのような名称の条項はない。「モデル契約」(第2版)の第8条(協働と役割分担)及び第13条(連絡協議会の設置)第4項の解説(p.82、88)によれば、それらが、ベンダのプロジェクトマネジメント責任に関する規定のようである。

[4] 【発明の進歩性】 特許を受けるための実体的要件は、出願が他の誰よりも最先願であること等(39、29の2)の他、その発明に新規性(公知・公用等ではないこと)、進歩性(公知公用等の発明に基づいて容易に発明できたものではないこと)及び産業上の利用可能性があることである(特許法29)。この内特許性判断において通常最も問題となるのは進歩性である。

[5] 【従前よりベンダが有している特許権等のユーザへの実施許諾】実際、ベンダ側が「モデル契約」を一部修正して作成したJEITA「《2020年版ソフトウェア開発モデル契約及び解説》」の「第3編(本モデル契約の条文解説)」(p. 105)には、同じ「第1項に基づき特許権等を保有することとなる場合、」との文言に関連し、以下のように記載している。「1.従前よりベンダが有していた特許権等の実施許諾  本契約では、開発された本件ソフトウェアの使用の際に、従前よりベンダが有している特許権等を使用する場合の条件については特段定めていない。実際の案件において、このような状況が生じた場合、本契約とは別に、ベンダ保有特許権等の実施許諾の条件についてユーザ・ベンダ間で合意されたい。」

[6] 【特許法上の職務発明の取扱い】 (参考)三枝国際特許事務所「1.発明者の法的地位・職務発明制度

[7]

==========


【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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